64 / 87
きっと春樹は佐々木さんを狙っている
しおりを挟む
数日後。季節は少しずつ秋の深まりを見せ、教室の窓から入る風もひんやりと感じるようになっていた。
そんな中――沢田先生が朝のHRで発した言葉が、教室を一気にざわつかせた。
「来月の修学旅行先、決まったぞ。行き先は……京都・奈良だ!」
わあっ、と教室に歓声が上がる。
「マジで!? 俺、清水寺行ってみたかったんだよな!」 「鹿せんべい持ってかないとじゃん」 「旅館ってどうなるんだろ、部屋割り気になるー!」
それぞれが思い思いに期待を膨らませていく中、俺はふと隣の佐々木さんに目をやった。
「佐々木さんは、行ったことある?」
「ううん。奈良も京都も初めて。だから、すごく楽しみ」
彼女はふわっと微笑みながら、手帳に小さく“修学旅行”と書き込んでいた。その字を見ているだけで、なんだかこっちまでワクワクしてくる。
そんな俺の様子に気づいたのか、春樹が背後からひょいっと顔を出す。
「おいおい、まさかお前、修学旅行で告白とか考えてないよな?」
「は!? なに言ってんだよ」
「だってさ~、旅行っていう非日常空間だぜ? 枕投げ、恋バナ、夜の廊下探検……恋が始まらないわけがないっしょ?」
「小学生のノリかよ……」
ため息交じりに返すと、後ろから別の声が飛んでくる。
「ふーん、じゃあ夜の恋バナには私も参加しよっかな?」
いたずらっぽく笑っていたのは、もちろん神木さんだった。
「ちょ、女子は女子で話すんじゃないのか?」
「えー? 男子部屋に突撃とか、アリでしょ?」
冗談めかして言う彼女だったが、その目にはどこか、まだ揺れる感情の残滓が見えた気がした。
でも、それを深く追求するのは――今じゃない。
※
放課後。廊下を歩いていた俺の背中に、佐々木さんの声が追いかけてきた。
「裕貴くん」
「ん? どうしたの?」
「修学旅行の班、どうする?」
その言葉に、俺は足を止める。
「ああ……もう、そういうの考えなきゃいけない時期か」
「うん。先生が、班は4~5人でって言ってた。春樹くんはきっと一緒だよね?」
「まぁ、アイツはもう当然のような顔して俺の隣に座ってたし」
ふふっと佐々木さんが笑う。
「じゃあ……もし、良ければ、私も一緒に」
そう言った彼女の声はほんの少しだけ震えていた。
「もちろん。佐々木さんがいてくれたら、心強いし」
「……ありがとう」
そう返してくれたその声が、なんだかいつもより近くて、あたたかくて。
俺たちの“次のステージ”は、もうすぐ始まろうとしていた。
京都と奈良。新しい景色と、新しい気持ちと。
※
修学旅行の班決めが終わって数日後。放課後の教室では、春樹が珍しく真面目な顔をして、佐々木さんの席のそばに立っていた。
「なあ、佐々木」
名前で呼ばれたのが意外だったのか、佐々木さんは少し驚いたように顔を上げた。
「……どうかしたの、春樹くん?」
「えっとさ、今度の修学旅行で、よかったら班の中で一緒に行動できる時間とか、俺に合わせてくれないかなって思ってさ」
「えっ……?」
「いや、変な意味じゃないんだけど、せっかく班一緒になったんだし、ちゃんと話してみたくてさ」
春樹は頭を掻きながら、いつになく照れくさそうな表情を見せていた。
「……うん。わかった、私も楽しみにしてるね」
佐々木さんはいつもの穏やかな笑顔でそう答えた。その笑顔を見て、春樹の耳がほんのり赤く染まったのを、俺は偶然見てしまった。
(……春樹、もしかして)
そう思った矢先、春樹がこちらに向かって親指を立ててきた。
「なあ裕貴、俺、もうちょっとだけ頑張ってみるわ」
その目は真剣で、からかいなんかじゃなかった。
※
その日の帰り道。空はどんよりとした曇り空で、帰るタイミングを見計らうようにしていたとき、不意に窓の外から音が響いた。
ポツ、ポツ……やがて、ザーッと雨が降り始める。
「うわっ、マジかよ……」
傘は持ってきていない。けれど、迷っている間にも制服の肩が少しずつ濡れていく。
「裕貴くん、よかったら、入る?」
ふいに声がして、振り向くと、佐々木さんが一本の傘を差し出していた。
「いいの? ありがとう……」
俺は少し遠慮がちに傘に入る。狭い視界の中、肩と肩がかすかに触れるほどの距離。
歩くたびに、袖が擦れる。濡れた髪から落ちる雫の音が、やけに大きく感じた。
「雨、思ったより強いね」
「そうだね。……でも、なんか嫌いじゃない」
「え?」
「こうして、同じ傘に入って歩くのってさ。特別な時間って感じがする」
そんな俺の言葉に、佐々木さんは小さく笑って、でもその横顔は少しだけ赤く染まっていた。
照れたのはたぶん、俺の方も同じだった。
いつもより少し静かな、雨の帰り道。
心臓の鼓動だけが、やけに近くにあった。
そんな中――沢田先生が朝のHRで発した言葉が、教室を一気にざわつかせた。
「来月の修学旅行先、決まったぞ。行き先は……京都・奈良だ!」
わあっ、と教室に歓声が上がる。
「マジで!? 俺、清水寺行ってみたかったんだよな!」 「鹿せんべい持ってかないとじゃん」 「旅館ってどうなるんだろ、部屋割り気になるー!」
それぞれが思い思いに期待を膨らませていく中、俺はふと隣の佐々木さんに目をやった。
「佐々木さんは、行ったことある?」
「ううん。奈良も京都も初めて。だから、すごく楽しみ」
彼女はふわっと微笑みながら、手帳に小さく“修学旅行”と書き込んでいた。その字を見ているだけで、なんだかこっちまでワクワクしてくる。
そんな俺の様子に気づいたのか、春樹が背後からひょいっと顔を出す。
「おいおい、まさかお前、修学旅行で告白とか考えてないよな?」
「は!? なに言ってんだよ」
「だってさ~、旅行っていう非日常空間だぜ? 枕投げ、恋バナ、夜の廊下探検……恋が始まらないわけがないっしょ?」
「小学生のノリかよ……」
ため息交じりに返すと、後ろから別の声が飛んでくる。
「ふーん、じゃあ夜の恋バナには私も参加しよっかな?」
いたずらっぽく笑っていたのは、もちろん神木さんだった。
「ちょ、女子は女子で話すんじゃないのか?」
「えー? 男子部屋に突撃とか、アリでしょ?」
冗談めかして言う彼女だったが、その目にはどこか、まだ揺れる感情の残滓が見えた気がした。
でも、それを深く追求するのは――今じゃない。
※
放課後。廊下を歩いていた俺の背中に、佐々木さんの声が追いかけてきた。
「裕貴くん」
「ん? どうしたの?」
「修学旅行の班、どうする?」
その言葉に、俺は足を止める。
「ああ……もう、そういうの考えなきゃいけない時期か」
「うん。先生が、班は4~5人でって言ってた。春樹くんはきっと一緒だよね?」
「まぁ、アイツはもう当然のような顔して俺の隣に座ってたし」
ふふっと佐々木さんが笑う。
「じゃあ……もし、良ければ、私も一緒に」
そう言った彼女の声はほんの少しだけ震えていた。
「もちろん。佐々木さんがいてくれたら、心強いし」
「……ありがとう」
そう返してくれたその声が、なんだかいつもより近くて、あたたかくて。
俺たちの“次のステージ”は、もうすぐ始まろうとしていた。
京都と奈良。新しい景色と、新しい気持ちと。
※
修学旅行の班決めが終わって数日後。放課後の教室では、春樹が珍しく真面目な顔をして、佐々木さんの席のそばに立っていた。
「なあ、佐々木」
名前で呼ばれたのが意外だったのか、佐々木さんは少し驚いたように顔を上げた。
「……どうかしたの、春樹くん?」
「えっとさ、今度の修学旅行で、よかったら班の中で一緒に行動できる時間とか、俺に合わせてくれないかなって思ってさ」
「えっ……?」
「いや、変な意味じゃないんだけど、せっかく班一緒になったんだし、ちゃんと話してみたくてさ」
春樹は頭を掻きながら、いつになく照れくさそうな表情を見せていた。
「……うん。わかった、私も楽しみにしてるね」
佐々木さんはいつもの穏やかな笑顔でそう答えた。その笑顔を見て、春樹の耳がほんのり赤く染まったのを、俺は偶然見てしまった。
(……春樹、もしかして)
そう思った矢先、春樹がこちらに向かって親指を立ててきた。
「なあ裕貴、俺、もうちょっとだけ頑張ってみるわ」
その目は真剣で、からかいなんかじゃなかった。
※
その日の帰り道。空はどんよりとした曇り空で、帰るタイミングを見計らうようにしていたとき、不意に窓の外から音が響いた。
ポツ、ポツ……やがて、ザーッと雨が降り始める。
「うわっ、マジかよ……」
傘は持ってきていない。けれど、迷っている間にも制服の肩が少しずつ濡れていく。
「裕貴くん、よかったら、入る?」
ふいに声がして、振り向くと、佐々木さんが一本の傘を差し出していた。
「いいの? ありがとう……」
俺は少し遠慮がちに傘に入る。狭い視界の中、肩と肩がかすかに触れるほどの距離。
歩くたびに、袖が擦れる。濡れた髪から落ちる雫の音が、やけに大きく感じた。
「雨、思ったより強いね」
「そうだね。……でも、なんか嫌いじゃない」
「え?」
「こうして、同じ傘に入って歩くのってさ。特別な時間って感じがする」
そんな俺の言葉に、佐々木さんは小さく笑って、でもその横顔は少しだけ赤く染まっていた。
照れたのはたぶん、俺の方も同じだった。
いつもより少し静かな、雨の帰り道。
心臓の鼓動だけが、やけに近くにあった。
12
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする
夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】
主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。
そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。
「え?私たち、付き合ってますよね?」
なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。
「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
イケボすぎる兄が、『義妹の中の人』をやったらバズった件について
のびすけ。
恋愛
春から一人暮らしを始めた大学一年生、天城コウは――ただの一般人だった。
だが、再会した義妹・ひよりのひと言で、そんな日常は吹き飛ぶ。
「お兄ちゃんにしか頼めないの、私の“中の人”になって!」
ひよりはフォロワー20万人超えの人気Vtuber《ひよこまる♪》。
だが突然の喉の不調で、配信ができなくなったらしい。
その代役に選ばれたのが、イケボだけが取り柄のコウ――つまり俺!?
仕方なく始めた“妹の中の人”としての活動だったが、
「え、ひよこまるの声、なんか色っぽくない!?」
「中の人、彼氏か?」
視聴者の反応は想定外。まさかのバズり現象が発生!?
しかも、ひよりはそのまま「兄妹ユニット結成♡」を言い出して――
同居、配信、秘密の関係……って、これほぼ恋人同棲じゃん!?
「お兄ちゃんの声、独り占めしたいのに……他の女と絡まないでよっ!」
代役から始まる、妹と秘密の“中の人”Vライフ×甘々ハーレムラブコメ、ここに開幕!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる