クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について

沢田美

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メイドとして

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 バスに乗り、人の往来が激しい街へとやってきた俺と佐々木さん。
 目指すのは、彼女が欲しがっていたマスコットキャラクターのグッズが販売される店だ。

「ねぇ!裕貴くん!このケバブ屋ちょっと寄っていこうよ!」

「でも、あのマスコットキャラクター流行ってるんでしょ?売り切れになったらどうするの?」

 俺がそう言うと、佐々木さんはムスッとした顔で俺の腕を掴む。

「その時はその時。私は今、裕貴くんと楽しみたいの」

 ——なんだ、その破壊力抜群の言葉は!?

 俺は高鳴る鼓動を感じながら、佐々木さんの動きに身を任せ、ケバブ屋で野菜と肉がたっぷり入ったケバブを買った。
 そのまま俺と佐々木さんはケバブを食べながら、目的の店へ進む。

 その時だった。

 見慣れた高級車が俺たちの前で止まった。

「あら、どこに行ったかと思えばここにいたのね」

 落ち着いた声とともに、車から降りてきたのは——俺の母親だった。

 俺の母が現れると、佐々木さんは一瞬顔を曇らせる。
 そんな彼女の様子を見た俺は、咄嗟に佐々木さんの前に立ち、彼女を庇うようにした。

「何の用?母さん」

「何って、ただ様子を見に来ただけよ」

「様子を見に来た?どういうことだよ」

 俺は母さんを強く睨みつける。

「貴方、母親に対しての態度がなってないわね。誰に似たのかしら……。それより、そこの貴方、私のメイドよね?」

 母さんの視線が俺ではなく、俺の後ろにいた佐々木さんへと向く。

「す、すみません! でも今日は休日で——!」

「そんなの関係ないわ。私、今からブランドのバッグを買いに行くの。だから、荷物持ちになってほしいのよ。報酬は弾むわ、なんなら貴方にも何か買ってあげてもいいのよ」

 母さんはまるでこちらを挑発するように、上から目線で言い放つ。

「母さん——!」

「——いりません!」

 佐々木さんは俺の横に出て、強い眼差しで母さんを真っ直ぐに見つめた。

「私はそういう物より、友達との……裕貴との時間が欲しいので、大丈夫です!」

 すると、母は眉間に皺を寄せ、苛立ちを滲ませる。

「貴方、私のメイドよね? 私より偉くもない人間が、私に指図するつもり?」

 冷たい声が響く。

「ねぇ、真ちゃん。早くそのメイドを説得しなさいよ。私も暇じゃないの。ブランドの取り置き時間が無くなる前に、さっさと説得しなさい」

 俺の胸の奥で、何かが音を立てて崩れた気がした。

「——母さん、さっきから『私のメイド』ばっか言ってるけど、佐々木さんは俺の大切な友達だ」

 母さんの冷たい瞳を、俺も真正面から見つめ返す。

「そんなに人手が欲しいなら、その辺の人を捕まえて頼めばいい。だから——俺たちの時間を邪魔しないでくれ!」

 いつも母に従順で、どんな無理難題も黙って聞いてきた俺が、今日、初めて反発した。

 母はしばし黙ったあと、苛立たしげに「もういいわ」とだけ言い残し、車へ戻る。
 そして、車を走らせ、視界から消えた。

 その場に残された俺は、深く息を吐く。

「佐々木さん、大丈夫だった?」

 俯き、暗い表情をしている佐々木さんにそっと声をかける。

「ごめんね、裕貴くん。私のせいで……私が弱いから……」

「佐々木さんが悪いんじゃないよ。佐々木さんは強いよ、俺よりも何千倍も」

 俺は彼女の顔を覗き込むようにして、静かに続ける。

「だから——笑ってよ」

「ッ!」

「佐々木さんは、暗い表情をしてるよりも、笑っていた方が断然可愛いよ」

 その言葉に、佐々木さんは一瞬目を見開いたあと——ぎこちないながらも、ゆっくりと笑顔を浮かべた。

 そして、そのまま気を紛らわすように、俺たちは色んなお店を回った。
 ゲームセンター、雑貨屋、本屋、服屋、アクセサリー専門店——あちこちを巡り歩くうちに、次第に彼女の表情はいつもの明るさを取り戻していった。

 気づけば、空は夕暮れ色に染まり始めていた。

 そして、ついに俺たちは、やば丸くんグッズが売られている店に辿り着く。



「申し訳ありません。やば丸くんのグッズのほとんどは、今朝完売してしまったんです」

 店員さんは申し訳なさそうにそう告げる。

「そうですか……わかりました。ありがとうございます」

 俺は残念そうにしているであろう佐々木さんへと視線を送る——が、そこに彼女の姿はなかった。

「ねぇ! 裕貴くん! これ見て!可愛くない?」

 店の奥で、佐々木さんが嬉しそうに何かを手に取っていた。

 それは、やば丸くんのペアアクセサリーだった。
 ハート型のデザインで、特徴的な可愛らしさを放っている。

 そして、佐々木さんは迷うことなく、それを購入した。

 店を出たあと、彼女は俺の前に立ち、にっこりと笑う。

「はいこれ、半分あげる!」

「え?」

「だってこれ、ペア用だよ?1人がつけてても意味ないじゃん?」

 差し出されたアクセサリーの片割れを、俺は受け取る。

 その瞬間、不思議な温かさが胸の奥に広がった。

 俺と佐々木さんは、帰りのバスに乗る。
 彼女を見送ったあと、俺は静かに家へと帰路を辿った——。
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