80 / 87
彼氏と彼女
しおりを挟む
翌朝。目覚ましが鳴る前に、俺は自然と目を覚ました。
頭がふわふわしてる。けど、それは寝起きのせいじゃない。
――昨日、俺は佐々木悠里と付き合うことになった。
その現実がじわじわと実感に変わってきて、思わずひとりで顔がニヤける。
「……落ち着け俺。にやけるな俺。絶対顔キモくなってるから……」
そんなことをブツブツ言いながらリビングへ向かうと、すでに朝食の準備が整っていた。
「おはよう、裕貴くん」
エプロン姿の悠里が、振り返って微笑む。
「お、おはよう……って、えっ? いつの間に?」
「ちょっと早く作ってみたの。せっかく彼女になったんだし、朝ごはんくらいは作ってあげたくて」
そう言って出されたトーストとスクランブルエッグ、ベーコンの朝食プレート。
うまそう。いや、普通にうまそう。
「……なんか、彼女っていうより、奥さん感すごくない?」
「え、ほんと? えへへ……それはそれで、嬉しいかも」
照れたように笑うその姿が、なんというか、ズルい。可愛すぎる。
でも彼女は、それをあくまで“自然体”でやってのけるから、なおさらタチが悪い。
「っていうかさ、学校でもそんな感じで接してきたら、俺たちマジで目立つぞ」
「ふふ、大丈夫。ちゃんと学校では“いつもの佐々木悠里”でいくから。……メイドのことも、ちゃんと隠すからね」
「ああ、それは助かる。いろいろ誤解されそうだしな」
「でもね」
彼女はふいに俺のネクタイを直しながら、少しだけ声を潜めて言った。
「恋人ってことは、隠さないよ?」
「……え」
「昨日OKしたばっかりなのに、もう秘密とかやだもん。……自慢したいし」
目を逸らしながらそう呟く彼女の横顔を見て、俺の胸の中に、なんとも言えない温かさが広がった。
「……そっか。じゃあ、俺もちゃんと“彼氏”やるよ」
「うんっ」
※
そうして並んで登校する途中、学校の坂道で。
「あれ? あの二人って……」
「まさか、付き合ってるの!? うそー!」
ちらほらと視線が集まってきた。
だけど、悠里はそれに動じることもなく、いつもの優しい口調で俺に囁いた。
「ねえ裕貴くん。ちょっとだけ、手……繋いでもいい?」
「まじか、ここで? みんな見てるけど……」
「いいの。ちゃんと彼女ですって、言いたいの」
そう言って、彼女がそっと俺の手を取ってきた。
柔らかくて、あったかい。
「……わかった。俺の方こそ、よろしくな」
「うん。……だいすき」
その瞬間、後ろから春樹の声が聞こえた。
「おーい、裕貴ぃーーー!? なんでイチャついてんだお前らぁああ!!」
「わっ!? 春樹!? なんでこんな朝早くから!?」
「いやいやいや、先に言えよ! 付き合ったんなら報告しろよ! で、いつから!? どこで!? 詳細は!?」
「うるさいうるさい! 朝っぱらから騒ぐなっ!」
俺が叫ぶ横で、悠里はくすくす笑っている。
「春樹くん、またおせっかいモードだね。裕貴くん、人気者だなあ」
「やめて、そういうの、地味に恥ずかしいから……」
そんなドタバタの朝を経て、俺たちの“彼氏と彼女”としての高校生活が、にぎやかにスタートしたのだった。
※
教室に入った瞬間、空気がピリついているのが分かった。
「マジで佐々木さんと……?」
「え、うそ……あの二人って、付き合ってたの!?」
そんなひそひそ声が、あちこちから聞こえてくる。
俺はそっと自分の席に向かう。隣には、いつも通り佐々木――いや、悠里がにこやかに微笑んでいた。
「みんな、気になってるみたいだね」
「まあ、そりゃそうだろ……学校のマドンナと俺だし」
「ふふっ、確かに」
軽くからかわれて、俺は思わず頭をかいた。
その時、後ろの席から声がかかった。
「おっはよー、裕貴。あと悠里も」
「神木さん……いや、神木。おはよう」
神木はいつもの調子で俺をからかうように笑うが、どこか安心したような目をしていた。
「……伝えたんだね。ちゃんと」
悠里が微笑んでうなずく。
「うん、神木ちゃんのおかげ。ありがとう」
「ま、私はもう諦めた側だからね。……でも、正直に言うと、ちょっとだけ悔しいかな」
「……」
「でも、それ以上に安心してる。ね、裕貴。悠里のこと、頼んだよ?」
「ああ。任せてくれ」
そんなやり取りをしていた時だった。
「あ、あの……っ」
声をかけてきたのは、教室のドアの外から顔を覗かせた、澤部さんだった。
小さな体を隠すようにドアの陰に隠れながら、制服の袖をぎゅっと握ってモジモジしている。
「……澤部さん?」
俺が声をかけると、彼女は目をそらしたまま、かすれそうな声で言った。
「……つ、つきあった、んですか……? 佐々木さんと……」
「……うん。そうなんだ」
言葉を絞り出すようにしていた彼女は、それを聞いた瞬間、ぴくんと肩を揺らした。
「……そっか。おめでとう、ございます……」
その小さな声には、かすかに震えがあった。
彼女は深くお辞儀をすると、そのまま何も言わずにドアの向こうに戻っていった。
「……澤部さん」
その背中を見送るしかない自分が、少しだけもどかしかった。
隣で悠里がそっと俺の袖を引く。
「……ちゃんと向き合ってるね、裕貴くん」
「ああ。でも、もう少し……優しく、できたかなって思ってる」
「……それは、きっと澤部さんもわかってくれてるよ」
悠里はそう言って、俺の手の甲にそっと自分の手を重ねた。
教室はチャイムの音で静まり返る。
けれど俺の心の中は、ざわめきがまだ少しだけ残っていた。
頭がふわふわしてる。けど、それは寝起きのせいじゃない。
――昨日、俺は佐々木悠里と付き合うことになった。
その現実がじわじわと実感に変わってきて、思わずひとりで顔がニヤける。
「……落ち着け俺。にやけるな俺。絶対顔キモくなってるから……」
そんなことをブツブツ言いながらリビングへ向かうと、すでに朝食の準備が整っていた。
「おはよう、裕貴くん」
エプロン姿の悠里が、振り返って微笑む。
「お、おはよう……って、えっ? いつの間に?」
「ちょっと早く作ってみたの。せっかく彼女になったんだし、朝ごはんくらいは作ってあげたくて」
そう言って出されたトーストとスクランブルエッグ、ベーコンの朝食プレート。
うまそう。いや、普通にうまそう。
「……なんか、彼女っていうより、奥さん感すごくない?」
「え、ほんと? えへへ……それはそれで、嬉しいかも」
照れたように笑うその姿が、なんというか、ズルい。可愛すぎる。
でも彼女は、それをあくまで“自然体”でやってのけるから、なおさらタチが悪い。
「っていうかさ、学校でもそんな感じで接してきたら、俺たちマジで目立つぞ」
「ふふ、大丈夫。ちゃんと学校では“いつもの佐々木悠里”でいくから。……メイドのことも、ちゃんと隠すからね」
「ああ、それは助かる。いろいろ誤解されそうだしな」
「でもね」
彼女はふいに俺のネクタイを直しながら、少しだけ声を潜めて言った。
「恋人ってことは、隠さないよ?」
「……え」
「昨日OKしたばっかりなのに、もう秘密とかやだもん。……自慢したいし」
目を逸らしながらそう呟く彼女の横顔を見て、俺の胸の中に、なんとも言えない温かさが広がった。
「……そっか。じゃあ、俺もちゃんと“彼氏”やるよ」
「うんっ」
※
そうして並んで登校する途中、学校の坂道で。
「あれ? あの二人って……」
「まさか、付き合ってるの!? うそー!」
ちらほらと視線が集まってきた。
だけど、悠里はそれに動じることもなく、いつもの優しい口調で俺に囁いた。
「ねえ裕貴くん。ちょっとだけ、手……繋いでもいい?」
「まじか、ここで? みんな見てるけど……」
「いいの。ちゃんと彼女ですって、言いたいの」
そう言って、彼女がそっと俺の手を取ってきた。
柔らかくて、あったかい。
「……わかった。俺の方こそ、よろしくな」
「うん。……だいすき」
その瞬間、後ろから春樹の声が聞こえた。
「おーい、裕貴ぃーーー!? なんでイチャついてんだお前らぁああ!!」
「わっ!? 春樹!? なんでこんな朝早くから!?」
「いやいやいや、先に言えよ! 付き合ったんなら報告しろよ! で、いつから!? どこで!? 詳細は!?」
「うるさいうるさい! 朝っぱらから騒ぐなっ!」
俺が叫ぶ横で、悠里はくすくす笑っている。
「春樹くん、またおせっかいモードだね。裕貴くん、人気者だなあ」
「やめて、そういうの、地味に恥ずかしいから……」
そんなドタバタの朝を経て、俺たちの“彼氏と彼女”としての高校生活が、にぎやかにスタートしたのだった。
※
教室に入った瞬間、空気がピリついているのが分かった。
「マジで佐々木さんと……?」
「え、うそ……あの二人って、付き合ってたの!?」
そんなひそひそ声が、あちこちから聞こえてくる。
俺はそっと自分の席に向かう。隣には、いつも通り佐々木――いや、悠里がにこやかに微笑んでいた。
「みんな、気になってるみたいだね」
「まあ、そりゃそうだろ……学校のマドンナと俺だし」
「ふふっ、確かに」
軽くからかわれて、俺は思わず頭をかいた。
その時、後ろの席から声がかかった。
「おっはよー、裕貴。あと悠里も」
「神木さん……いや、神木。おはよう」
神木はいつもの調子で俺をからかうように笑うが、どこか安心したような目をしていた。
「……伝えたんだね。ちゃんと」
悠里が微笑んでうなずく。
「うん、神木ちゃんのおかげ。ありがとう」
「ま、私はもう諦めた側だからね。……でも、正直に言うと、ちょっとだけ悔しいかな」
「……」
「でも、それ以上に安心してる。ね、裕貴。悠里のこと、頼んだよ?」
「ああ。任せてくれ」
そんなやり取りをしていた時だった。
「あ、あの……っ」
声をかけてきたのは、教室のドアの外から顔を覗かせた、澤部さんだった。
小さな体を隠すようにドアの陰に隠れながら、制服の袖をぎゅっと握ってモジモジしている。
「……澤部さん?」
俺が声をかけると、彼女は目をそらしたまま、かすれそうな声で言った。
「……つ、つきあった、んですか……? 佐々木さんと……」
「……うん。そうなんだ」
言葉を絞り出すようにしていた彼女は、それを聞いた瞬間、ぴくんと肩を揺らした。
「……そっか。おめでとう、ございます……」
その小さな声には、かすかに震えがあった。
彼女は深くお辞儀をすると、そのまま何も言わずにドアの向こうに戻っていった。
「……澤部さん」
その背中を見送るしかない自分が、少しだけもどかしかった。
隣で悠里がそっと俺の袖を引く。
「……ちゃんと向き合ってるね、裕貴くん」
「ああ。でも、もう少し……優しく、できたかなって思ってる」
「……それは、きっと澤部さんもわかってくれてるよ」
悠里はそう言って、俺の手の甲にそっと自分の手を重ねた。
教室はチャイムの音で静まり返る。
けれど俺の心の中は、ざわめきがまだ少しだけ残っていた。
12
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする
夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】
主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。
そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。
「え?私たち、付き合ってますよね?」
なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。
「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
イケボすぎる兄が、『義妹の中の人』をやったらバズった件について
のびすけ。
恋愛
春から一人暮らしを始めた大学一年生、天城コウは――ただの一般人だった。
だが、再会した義妹・ひよりのひと言で、そんな日常は吹き飛ぶ。
「お兄ちゃんにしか頼めないの、私の“中の人”になって!」
ひよりはフォロワー20万人超えの人気Vtuber《ひよこまる♪》。
だが突然の喉の不調で、配信ができなくなったらしい。
その代役に選ばれたのが、イケボだけが取り柄のコウ――つまり俺!?
仕方なく始めた“妹の中の人”としての活動だったが、
「え、ひよこまるの声、なんか色っぽくない!?」
「中の人、彼氏か?」
視聴者の反応は想定外。まさかのバズり現象が発生!?
しかも、ひよりはそのまま「兄妹ユニット結成♡」を言い出して――
同居、配信、秘密の関係……って、これほぼ恋人同棲じゃん!?
「お兄ちゃんの声、独り占めしたいのに……他の女と絡まないでよっ!」
代役から始まる、妹と秘密の“中の人”Vライフ×甘々ハーレムラブコメ、ここに開幕!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる