クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について

沢田美

文字の大きさ
3 / 87

クラスのマドンナがメイドになるまで

しおりを挟む
「どうしたの? 大丈夫?」

 悠里は俺をじっと見つめ、心配そうに声をかけた。その視線に耐えられず、俺は少しだけ俯く。

「あ、そうだ!」 

 彼女は突然思い立ったようにスマホを取り出し、俺の方へ差し出した。

「私の連絡先、交換しようよ! これさえあれば、気軽に話せるでしょ?」

 ――そんなの、俺にはもったいない。

 言葉を飲み込んだ瞬間、遠くから女子たちの声が響く。

「ちょっとー! 悠里ー? 何してんのー? 早く行こうよ!」

 悠里はそちらに視線を向けると、少しだけ申し訳なさそうな顔をした。

「分かった!」 

 そう返事をすると、再び俺の方を向いて――。

「あ、ごめん! 連絡先の交換、放課後でいいかな?」

「あ、う、うん。大丈夫です」

「ありがとう! じゃあ、気軽に話しかけてね」

 そう言い残して、彼女は友達の元へと向かっていった。

 俺はその背中をただ見つめることしかできなかった。



 授業が終わると同時に、教室は帰宅準備をする生徒たちで賑わい始める。

 俺は窓の外をぼんやりと眺めながら、心の中で葛藤していた。

 ――放課後、悠里と連絡先の交換。

 だが、それが本当に必要なのだろうか? 彼女はきっと善意で言っただけ。俺みたいな奴と本気で友達になりたいなんて思っているはずがない。

「……帰ろう」

 そう決めると、静かに荷物をまとめ、席を立った。



 校舎の出口に向かう途中、下駄箱の前で嫌な気配を感じた。

「お、裕貴くんじゃん!」

 その声を聞いた瞬間、俺の中で最悪の記憶がフラッシュバックする。

 ――中学時代の笑い声。
 ――踏みつけられた教科書。
 ――嘲笑いながら俺を見下ろす顔。

 背筋が凍る。

 恐る恐る顔を上げると、そこにいたのは、俺をずっといじめていた男――杉本だった。

「お前さ、金持ってるよな? 今日、ダチと飯行くんだけどさ、奢ってくんね?」

「も、持ってないよ。お金なんて……」

 声が震えるのが自分でもわかった。

 だけど、杉本はそれを許さない。

「嘘つけよ、金持ちのお坊ちゃんがさァ……」

 ゴツい手が俺の肩をがっしりと掴む。

 強い力に思わず体がすくむ。

「おい、杉本。そんな奴に構ってねぇで、さっさと行こうぜ?」

 取り巻きの一人が、軽く笑いながら促す。

「いやいや、せっかくの裕貴くんだし? 親が金持ちなんだから、ちょっとぐらい出してくれてもいいだろ?」

 杉本はニヤニヤと笑いながら、俺のバッグに手をかける。

 このままじゃ、またあの頃の繰り返しだ。

 誰も助けてくれない。
 親も、先生も、友達も……。

 俺はバッグの中から財布を取り出そうとした。

 その時だった。

「ちょっとアンタら、何してんの?」

 ハッと顔を上げると、そこには悠里が立っていた。

 驚いたように杉本の取り巻きの一人が声を上げる。

「あ、もしかして……悠里ちゃんじゃん?」

 その瞬間、杉本の視線が俺から悠里へと移る。

 興味を持ったように口元を歪めた彼は、俺の肩を乱暴に押しのけ、悠里の方へと歩み寄った。

「へぇ……ねぇ、悠里さん。俺らと一緒にカラオケ行かね?」

「お、杉本が悠里さんを狙ってるぜ!」

 取り巻きたちが騒ぎ出す。

 佐々木さん……。

 俺が止める間もなく、杉本は彼女の肩に手を置こうとした。

 しかし――。

 悠里はその手を素早く掴み、無表情のまま振り払った。

「……私の許可なく触らないで。不愉快」

 その瞬間、場の空気が一気に凍る。

 杉本の顔が引きつった。

 取り巻きの一人が気まずそうに「やべぇ、怒らせたんじゃね?」と囁く。

「ちぇっ……ノリの悪い女だな。おい、行くぞ」

 しばらく悠里と杉本は睨み合っていたが、やがて杉本は舌打ちをして、そのまま取り巻きを引き連れ、去って行った。

 悠里は最後まで彼を睨みつけたままだった。

 ……強いな、この人は。

 俺はそのまま帰ろうとした。

「ちょっと」

「え?」

 不機嫌そうな顔をした悠里が、俺の肩を掴む。

「なんで先に帰るの? 連絡先、交換しなくていいの?」

「あ、ご、ごめん……。でも、俺なんかが佐々木さんみたいな人と連絡先を交換するなんて、おこがましいっていうか……」

「それ、どういう意味?」

 悠里は呆れたようにスマホを取り出しながら言った。

「別に私、有名人でもなんでもないよ? ただ、友達と連絡先を交換するだけじゃん?」

「……友達……」

 その言葉が、胸に深く染み込む。

「ほら、携帯貸して。安心して、何も見ないから」

「あ、う、うん……」

 そうして、俺は初めて“友達”と連絡先を交換した。



 翌日、土曜日――。

 今日は家でゆっくり過ごそうと思い、本を読んでいた。

 そんな時、メイドの佐々木さんが部屋をノックする。

「坊っちゃん、少しよろしいですか?」

「あ、う、うん。大丈夫だよ」

 すると、彼女の隣に見覚えのある人物が立っていた。

「今日からこの家で坊っちゃんのお世話をする人です。自己紹介をお願いします」

 佐々木さんが促すと、隣の人物が口を開いた。

「初めまして、坊っちゃん。私は 佐々木悠里 と申します。これから坊っちゃんのお世話をしますので、よろしくお願いします」

「…………は?」

 そこに立っていたのは、まぎれもなく昨日出会った佐々木悠里 だった。

「えぇぇぇぇぇぇぇっ!?!?!?」

 俺の人生、明らかに変な方向に進んでいる気がする――!

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

イケボすぎる兄が、『義妹の中の人』をやったらバズった件について

のびすけ。
恋愛
春から一人暮らしを始めた大学一年生、天城コウは――ただの一般人だった。 だが、再会した義妹・ひよりのひと言で、そんな日常は吹き飛ぶ。 「お兄ちゃんにしか頼めないの、私の“中の人”になって!」 ひよりはフォロワー20万人超えの人気Vtuber《ひよこまる♪》。 だが突然の喉の不調で、配信ができなくなったらしい。 その代役に選ばれたのが、イケボだけが取り柄のコウ――つまり俺!? 仕方なく始めた“妹の中の人”としての活動だったが、 「え、ひよこまるの声、なんか色っぽくない!?」 「中の人、彼氏か?」 視聴者の反応は想定外。まさかのバズり現象が発生!? しかも、ひよりはそのまま「兄妹ユニット結成♡」を言い出して―― 同居、配信、秘密の関係……って、これほぼ恋人同棲じゃん!? 「お兄ちゃんの声、独り占めしたいのに……他の女と絡まないでよっ!」 代役から始まる、妹と秘密の“中の人”Vライフ×甘々ハーレムラブコメ、ここに開幕!

処理中です...