クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について

沢田美

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BBQ

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 夕日が水平線の向こうへと沈み、海面が黄金色から群青へと変わっていく頃、俺たちはようやく沢田先生の釣りから解放された。

 ビーチコートに戻ると、そこでは青原先輩、澤部さん、神木さんが波打ち際ではしゃぎながら遊んでいた。

「おーい! 男子諸君! どこに行ってたんだ~?」

 青原先輩が濡れた髪を揺らしながら手を振ってくる。夕陽に照らされて、その笑顔はどこか映画のワンシーンのようだった。

 鈴木先輩と春樹は「うし!」と声を上げて、女子たちの輪に走っていく。

「それじゃあ、先生は先に戻ってるからな。あんまり遅くなるんじゃないぞ」

 沢田先生は釣り道具を肩に引っかけて、背中越しに声をかけてくれた。その背中が、夕焼けに溶けていく。

「……ありがとうございました」

 小さく呟いた俺の言葉に、先生は手を軽く挙げて応えて、合宿場の方へと消えていった。

 その余韻に浸っていたところで、背中にふっと軽い衝撃が走った。

「裕貴、どこ行ってたの?」

 振り向くと、少し拗ねたような顔で神木さんが立っていた。濡れた髪が頬に貼りつき、彼女の目元にかかった影が妙に色っぽい。

「あ、いや……先生と、春樹たちと釣りしててさ」

「ふふっ、そうなんだ。じゃあ……一緒に遊ぼ?」

 神木さんが俺の手を取って、海を指差す。その手はほんのり温かくて、引かれるままに、俺たちは波打ち際を駆け出した。

 水しぶきが上がり、空気は塩の香りを運んでくる。途中で波に足を取られて俺が転びかけた時――

「裕貴、大丈夫!?」

 真っ先に駆け寄ってくれたのは、神木さんだった。濡れた服のまま、俺の手を取って引き起こしてくれるその顔は、本気で心配していて――どこか、嬉しそうだった。

 気づけば、太陽はすっかり沈み、あたりは藍色の夜に包まれていた。



 夜。合宿場の外では、沢田先生が用意してくれたBBQセットが煌々と火を灯していた。

「今日はな、釣った魚もあるんだぞ~!」

 そう言って、先生がどっさりと肉と魚をテーブルに置いていく。じゅうじゅうと肉が焼ける音が、夜の静けさに心地よく響く。

「はい、裕貴!」

 俺の皿に焼けたばかりの肉を乗せてくれたのは、神木さんだった。笑顔を浮かべているけれど、ほんのりと頬を染めているのがわかる。

「ありがとう、神木さん」

「おやおや~、2人とも熱々ですな~」

 割って入ってきたのは青原先輩。うちわで炭火を煽ぎながら、にやにやと視線を送ってくる。

「ちょ、ちょっと先輩!」

 神木さんが慌てて声を上げるも、すでにその表情は赤く染まりきっていた。

「でも、実際いい雰囲気だったぞ?」

 春樹が肉を頬張りながら、さらっと追い打ちをかけてくる。

「も~、やめてよっ……!」

 そんな賑やかな声と香ばしい匂いに包まれて、俺たちはゆっくりと夜を味わっていった。



 食事のあと、外の芝生にレジャーシートを敷いて、星を見上げる。

 空一面に散らばる星々は、まるで手を伸ばせば届きそうなほど近く感じられた。

「すごい……こんなに見えるんだ」

 俺が呟くと、隣に座っていた神木さんが、そっと袖を引いた。

「……ねぇ、裕貴」

「ん?」

「明日も、みんなでまた、遊ぼうね」

 その瞳は、まっすぐに俺を見ていて。どこか寂しげで、でも、強くて。

「ああ、もちろん」

 俺が笑って応えると、神木さんも小さく笑ってくれた。

 けれど――

(……佐々木さんにも、見せたかったな。この空)

 心の奥で、ぽっかりと空いた小さな穴が、静かに疼いていた。

 夜風が頬を撫で、遠くで波の音が囁く。

 まるで、誰かの気持ちが、風に乗って届いてくるような――そんな気がした。
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