クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について

沢田美

文字の大きさ
57 / 87

執事服て俺も着るの!?

しおりを挟む
 夏休みが終わり、蝉の声が名残惜しげに鳴き止むころ、また新たな学校生活が幕を開けた。

「はぁ!? 悠里の転校の件、やっぱりナシってどういうこと!?」

 人通りの少ない渡り廊下で、神木さんは目を見開いて俺に詰め寄った。

「うん、色々あって……結局なくなったみたいなんだ」

 俺が曖昧に返すと、彼女はじっと俺の目を見つめてから、鋭く言葉を重ねる。

「でも、どうして裕貴がそんなこと知ってるの?」

 鋭い指摘に俺は思わず頭をかきながら、わざとらしく目を逸らす。

「さぁなぁ~、偶然聞いたってことで……」

 彼女は明らかに納得していない様子で俺を睨んだが、やがて諦めたようにため息をついた。

「……まあ、いいけどさ。じゃあ、そういうわけだから、よろしくね」

 そう言って立ち去ろうとした俺の背中を、彼女の声が引き止めた。

「待って!」

 とっさに掴まれた腕。振り返ると、神木さんは頬を赤く染めて、両手を後ろに回していた。

「私、裕貴に渡したいものがあるの」

 恥ずかしそうに、ゆっくりと差し出されたのは、丁寧に包まれた手作りのお弁当だった。

「これは……」

「初めて、人のために作ったの。だから……ちゃんと感想、聞かせてね」

 その真剣な眼差しに、思わず顔が熱くなる。

「ありがとう、神木さん」

 俺がそう言うと、彼女は小さく視線を逸らし、ぽつりと呟いた。

「おかまいなく……」



 昼休み。机の上には、2つのお弁当。

 一つは朝、佐々木さんから渡されたいつもの栄養バランス満点の弁当。そしてもう一つは、さっき神木さんからもらった、彼女の「初めて」が詰まった弁当だった。

「……これ、食べきれるかな」

 苦笑しながら佐々木さんの弁当の蓋を開けると、見慣れた優しい彩りが広がっていた。鶏むね肉の照り焼き、雑穀入りのご飯、彩り野菜の副菜。まるで俺の身体を一番理解してくれているような内容だ。

 そして神木さんの弁当の蓋を開けた瞬間、ふわっと甘い卵焼きの香りが広がった。俺の好物ばかりが詰め込まれたその中身に、思わず喉が鳴る。

「……よし、覚悟を決めよう」

 胃が破裂しそうなほどの満腹感とともに、俺の昼休みは、静かに幕を閉じた。



 七限目。文化祭の出し物を決めるクラス討論の場で、何故か俺と春樹は“執事喫茶案”の代表になっていた。

「執事服、どうするんだ?」

 生徒の問いに、沢田先生が腕を組んで言う。

「予算は三万円まで。学校から出る。うまくやれよー」

「三万円……」 「微妙にギリじゃん……」

 どよめくクラス内。その中で春樹が冷静に提案する。

「レンタルと手作りの折衷でどうかな? 衣装にこだわりたい人は持ち寄って、全体は予算で調整」

「いいじゃん!」 「春樹、頼りになるなぁ」

 そんな盛り上がりの中、ふと俺は視線を教室の隅に向ける。

 佐々木さんは、真剣な表情で何かを書き込んでいた。  神木さんは、目が合った途端、ぱっと視線を逸らす。

(……感想、ちゃんと言えてなかったな)

 そのとき、背後から春樹の声。

「なぁ裕貴、お前も衣装着るんだよな?」

「えっ……俺も着る前提?」

「当然。お前が執事服とか……絶対似合うに決まってんだろ」

「……まじかよ」

 半ば押し切られるように、俺は小さく頷いた。



 放課後、夕陽が差す廊下。教室の前で、佐々木さんが俺を待っていた。

「裕貴くん……今日のお弁当、どうだった?」

 少し不安げな声に、俺は頷いて言う。

「最高だったよ。いつも本当にありがとう。あの弁当、俺の筋肉の源だから」

 その言葉に、佐々木さんはふわりと微笑んだ。

「じゃあ、これからも……作らせてね」

「うん、楽しみにしてる」

 そのとき、背後から小さく咳払いが。

「……感想、私のも、聞いてないけど?」

 振り返ると、神木さんがぷいっと拗ねたような顔で立っていた。

「もちろん、美味しかったよ。俺の好み、よくわかってた。……全部、自分で作ったんだよね?」

「……そ、そう。ちょっと調べたけど、自力。自信作」

「また……お願いしてもいい?」

 その言葉に、神木さんはぱっと表情を緩め、嬉しそうに頷いた。

「うん、たまにならね」

 夕陽が差し込む廊下に、3人の影が伸びていた。

 文化祭の準備、執事喫茶、そして2人の“想いのこもった”弁当。

 新たな日常が、確かに始まっていた。

(――この平凡な日々が、今は、たまらなく愛おしい)

そして、文化祭という“もう一つの本番”が、静かに、しかし確かに近づいていた――。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

イケボすぎる兄が、『義妹の中の人』をやったらバズった件について

のびすけ。
恋愛
春から一人暮らしを始めた大学一年生、天城コウは――ただの一般人だった。 だが、再会した義妹・ひよりのひと言で、そんな日常は吹き飛ぶ。 「お兄ちゃんにしか頼めないの、私の“中の人”になって!」 ひよりはフォロワー20万人超えの人気Vtuber《ひよこまる♪》。 だが突然の喉の不調で、配信ができなくなったらしい。 その代役に選ばれたのが、イケボだけが取り柄のコウ――つまり俺!? 仕方なく始めた“妹の中の人”としての活動だったが、 「え、ひよこまるの声、なんか色っぽくない!?」 「中の人、彼氏か?」 視聴者の反応は想定外。まさかのバズり現象が発生!? しかも、ひよりはそのまま「兄妹ユニット結成♡」を言い出して―― 同居、配信、秘密の関係……って、これほぼ恋人同棲じゃん!? 「お兄ちゃんの声、独り占めしたいのに……他の女と絡まないでよっ!」 代役から始まる、妹と秘密の“中の人”Vライフ×甘々ハーレムラブコメ、ここに開幕!

処理中です...