クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について

沢田美

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悲しい告白

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 花火大会 当日

 日はすでに沈みかけ、空は淡い茜から深い群青へとグラデーションを描いていた。風は心なしか涼しく、蝉の声もどこか遠く、季節の終わりを告げているかのようだった。

 駅前の広場には、浴衣に身を包んだカップルや家族連れが溢れ、屋台の灯りがぽつりぽつりと並び始めていた。甘いりんご飴の匂いや、たこ焼きの香ばしい匂いが、鼻をくすぐる。

 その中で、俺はただ一人、佐々木さんを待っていた。

(……少し、遅れてるのかな)

 胸の奥がわずかにざわつく。そう思った瞬間だった。

「裕貴くん!」

 柔らかくて、どこか懐かしい声が耳をくすぐった。

 振り返ると、そこには――

「……佐々木さん……」

 言葉が、自然と漏れた。

 薄藍色の浴衣に、白の花模様が静かに咲く。普段のお淑やかなメイド服姿とは違い、そこには年相応の少女としての佐々木さんがいた。柔らかくまとめられた髪が首筋を撫で、ほのかに紅潮した頬が、夏の夕暮れに美しく映えていた。

「お待たせ……。その、変じゃない、よね?」

「……ううん。すごく、似合ってる」

 やっと絞り出せた言葉だった。だけど、それが今の俺のすべてだった。

 佐々木さんは少し照れくさそうに笑い、それから言った。

「じゃあ……行こっか。花火大会」

「うん」



一方、別の場所で――

(結局……誘えなかったな)

 私は神木蘭。裕貴のことがずっと、好きだった。

 でも、勇気を出すには、あまりにも遅すぎたのかもしれない。

「蘭、顔、しけてるよー?」

 友達の声が耳に入る。

「しけてない!」

 つい言い返したけれど、きっと表情には出てしまっている。せめて……せめて私の浴衣姿くらいは、見てほしかった。そんな願いが頭をよぎる。

 そしてふと目に入ったのは――

(……え?)

 人混みの向こうに、並んで歩く浴衣姿の二人。

 悠里と、裕貴。

 笑ってる。楽しそうに話して、同じ方向を見つめていて――それだけで、胸が、締め付けられた。

(……やっぱり、私なんかじゃ……)

 目の奥が熱くなりかけたその時、友達にぐいと袖を引かれた。

「ほら、焼きそばー!」

「う、うん……ちょっと、待って」

 けれどもう一度見たときには、二人の姿は人混みに紛れて消えていた。



 そして夜。川辺の丘。

 俺たちは屋台を回りながら、たこ焼きを分け合って笑い、金魚すくいで無駄に白熱し、ヨーヨー釣りに挑戦しては苦笑した。

 そんな当たり前の時間が、こんなにも愛おしいなんて、俺は知らなかった。

 花火が打ち上がる直前、俺たちは人混みを少し離れて、川辺の小さな丘に腰を下ろした。涼しい風が浴衣の裾を揺らし、佐々木さんの髪をふわりと撫でる。

「ねぇ、裕貴くん。……私ね、伝えたいことがあるの」

 静かに漏らされた声。その瞳は、まっすぐに、けれどどこか揺れていた。

 俺はゆっくりと佐々木さんの手を取り、軽く握る。

 ドン――。

 夜空に、最初の花火が咲いた。

 鮮やかな朱が夜を彩り、その光が佐々木さんの頬をほんのり染める。

「俺も……伝えたいことがある」

 握った手に、少しだけ力を込めて、俺は想いを吐き出した。

「好きだ。心から。君の全部が、大切なんだ」



 少し離れた坂の下、私はその言葉を聞いてしまった。

「――ッ……!」

 しゃがみ込み、目を閉じる。胸が、ぎゅっと苦しくなった。

 ずっと、分かっていた。私の中にも、確かにあった“好き”という想い。でも、裕貴の目は――ずっと、悠里だけを見ていた。

(かなわないな……)

 そう呟いて、私は背を向けた。

 帰ろう。せめて、この想いは胸にしまって。

 そう思った、瞬間だった。

 悠里の声が、夜の静寂を割った。

「ごめん、裕貴くん。あなたの気持ちは嬉しい。けど……私はその言葉に応えることはできない。ごめんなさい」

「え……?」

 裕貴の動揺が、痛いほど伝わってきた。

 私は立ち止まって、息を呑む。

「私……転校するかもしれないの。だから、裕貴くんの気持ちを受け取ってしまったら、離れがたくなってしまう。だから――」

 言葉はそれ以上、聞こえなかった。

 二発目の花火が夜空に咲く。

 だけど、その鮮やかな光は、誰の顔も、きっと照らしてはくれなかった。
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