クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について

沢田美

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待ち望んでいた光景

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「明日から夏休みだ。今日はその前に、夏休み後に行われる文化祭の出し物を決めてから帰るぞ」

 沢田先生はガツン、と教卓を叩きながら言うと、黒板にチョークを走らせ始めた。

 書かれていくのは、クラスから出た文化祭の案の数々。模擬店、ホラー系、コスプレ喫茶……。どれもありがちだけど、文化祭前独特のワクワクがクラス中に広がっていく。

「他に案があるヤツ、いるか?」

 先生が腕を組み、クラス全体を見渡す。沈黙が流れる中、春樹が勢いよく手を挙げた。

「はいっ! メイド喫茶、やりましょう!」

 その瞬間、男子たちから「おおおお!」と歓声が上がる。対して女子たちは「はぁ!?」と冷めた声と睨みを春樹に向ける。

 俺は思わず額を押さえた。やれやれ、相変わらずだな……。

 ところが、沢田先生はその案にノリノリだった。

「いいじゃん、それ。私も一回着てみたかったんだよな~、あのヒラヒラ」

「先生が着るんですか!?」

「冗談だよ、冗談!」

 男子たちは盛り上がり、女子たちはざわめき、教室は一気に騒がしくなる。

「まあ、他に無ければ、これで決定でもいいけど?」とニヤリと笑う先生。

 その時、静かに佐々木さんが手を挙げた。

「私は、執事喫茶がいいと思います」

 その瞬間、女子たちから今度は「待ってました!」と言わんばかりの歓喜の声が湧き起こる。一方の男子たちは揃って「やっちまった」と言いたげに天を仰ぐ。

「いいねぇ、執事喫茶も! 佐々木、ナイス提案!」

 沢田先生は親指を立て、鼻息荒く興奮気味だ。

 結局、数々の意見が飛び交ったが、最終的に残ったのは「メイド喫茶」と「執事喫茶」の一騎打ちだった。

「まさか、こんな白熱するとは……」

 俺は頬を引きつらせながらも投票用紙に「執事喫茶」と書く。神木さんがこっちを見てるからじゃない、本心から、だ。……たぶん。

 だって正直――俺の家に佐々木さんという現役メイドがいるんだから、今さらメイド喫茶にそこまで惹かれない。

「決まらんなぁ。よし、春樹、裕貴、ジャンケンで決めろ」

「は?」と春樹。

「なにぃ!?」と俺。

「ジャンケンだ、ジャンケン!」と沢田先生がウィンクを飛ばしてきた。

「いっつまでも見てるだけじゃつまらないでしょ? 自分で勝ち取ってこい、お坊ちゃん」

「だからその呼び方やめてください!」

 それでも俺と春樹は、渋々ながら教壇前へ。

「……ついに決着をつける時が来たようだな、裕貴」

「なんのバトルだよこれ」

「いくぞ!」

「ジャンケン!」

「ポン!」

 俺の手は――パー。勝率が高いと誰かが言ってた気がして。

 結果は、俺の勝ちだった。

「……執事喫茶、決定だ!」

 沢田先生が黒板に丸を付けた瞬間、男子たちから「NOOOOO!」という絶望の叫び、女子たちからは「キャー!」と拍手喝采の嵐。

「やったね裕貴!」と佐々木さんが俺の方を見て微笑む。

「……これが勝者の景色か」

 あきれながら呟く俺の肩を春樹がポンと叩き、満面の笑みで拳を突き出した。

「良い勝負だったぜ」

「……ああ、まあな」

 俺は苦笑しつつグータッチを返した。



 その後、夏休み前最後のホームルームが淡々と進み、沢田先生が締めくくる。

「いいか、お前ら。未成年が入っちゃいけないところには行くなよ? 酒、タバコ、パチンコ、あと、えっちな店も禁止だ!」

 バシッと黒板を叩きながら、沢田先生は一段と鋭い目をする。

「健全に、夏を過ごすこと! ……解散!」

 教室中に解放感と共に「やったー!」の声が飛び交う。

「裕貴、帰ろう」

「一緒に帰るぞー!」

「私も行くからね!」

 校舎の出口で俺を呼んでくれたのは、佐々木さん、神木さん、春樹――いつもの仲間たち。

「……なんだよ、こういうの、案外悪くないな」

 俺は自然に笑みがこぼれるのを感じながら、彼らの元へ駆け寄った。

「おう! 今行く!」

 こうして、俺の高校生活、前半戦が晴れやかに幕を閉じた――。
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