クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について

沢田美

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騎馬戦

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 笛の音がグラウンドに響いた瞬間、俺と神木さんは息を合わせて地面を力強く蹴った。

「いっち、にっ! いっち、にっ!」

 神木さんの掛け声がリズムを刻む。彼女の声が耳に響き、それに合わせるように俺も足を動かした。今まで何度も練習を重ねた分、動きに迷いはない。ピッチを乱すことなく、俺たちは地面を蹴り続ける。

 周りでは他のペアも必死に走っているが、俺たちの動きには一日の長がある。互いの呼吸も、足の動きも、まるでひとつの意志のように完璧にシンクロしていた。

 このままいけば——!

 前を走るペアとの差は、もうほとんどない。次のコーナーを曲がれば、トップに躍り出るチャンスがあるはずだ。

「神木さん、次のカーブで一気に抜くぞ!」

「おう、任せろ!」

 俺たちはカーブに差し掛かるタイミングで、さらに足の動きを揃える。身体を内側に傾け、遠心力に逆らうように踏み込む。

 その瞬間、風が頬を撫で、俺たちは見事に先頭に立った。

 観客席から歓声が湧き上がる。誰かが俺たちの名前を呼んでいる気がする。

 ——!

 チラリと視線を送ると、そこには佐々木さんの姿があった。

 彼女は手を胸の前で組み、じっとこちらを見つめている。その顔には、喜びとも、切なさともつかない複雑な表情が浮かんでいた。

 どうして、そんな顔を……?

 疑問が脳裏をよぎるが、今はレースに集中しなければならない。

「裕貴、ラストスパート!」

「おう!」

 俺たちはゴールラインに向かって、最後の力を振り絞る。そして——

 ——ゴールのテープが、俺たちの胸を切った。

「……やった!」

 俺たちの勝利だった。

「裕貴! 優勝だ!」

 神木さんが満面の笑みを浮かべ、俺の肩を叩く。

「うん……!」

 まだ実感が湧かないまま、それでも嬉しさを噛み締めるように拳を握る。しかし、そんな俺たちの姿を遠くから見つめる佐々木さんの表情が、なぜか記憶に焼きついて離れなかった。



「お疲れ様! 裕貴くん!」

 歓声が鳴り止む頃、俺の元へ軽やかに駆け寄ってきたのは佐々木さんだった。

「うん、ありがとう……佐々木さん、さっき、ベンチの方で俺と神木さんのことを見てたよね?」

「あ、う、うん。祈ってたんだ、裕貴くんたちが勝てるように」

 佐々木さんは微笑む。まるで天使のような、その柔らかい笑顔に思わず息を呑んだ。

 か、可愛いィィ……! なんなんだこの天使は!?

「あ、ありがとう! 佐々木さん!」

 興奮した俺は、思わず佐々木さんの両手を握りしめていた。

「おい、そんなことしてないで、裕貴は次の種目があるだろ? さっさと行ったらどうだ?」

 唐突に響く神木さんの声。少し拗ねたような響きを含んでいる気がする。

「あ、うん。ありがとう、神木さん!」



「裕貴~! こっちだこっち!」

 次の種目に向かうために走っていると、入場門の近くで手を振っている人物がいた。

「体育祭は楽しんでいるか? 裕貴」

 そこにいたのは、担任の沢田先生だった。

「はい!」

「楽しめてるなら先生も安心だ。ほら行ってこい! 仲間が待ってるぞ!」

 先生は豪快に笑いながら、俺の背中をポンッと押した。

 俺が向かう先に待っているのは、筋トレ仲間の春樹と、そして——。



 体育祭・二週間前の出来事。

「わ、私もあなたの騎馬戦の仲間に入れてください!」

 放課後の教室。俺の目の前で、深々と頭を下げる少女がいた。

 以前、杉本にしつこく絡まれていた女の子——澤部美穂(さわべ みほ)。

「き、君は?」

「わ、私は澤部美穂と言います!」

 彼女は緊張した面持ちで、しっかりと俺を見据えていた。

「でもどうして、俺たちが騎馬戦に出ることを知ってるの?」

「あ、あの……杉本先輩から助けてもらった時に、友達から色々と教えてもらったんです。騎馬戦に出ることも、その仲間が足りていないことも……」

 どうやら彼女はすでに俺たちのことをリサーチ済みらしい。

 騎馬戦は最低でも三人必要だ。俺と春樹だけでは人数が足りない。

「それに……私、内気で気弱な自分を変えたいんです!」

 澤部さんの瞳が、真っ直ぐ俺を見つめる。

「あと、裕貴先輩にお礼もしたいんです!」

 その決意に満ちた表情を見て、俺は一瞬驚く。

 ——だが、すぐに笑みが浮かんだ。

「分かった、美穂さん。俺たちと組んでくれないかな?」

「はい!」

 美穂さんは、今までの緊張が嘘のように目を輝かせ、力強く頷いた。
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