クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について

沢田美

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運命の席替えに俺は翻弄される

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 文化祭が終わり、また何の変哲もない平穏な日々が戻ってくる。

「なぁ裕貴、今日帰りに筋トレしに行こうぜ!」

 いつも通り、春樹が俺の肩に腕を回してきて、当然のように提案してきた。

「分かった。今日の放課後な」

「おう!」

 そんな会話を交わしていると、教室の扉が勢いよく開いた。

「おい、お前ら、席に座れ」

 沢田先生が入ってきて、チャイムも鳴っていないうちから黒板に何かを書き始める。

 生徒たちは、ざわつきつつも黒板に視線を向ける。
 困惑する者、にやつく者、反応はさまざまだ。

 そして、先生はチョークを置くと、にやりと口角を上げた。

「さて、みんなお楽しみ、席替えの時間だ」

 その一言に、教室内は歓喜のどよめきに包まれた。

「クジ箱、ちゃんと作ってきたから。ひとりずつ前に来て引けー」

 クラスメイトたちはわいわいと列を作り、変なことを呟きながらくじを引いていく。

「どうか! 佐々木さんの隣になりますように……!」

 そんな祈りにも似た呟きが聞こえてきて、思わず苦笑いした。

 俺もゆっくりと前に進み、箱に手を入れる。

(どうか……佐々木さんの近くでありますように)

 そんな淡い願いを込めて、俺は番号札を引き上げた。

 全員がくじを引き終えると、先生が名前と番号を照らし合わせて新しい席を黒板に書いていく。

「悠里、何番?」

「私は……二十番だよ」

「ふーん」

「どうかしたの?」

「いや、なんでも」

 後ろの方で佐々木さんと神木さんが何やら話している声が聞こえた。

 やがて、皆がそれぞれ黒板を見て席へと移動し始める。
 俺も席に向かおうとしたとき――誰かに肩をトンと叩かれた。

 振り返ると、そこには神木さんがいた。

「ねぇ、裕貴。席、交換しない?」

 そう言って、彼女は『21』と書かれた紙を差し出す。

「え? まあ、いいけど……」

 渡された札と自分の番号を見比べていると、神木さんがふっと何かを企んだような笑みを浮かべた。

 そして、俺が席へ向かうと――

「あれ、隣……裕貴くん?」

 聞き覚えのある声に顔を上げると、そこには佐々木さんの姿があった。

「……そっか。そういうことか」

 俺は思わず手元の紙と、彼女の柔らかな笑顔を交互に見つめた。

 あの時の神木さんの笑み――全部、計算済みだったんだ。

「どうしたの? 裕貴くん」

 佐々木さんが首をかしげる。まるで偶然を装っているような、でも嬉しさを隠しきれていない表情がそこにあった。

「いや……ちょっと驚いて。ただ、隣が佐々木さんだったからさ」

「ふふ。私も、まさかね」

 まるで台本でもあったかのように、自然と顔を見合わせて笑った。



 席替え後の最初の授業。

 教科書を開きつつも、隣にいる佐々木さんの存在が気になって仕方なかった。

 彼女は真面目にノートを取り、ときおり静かに頷いて、丁寧にページをめくっている。

 騒がしくもなく、でも確かに隣にいて――それだけで、不思議と心が落ち着いた。

(……この距離、悪くないな)

 そう思っていた矢先、肩をそっと突かれた。

 目を向けると、彼女がノートの端に小さく書いた文字を見せてきた。

『今日も一緒にお弁当、いい?』

 俺は自然と笑みがこぼれ、「もちろん」と返した。



 昼休み。校庭のベンチに並んで座る。

「裕貴くん、今日のおかずね、ちょっと変えてみたんだ」

「へえ、どれどれ……あ、これ新作?」

「うん。甘辛くしてみたの。合うといいんだけど……」

 弁当の中には、丁寧に詰められたおかずと、見慣れない卵焼きが一つ。

 一口食べて、目を見開く。

「……うまっ」

「ほんと!? よかった……失敗してたらどうしようかと思った」

 緊張が抜けた彼女の笑顔が、まっすぐに心に沁みる。
 こんな時間が、ずっと続けばいいのに――そう思っていた、そのとき。

「……はいはい、ごちそうさま。ラブラブ弁当劇場はそこまでー」

 背後から聞き慣れた声がして振り返ると、神木さんが腕を組んで立っていた。

 その表情には笑みが浮かんでいる。けれど、その瞳はどこかまっすぐで――少しだけ、優しかった。

「席、交換してあげて正解だったみたいね」

「やっぱり……わざとだったんだ?」

「バレバレじゃん。……はぁ、ちょっと惜しいことしたかも」

 肩をすくめてそう言う彼女に、佐々木さんはぺこりと頭を下げた。

「ありがとう、神木さん」

「……素直すぎるんだよ、ほんと」

 ため息交じりに言いながら、神木さんは小さく呟く。

「……お幸せにね」

 その言葉を最後に、彼女は足早にその場を去っていった。

 背中を見送ったあと、佐々木さんが俺の袖をそっとつまむ。

「裕貴くん。私ね、これからはもっと……頑張るね。ちゃんと、自分の気持ちで」

 その言葉に、俺も静かに頷いた。

「……俺も。ちゃんと、応えられるように」



 文化祭が終わっても、俺たちの物語は続いていく。

 そして、そのすぐ先には――“修学旅行”という、新たなイベントが待っていた。
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