クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について

沢田美

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浜辺!ビーチ!

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 山道を登りきった先に待っていたのは、年季の入った木造の合宿場だった。

 軒先には風鈴が揺れ、夏の日差しを受けて鈍く光る看板。まるで昭和から時間が止まっているような、どこか懐かしさを感じさせる佇まいだ。

「もうダメ、動け……ない……」

「わ、私も……体力ゲージが真っ赤です……」

 澤部さんは膝に手をついてうなだれ、青原先輩に至っては地べたに這いつくばるようにして、空を見上げていた。

 俺もというと、喉はカラカラ、呼吸はヒューヒュー音を立てる始末。肩で息をしながら、思わず膝に手をついた。

 ――そんな中、唯一人だけ、ケロッとした顔で立っていたのは。

「やれやれ、みんな軟弱すぎ。これくらい朝のランニングにちょうどいいだろ」

 鈴木先輩だった。

 額に汗ひとつかいていない。まるで彼だけが別の重力で生きているかのような、超人的な余裕っぷりだった。

「いや、先輩がバケモノなだけですって……」

 俺が肩を上下させながら呟くと、鈴木先輩はニッと歯を見せて笑った。

「ま、冗談だよ。いい鍛錬になっただろ? 心と体、どっちも大事だからな」

「……心が先に折れそうですけど」

 そんな冗談交じりの会話を交わしていると、合宿場の中から管理人らしきおじさんが現れた。

 痩せた体型に麦わら帽子、首にはタオル。いかにも“夏の田舎”を絵に描いたような人だった。

「お~、君たちが例の高校生のグループかい? いやぁ、暑い中よく来たねぇ」

「はい、ありがとうございます!」

 俺が頭を下げると、おじさんはにこやかに笑い、俺たちを建物の中へと案内してくれた。

 中に入って驚いた。外観とは打って変わって、清潔感のある内装。年季は感じるものの、木の床は丁寧に磨かれていて、天井には新しいエアコンが取り付けられていた。

「……涼しぃ……これが文明の力……!」

 春樹が、まるで砂漠の旅人がオアシスに辿り着いたような顔で天井を見上げていた。

「荷物はあとで部屋に運んでいいから、ひとまず休憩な」

 沢田先生のその言葉に、全員が即座に深く頷いた。



 荷物を整理し、昼食を取ったあとは、待ちに待った浜辺タイム。

 波の音が近づくにつれ、テンションは右肩上がりだ。

 そして――白い砂浜が広がるビーチに到着したその瞬間。

「さーて、お待たせ! いよいよ私のターンだよ~!」

 そう言って、青原先輩が勢いよく上着を脱ぎ、水着姿を披露した。

 白地に水色ストライプのビキニ。どこかクラシックで、けれど今風の洗練されたデザインが、先輩の明るい雰囲気と相まって、目が離せなくなる。

「うっ……」

 反射的に目を逸らした俺に、春樹の肘が飛んできた。

「おいおい、見なきゃ損だぞ?」

「いや、お前が言うな……!」

「ふふ、目のやり場に困ってるねぇ、裕貴くん」

 ニヤリと笑う先輩に返す言葉が見つからない。

「……よくそんな格好で堂々とできるな、先輩」

 呆れたように言う神木さんに、青原先輩は余裕のウィンク。

「神木ちゃんも早く着替えなって。せっかく来たんだ、楽しまなきゃ損でしょ?」

 渋々といった様子で神木さんが上着を脱ぐ。

 現れたのは、控えめながらもシルエットを美しく見せる紺のワンピース型水着。派手さはないが、彼女らしい上品さが際立っていた。

「……どう、かな?」

 ほんの少しだけ不安げに俺を見るその表情に、心臓がドクンと跳ねた。

「……すごく、似合ってる」

 言葉にすると同時に、神木さんの頬がほんのりと紅く染まった。

「……ありがと」

 小さく、でも嬉しそうに微笑む彼女。その姿を見た瞬間、不意に――。

(佐々木さん……)

 彼女の顔が浮かんだ。

 今、彼女はどうしているのだろうか。笑っているだろうか。それとも、どこかで苦しい思いをしてはいないか。

 楽しげな波音と、弾けるような笑い声。その中で、俺の胸の奥にぽっかりと空いた空白が、少しずつ広がっていく気がした。

 ――これは、きっと、ただの海合宿なんかじゃない。

 この夏の先に待つ、何か大きな「変化」の前兆だと、どこかで直感していた。
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