【完結】 心だけが手に入らない 〜想い人がいるあなたは、いつか私を見てくれますか?〜

紬あおい

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6.新婚旅行 ③

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しばらくして、目を開いた時、隣にフィーロがいないことに気付いた。
不思議に思って、廊下に出てみると、話し声がする。
廊下を曲がった辺りだろう。
そっと近付いて、陰で聞き耳を立てる。

「アンは幸せなのか?」

「ええ、ジョゼフと穏やかに暮らしてるわ。」

「幸せかと聞いているんだ!」

「ええ…」

「俺といた時より?」

「ええ。今の方が。あなたは?」

「上手くやってるよ。家の為にも。」

「そう。良かった。奥様、可愛らしい方ね。大切にしなきゃ。」

「本当にそう思ってる?」

「本当よ。私達はそういう仲ではないでしょう?」

「そうか…アンにはそうかもな。でも、俺は!あの時、どんな気持ちで君と離れたか!!」

ガタッという音と衣擦れの音。
もう私は、そこにいられなかった。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


部屋に帰ろうとしたけれど、今とてもフィーロと顔を合わせられない。
一人とぼとぼと外に出る。
あてもなく山の方へ歩いてみると、木の切り株を見つけたので、腰掛けて夜空を仰ぐ。

こんな日も星は綺麗ね…
フィーロったら酷い男だわ。
新婚旅行だと喜ばせておいて、昔の女と会ってるなんて。
アンジュさん、綺麗な人だったなぁ。
大人の色香って感じ?ありゃ敵わないわ。

「奥様、大丈夫ですか?」

突然話しかけられて、びっくりする。
声に出したつもりはなかったが、どうやらブツブツ言っていたらしい。

「あ…ジョゼフさん…大丈夫…です…」

到着した時は気付かなかったが、ジョゼフもかなりの美丈夫だ。
髪の色はブルーグレーだが、顔立ちが何となくフィーロに似ている。

「あのぅ、ジョゼフさんて、もしかしてフィーロ様と…」

「俺は、公爵家とは絶縁しています。今は、妻のアンジュとここに住んでいます。」

「ああ…だから、フィーロ様とお顔立ちが似てるんですね…」

ジョゼフは困った顔をした。
似ているということを好ましく思っていないのだろう。

「ところで奥様は、何故ここに?」

「あぁ…ちょっと散歩?何だか、急に外の空気を吸いたくなって…」

ジョゼフは少し考えた後、話し出した。

「アンジュとフィーロのことですか?」

ジョゼフとアンジュは、結婚を前提に交際を重ね、公爵を継ぐ予定だった。
しかし、アンジュとフィーロの関係が親密度を増し、二人の仲が疑われ始めた。

このままでは、兄弟で一人の女性を奪い合う醜聞になりかねないと、ジョゼフは公爵の地位か、アンジュかの選択を迫られた。
元々自分には公爵は負担だと感じていたこともあり、アンジュも諦め切れなかった為、廃嫡を願い出て、今はここを管理しながら、アンジュと暮らしているそうだ。

「フィーロ様は、アンジュさんをとても愛していらっしゃるのね…わざわざ会いに来るなんて…」

私が夜空を見上げたまま呟くと、ジョゼフは否定した。

「あれは、愛ではないと思います。年上の女性に対する憧れや、手に入らなかったものへの執着だと。現に、フィーロにも公爵家を捨てて、彼女と一緒になるという選択肢もあった筈です。でも、彼はそれをしなかったし、レイシア様と結婚した。捨てられないものがたくさんあるんですよ、フィーロには。捨てる勇気もない男だ。」

ジョゼフは少し怒ったように言った後、はっと我に返って、無理矢理微笑んだ。

「アンジュさんはどうなんでしょうね…」

「アンジュの気持ちは俺にあると思いたいんですがね…レイシア様は何か見たから、今ここにいらっしゃるんですよね?」

「よく分からないです…聞こえただけで、見てはいないので…」

「そうですか…取り敢えず、中に入りましょう。夜風は冷えますから。あたたかいお茶でも用意しますよ?」

差し伸べてくれた手を取ろうとした時、切り株に躓いて、気付けばジョゼフの腕の中にいた。

「あ、ごめんなさ、、、」

言い掛けたところで、フィーロの声がした。

「何をしている?探したぞ??」

フィーロは明らかに怒っている。
走って来たようで、肩で息をしている。
今にもジョゼフに掴みかかる勢いだ。

「星を見に来たの。で、立ち上がろうとしたら躓いて、ジョゼフさんに支えてもらっただけよ?」

フィーロはジョゼフの手から私を奪い取るようにして抱き上げた。
ジョゼフは軽蔑したようにフィーロを見て、挑発してきた。

「俺は、お前と違って、人の女には手を出さん。今も何かしてたから、レイシア様は外に出たんだろう?アンジュとやったのか?いい女だろう?」

「お前、何を!!」

フィーロが焦る。

「フィーロ様、下ろしてください。自分で歩けます。ジョゼフさんとお話しになった方がいいのでは?」

フィーロの腕から力が抜けたのを感じて、私は自力でその腕を離す。
そして私は、一人とぼとぼと部屋に戻った。
部屋の前にアンジュがいて、何か言いたそうだったが、今はとてもそんな気になれず、無視して部屋に入った。
アンジュも引き留めることまではしなかった。

一人になると、だんだん腹が立ってきたので、八つ当たりで、テーブルの上の食べ残した食事をゴミ箱にぶん投げて、高そうなワインはがぶ飲みしてやった。
馬鹿なことしてバチが当たったのか、激しい嘔吐にみまわれて、フィーロが戻ってきた時は、吐瀉物まみれで倒れていたらしい。
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