クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について

沢田美

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体育祭☆開始☆!

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 学校全体が、体育祭の熱気に包まれ始めていた。グラウンドには掛け声や歓声が響き渡り、どこを見てもクラスメイトたちが競技の練習に励んでいる。風に乗って流れてくる砂埃と汗の匂いが、いよいよ本番が近づいていることを実感させた。

 そんな中、俺と神木さんもグラウンドの端で二人三脚の特訓を続けていた。最初はお互いの足が絡まり、何度も転びそうになったが、今ではほぼ完成に近い動きになっている。

「この調子でいけば、優勝も夢じゃないね」

 神木さんは額の汗を拭いながら、ニッと笑う。その目には確かな自信が宿っていた。

「おう、頼りにしてる」

 俺も自然と笑みを返す。最初のぎこちなさが嘘のように、今では呼吸もタイミングもぴったりだ。何度も走るうちに、俺の中にも確かな手応えが生まれていた。

 周囲では、応援団の熱のこもった掛け声が響き、リレーのバトンが次々と渡されていく。太陽が高く昇るにつれて、学校全体が体育祭一色に染まっていくのを肌で感じた。

「よし、今日はここまでにしよう」

「うん、ありがとね、裕貴。おかげで息もぴったりだよ」

 神木さんは満足そうに背伸びをし、腕をぐるりと回す。その動きに合わせて、汗に濡れた髪がふわりと揺れ、首筋を伝う一筋の汗が陽の光を反射する。妙に目を引かれた俺は、慌てて視線を逸らし、隣に置いたタオルを手に取った。

「これ、使えよ」

「えっ? あ、ありがとう……!」

 神木さんは少し驚いた様子でタオルを受け取り、汗を拭う。その仕草を眺めながら、俺はささやかながら役に立てたことにホッとした。

 だが、その時——。

「裕貴くん、お疲れ様!」

 聞き慣れた声が背後から響いた。振り向くと、そこには佐々木さんが立っていた。

「佐々木さん?」

「タオルを持ってきたよ! あと、水も」

 彼女は小さく微笑みながら、タオルとペットボトルを差し出す。その表情は柔らかいが、どこか寂しげな色が滲んでいるように見えた。

「わ、悪いな。ありがとう」

「ううん、頑張ってるから当然だよ」

 俺がペットボトルの蓋を開けようとすると、佐々木さんがすっと手を伸ばし、自然な動作で俺の手元からボトルを取った。

「力入らないでしょ? 開けてあげる」

「え、いや、そこまでしなくても……」

 しかし、佐々木さんは迷うことなく蓋をひねり、ポンッと軽快な音を立てて開けると、俺に差し出した。

「はい、どうぞ」

「……ありがとう」

 俺が水を口に含むと、冷たい液体が喉を潤し、火照った体を落ち着かせる。しかし、それ以上に、どこか気恥ずかしさが込み上げた。

 そんな俺の様子を見て、神木さんがわざとらしく咳払いをする。

「……あー、裕貴って本当に世話焼かれてるよな」

 どこか拗ねたような口調だった。

「えっ? そ、そうかな?」

「そうだよ。ちょっと羨ましいかも?」

 神木さんはいたずらっぽく笑ったが、その瞳の奥にほんの僅かに違う感情が揺れている気がした。

 ……なんだろう、この空気。

 俺は胸の奥に小さな違和感を覚えながらも、二人の間に流れる微妙な空気をどうすることもできず、ただ立ち尽くしていた。



「裕貴! やるぞ!」

「お、おう!」

 神木さんの声に応えながら、俺はスタートラインに立つ。心臓が高鳴る。二人三脚のレースが今まさに始まろうとしていた。

 その時、ふと視線を感じる。

 観客席の方をちらりと見ると、そこには佐々木さんがいた。

 彼女は静かにこちらを見つめながら、手を胸の前で組んでいる。その表情は穏やかだったが——何かを押し殺しているようにも見えた。

 ……なんで、そんな顔してるんだろう?

 俺は彼女の視線を感じたまま、スタートの合図を待つ。

「位置について、よーい……」

 笛の音が鳴り響く。

 その瞬間、俺と神木さんは息を合わせ、一斉に地面を蹴った。
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