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34.謁見
しおりを挟む結婚式まで、あとひと月半。
公爵家の執務以外に、ドレスや指輪のデザインも決まり、最速で注文したり、慌ただしい毎日を送っていた。
結婚式に関する全てのスケジュールは、予めソフィア様とお母様が押さえてくれていたし、ヘイゼルが私にも似合いそうな流行り物をピックアップしてくれており、システイン様とデザインを相談する時に助かった。
そんなある日、皇宮から急に呼び出しが来た。
「リシェ、陛下との謁見だが一緒に来てもらうぞ。たぶん聖剣の話だろう。」
馬車まで手配しての急な呼び出しに、システイン様と慌てて支度をして皇宮に向かう。
謁見前に、エドヴァルド皇太子殿下に迎えられる。
「すまない、急ぎで。すぐ陛下に会えるから、ついて来い。」
何やら緊迫した様子に、システイン様が「大丈夫」と言わんばかりに私を見て頷くので、繋いだ手を強く握り返した。
「帝国の、、、」
「システイン、リシェル、今日は堅苦しい挨拶は抜きでよい。二人とも急にすまん。取り急ぎ、相談がある。」
陛下は、ここヘレンスフィア帝国を取り巻く事情を説明しだした。
まず、帝国は皇帝陛下と次期皇帝となる皇太子の魔力で帝国全体を魔法陣で保護している。
それは必ずニ人体制で行う必要があり、皇帝が皇太子のどちらかが亡くなると魔法陣が消滅する。
しかし、通常は年齢的に皇帝が崩御するので、次期皇帝と皇太子が決定していれば次世代に魔力は受け継がれ、魔法陣は保たれる。
そうして、他国の侵略を殆ど受けずに帝国を維持してきた。
しかし、約五百から七百年毎に、他国で発生する人心の乱れを利用した黒魔法の拡大で、国内が荒れ、周辺国との戦争が勃発し、帝国も被害を受けた事例があった。
今まさに、その事態が起ころうとしており、聖剣が復活したと思われる。
聖剣の主は、聖剣自らが選択する為に、今回はシステインとリシェルが選ばれた。
「具体的に何をすればいいのでしょうか?」
システイン様が口を挟む。
「今回と過去の事例が比較にならないのは、ここにロクサリア王女が居ることだ。」
陛下は、続けて説明する。
今までは、帝国内は魔法陣で保護しており、他国を制圧するだけで良かったが、最も黒魔法に心酔しているだろうロクサリア王女を外交の名目で受け入れてしまった。
ラギラレア王国は帝国騎士団を率いたエドヴァルド皇太子とケンドリックを軸に、帝国騎士団に制圧させる。
システインとリシェル、ロドルフォはアザレア宮を対処せよ、という話だ。
「俺が王女一人を殺せばいいって話ですよね?」
「いや、そんなに簡単な話ではない。」
ロクサリア王女は、システインに悪様にされたことに強い怒りを持ち、滞在する離宮の使用人達を黒魔法で操り始めた。
皇太子が早目にその気配に気付いたので、皇宮から最も離れた来客用のアザレア宮に使用人ごと移動させた。
今は「警備に問題がありそうなので」と外出禁止、所謂、軟禁状態にしている。
「ここの使用人達は黒魔法を解けば元に戻る筈だが、ロクサリア王女とラギラレア王国から連れて来た者は、自身の内側にある感情と黒魔法が結び付いている為、解くのは難しいと思う。そこで、その者達だけを粛清して欲しいのだ。」
「帝国民は守りたい、ラギラレア人は処分していいって話ですか…」
ここで私は初めて口を開く。
「私に出来ることは何でしょうか?」
「リシェルは魔力の方だ。リシェル自身を保護の魔力で守りながら、治癒で人の心の闇を治療し、再生で正常な心と体に戻すことだ。先程も言ったが、ラギラレア王国の者達には効果がないと予想している。表面だけ取り去るのと、中まで浸透したものを抉り取るのでは違うからな。念の為、護衛にロドルフォを付ける。」
システイン様が口を挟む。
「全ての人を正常に出来ないこともないでしょうが、それではリシェの体力が保たないでしょうし、ともすれば命の危機に瀕する。」
「そうだ。だから帝国民に限るとしたんだ。それはリシェルに納得してもらえると助かる。」
システイン様は、眉間にシワを寄せて考えている。
私はその結論に従うつもりでいるので、緊張しながら待つ。
「分かりました。帝国民を避難させた後、最悪アザレア宮ごと吹っ飛ばしても文句は無いですね?」
「やってくれるか、システイン!被害が最小限であれば、やり方は任せる。」
玉座から陛下が身を乗り出す。
「やりますが、終わったら結婚式以降、休みを半年ください!妻と旅行に行きますから!!」
キリッと言い放つシステイン様を見て、皇帝陛下と皇太子殿下が唖然とする。
そして、殿下が笑い出した。
「ぷっ、ぷははは!シス、お前、ほんとにブレないな!!隠れ家でのひと月が物凄く楽しかったんだな?ラギラレア王国は、俺とケンドリックで数日でカタを付けてくるから、そっちはリシェとよろしく頼むよ。」
「システインよ、任務完了後は好きにして良い。何なら皇室所有の避暑地の邸宅も貸してやる。絶対にリシェルを守って、好きに暴れろ!何せ昔から『ネーデルランドの男は自分の女に手を出されると国すら滅ぼす』と言われているからな。」
皇帝陛下はニヤリと笑った。
「御意。」
こうして、システイン様と私は皇宮を後にし、公爵邸に戻った。
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