クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について

沢田美

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それぞれの距離感

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 翌朝。

「はぁ……」

 俺は登校する足取りがいつもより重かった。

 昨日の夜の、佐々木さんとの距離感。
 あれを思い出すたびに、気恥ずかしくなって頭を抱えそうになる。

(今まで通り接していられるのか、俺……?)

 そんなことを考えながら歩いていると、背後から声がかかった。

「おーい、裕貴!」

「おはよう、裕貴!」

 後ろから駆けてきたのは春樹と神木さんだ。

「あ、あぁ……おはよう」

 俺の反応を見て、春樹が首をかしげる。

「お前、なんかテンパってる? 顔赤いぞ?」

「べ、別にそんなことは……!」

 慌てて誤魔化す俺を見て、今度は神木さんがにやりと笑った。

「昨日、悠里の家行って何かあった?」

「な、なに言ってんだよ!」

「ふぅん? 図星だね」

「……っ」

 彼女の目はまるで獲物を追い詰める猫のように、じっと俺の顔を見つめてくる。

「まあ、深くは聞かないけど」

「……」

 からかわれているのは分かっていたが、俺はそれ以上何も返せなかった。



 教室に着き、席に座った俺は、気を落ち着かせるために深呼吸をする。

(佐々木さんは今日、来れるのか?)

 スマホに目をやると、彼女から『今日は休む』というメッセージが届いていた。

(そりゃ、無理はさせられないよな)

「お、メッセージか?」

 隣に座った春樹が画面を覗き込もうとしてきたが、俺は咄嗟にスマホを伏せた。

「いや、何でもない」

「……ふーん?」

 春樹の視線が何か言いたげだったが、特に突っ込んでこなかった。



 昼休み。

 昼食を取ろうとすると、青原先輩からメッセージが届く。

『裕貴くん、今日の昼も文芸部の部室、どうだい?』

(また……?)

 この前のデリバリー事件が頭をよぎったが、なんとなく青原先輩の軽い誘いを断れない俺は、そのまま承諾してしまった。



 文芸部の部室。

「やぁやぁ、今日も来てくれて嬉しいよ~」

「こんにちは、裕貴先輩!」

 青原先輩と澤部さんは、既に部室で待機していた。

「今日は、普通に昼食持ってきたから、デリバリーはしないよな……?」

「今日はちゃんとお弁当だよ~、安心して!」

「ほっ……」

 ホッと胸を撫で下ろした俺だったが、青原先輩は悪戯っぽく微笑む。

「でも、裕貴くんが望むなら、いつでも呼ぶけどね?」

「いや、望まないから」

 思わず即答する俺に、澤部さんがくすくすと笑った。

「ふふ、先輩って先輩らしいところもあるんですね」

「それ、褒めてる?」

「はい!」

 素直に頷く澤部さんに、俺は肩の力を抜く。

 気づけば、この2人とも自然に話せるようになっている自分に驚く。



 昼食を食べ終え、片付けをしているとき、青原先輩がふと真面目な表情になった。

「そういえば……佐々木さん、まだ休んでるんだよね?」

「うん、そうみたい」

「……うーん、無理してたのかなぁ」

「どういう意味ですか?」

「ん~、これは私の勘だけどさ、最近佐々木さん、ちょっと無理してたっぽく見えたんだよね~。きっと、誰かのために頑張りすぎちゃったんじゃない?」

「……」

 その言葉が、なぜか胸に突き刺さった。

 佐々木さんが、俺のためにメイドとしても、友人としても頑張ってくれていたのは知っていた。
 だけど、そこに無理があったのかもしれないと思うと、複雑な感情が込み上げてきた。

「私、佐々木さんと何回か話したことあるから分かるんだよね~。あの子、ちょっと自分のこと後回しにしがちなタイプだし」

「……」

「でもまあ、そういう子ほど、心配されるの嫌がるから、難しいよね~」

 青原先輩は苦笑混じりにそう言った。

「だからさ、裕貴くん。あんまり抱え込みすぎないようにね?」

「……わかりました」

 俺は静かに頷いた。

 昼休みが終わり、2人に別れを告げると、教室に戻る足取りが少し重くなった。

(俺……もっと佐々木さんとちゃんと向き合わなきゃいけないのかもしれない)

 そんな思いを胸に、午後の授業が始まった。



 放課後。

 帰り支度をしていると、神木さんが俺の隣にそっと寄ってきた。

「……ねぇ、裕貴」

「ん?」

「悠里のこと……最近、すごく気にしてるよね」

「……そりゃ、友達だから」

「ふーん……」

 神木さんはそれ以上何も言わなかったが、その瞳はどこか切なそうだった。

「……でも」

「え?」

「いや、何でもない!」

 強引に話を切り上げる彼女の背中を見送りながら、俺は自分の中の揺れる気持ちに、少しだけ戸惑っていた。

(……俺は、どうしたいんだろうな)

 佐々木さん、神木さん、そして周囲の人たち。

 それぞれの距離が、少しずつ、少しずつ変わり始めている――。
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