クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について

沢田美

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最後の夏の思い出

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 朝、スマホにセットしておいたアラームが軽やかに鳴り響く。

「……もう朝か」

 まぶたを擦りながら上体を起こすと、合宿特有の固めの布団が背中に心地よく残っていた。

 隣を見れば、春樹と鈴木先輩はまだ夢の中。静かな寝息が部屋に漂っている。

 俺はそっと布団から抜け出し、静かに扉を開けて部屋を出た。目指すは洗面所――少し寝ぼけた頭を冷やすには、まず顔を洗いたかった。

 だが、そこで出くわしたのは――

「お、裕貴じゃないか」

 洗面台の前にいたのは沢田先生……しかも、思いっきりラフな部屋着姿。胸元がゆるく開いたシャツから、色々と見えてしまっている。

「せ、先生!? その格好……!」

 反射的に視線を逸らし、思わず数歩後ずさる。

 その様子を見た先生は、口元をにやりと歪め、ズイッと俺に肩を寄せてくる。

「なぁんだ? 先生のパーフェクトボディに見惚れちゃったのか~? 照れるな~、裕貴ぃ~」

「いやいやいや! だから離してくださいってば!!」

 逃げ場のない狭い洗面所で繰り広げられる地獄の朝の儀式。ようやく先生の魔の手から逃れ、歯磨きを済ませた俺は、そそくさと洗面所から出ようとする。

「なぁ、裕貴。今日は何するんだ?」

 不意に先生が問いかけてきた。

「え? いや、特に決めてないですけど……」

「じゃあ、私の釣り――」

「それは遠慮しておきます!」

 俺の即答に、先生はガックリと肩を落とす。

 そんなやり取りの最中、洗面所の扉が開き、見慣れた顔ぶれが現れる。

「おー、おはよう~裕貴くーん」

「おはようございます、裕貴先輩」

 青原先輩と澤部さん。ふたりともまだ寝起きの顔だが、どこか夏の朝らしい軽やかさがある。

「おはよう、ふたりとも」

 軽く挨拶を交わすと、俺は先生の追撃をかわすようにその場を後にした。



 外に出ると、ひんやりとした朝の風が肌を撫でた。森と海に囲まれた合宿場の裏手、木陰のベンチへと足を運ぶ。

 まだ誰もいない浜辺には、朝陽が淡く差し込み、波打ち際が金色に揺れていた。

「……今日で、最終日か」

 昨日の夜の出来事が思い出される。星空の下で笑い合ったこと、神木さんの横顔、澤部さんのまっすぐな言葉。

 どれも温かく、そして――少し切ない。

 そのとき、背後から足音が近づいた。

「……おはよう、裕貴」

 振り向くと、そこには神木さんがいた。朝の光をまとったその姿は、いつもより少しだけ儚げで、でもとても綺麗だった。

「おはよう。もう準備できたの?」

「うん、ちょっと早く目が覚めちゃって。……隣、座ってもいい?」

「もちろん」

 俺がベンチの端にずれると、彼女は静かに腰を下ろし、波の音に耳を傾けながら言った。

「……もう今日で終わりなんだね、合宿」

「ああ。ほんと、あっという間だった」

「ねぇ、裕貴。最後の朝に、少しだけ散歩しない?」

 その瞳には、どこか決意のようなものが宿っていた。

 俺は一瞬迷ってから、静かに頷いた。

「うん。行こうか」

 ふたりで立ち上がり、波打ち際を歩き出す。白い砂浜に、俺たちの影が並んで落ちていく。

 潮の香りと、朝の風。ほんの少し肌寒いその感触が、なぜか心地よかった。

 でも――

(やっぱり、佐々木さんのことが……)

 今ごろ、彼女はどうしているのだろう。

 この穏やかな時間の中にいないことが、胸にぽっかりと空洞を作る。

 俺は静かに決意した。

(このままじゃ終われない。夏が終わる前に……俺の気持ち、ちゃんと伝えよう)

――それぞれの想いが交差し始めた夏の合宿の終わり。物語は、次のページへと進んでいく。
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