【完結】 愛されない私と隠れ家の妖精

紬あおい

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4.束の間の休息

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月日が経つのが早過ぎて、気付けば結婚式まであと二日だ。
最終確認も終え、ヴェルナルディ公爵邸へ荷物も送り、やっとひと息ついた感じだ。

一人で庭園を散歩しながら、グランシエル公爵家で過ごすのも、これで最後かぁと感慨に耽っていた。
この庭園に咲く色鮮やかな花達は、いつも私を癒してくれた。
楽しい日だけでなく、悔しかった日も、悲しかった日も。

「アリシア嬢、ここに居たのか。」

一人思い出に浸っていたら、ヴェルナルディ公爵令息様が物陰から出て来て驚いてしまった。

「ヴェルナルディ公爵令息様、今日は訪問の予定はなかった筈ですが、何か?」

「時間が出来たので、妻となる人の顔を見に来ただけだが?というか、いつまでヴェルナルディ公爵令息と呼ぶつもりだ?」

「え………?」

「そろそろ、俺のことを名前で読んでくれないか?ジークでもいいのだが。」

「ジ、ジークハルト様…」

「早目に慣れてくれよな?」

「はい……善処します…ジークハルト様もアリシアとお呼びください。」

「アリシア…」

そして、隙を突いて抱き寄せられる。
最初はそっと労わるように。
それから徐々に力強く。
何となく上を向いたら、口付けられそうな雰囲気なので、胸に顔を埋めてじっとしている。
体温が私より高いのか、心地良いあたたかさを感じるし、香水ではなさそうなのに、いい匂いがする。

でも、安心したいのに、ふと不安になる。
この人は、何を考えて私を抱き締めるのだろう。
あなたが好きなのは妹の方なのに。
そんなことを考えると、自分が惨めになるだけだ。
何も考えちゃダメ。

これからこの人の庇護の元で生きていくのだもの。
求められるものを与え、疑問は持たない。
そうやって生きていかなければならない。

「何を考えている?」

「ジークハルト様のことを考えていました。本当に、私の旦那様になるのだなぁと。」

「そうか…」

「ジークハルト様は、本当に私で良かったのですか?」

「前に話した通りだ。君となら上手くやれそうだよ。」

抱き締めたままのジークハルト様の本当の気持ちは分からない。
好きだとも愛しているとも言われたことがない。
私をどう思っていますかなんて、掘り下げて聞くのが怖い。
だから、多少の違和感を感じても、そっと蓋をして気付かない振りをしよう。

この人の心が欲しいなんて、わがままは言わない。
隣にそっと、ちょこんと傍にられたらいいな位にしておこう。
欲さえ出さなければ、きっといつかは夫婦らしくなっていくのだろうから。
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