山王学園シリーズ〜カサブランカの君へ〜

七海セレナ

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199.【ありえない力作】

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各部の部長によるくじ引きはジャンケン大会と違いあっさり終わってしまった。


雅臣「…………」


俺は引いた番号の紙をギュッと握りしめていると、


蘭世「まあ中々いいんじゃね?」

夕太「何でくじびきは部長なのさー!俺が引けば良かったんだよー」


頬を膨らませむくれる柊を梓蘭世がしつけぇなと叱り飛ばした。

___俺の引いた番号は4番。

合唱部は俺達の後のオーラスを引き当てた。

間が悪いというか、言いがかりを付けられたばかりなので自分の引き当てた順番に過敏になってしまう。


楓「ま、俺らが再三盛り上げて合唱部は地味なくらいでいいだろ」

雅臣「何でそうなるんだよ!!……三木先輩すみません」

三木「ん?別にいいぞ、気にするな」


言いがかりをつけられた相手と本当なら顔も合わせたくないだろうに、三木先輩は実に大人の対応だ。


三木「さ、申請通りこのまま体育館で練習するぞ」

梅生「若干早いですけど始めて大丈夫ですか?」

三木「今日体育館使うのは俺らだけって聞いてるから大丈夫だ。無事勝って体育館も取れたしラッキーだったな」


その瞬間、誰かのスマホのバイブ音がうるさいくらい鳴り出した。


夕太「うお、……はいはーい、いちねぇ?え、もう着いた?待ってて門の前まで取り行くから」


お姉さんからの電話だったようで、柊はそのまま会話をしながら身振り素振りで俺達に行ってくると伝えて体育館を出ていった。


蘭世「いっそがしい奴だな」

楓「……そーいや三木先輩、合宿中のご飯ってどうするんですか?」

雅臣「え?もしかしてそれも申請が必要でしたか?」


せっかく部長に任命されたのに飯のことすら何も考えてなかった俺はまた焦る。


三木「今日は19時まで食堂が解放してるらしい。運動部も今日から合宿のとこが多いから明日の朝は6時から開けるそうだ」

蘭世「外食は確か顧問の申請さえ通れば可だろ?」

雅臣「そ、そうなんですね……助かりました。もし外食するなら俺が顧問に許可取りに行きます」

三木「助かるよ」


三木先輩がいて良かった……。

でも俺もせめて今後部長としてやるべき事を聞いておいた方がいいよな。

合宿中に機会があればと考えていると、


夕太「お待たせしましたー!!……つっかえるな、っと」


体育館後ろの扉から戻ってきた柊の格好に俺は目を疑った。


蘭世「夕太何だその格好!!」

梅生「す、すごい、柊……」

夕太「へへっ、じゃじゃじゃじゃーん!!見てよこれ、いちねぇの力作!」


柊は全身白の燕尾服に白いエナメルの革靴を履いて、しかも背中には謎のデカイ天使の羽根のようなものを背負っていた。

ワサワサと音を鳴らして近づいてくるその姿に俺はひっくり返りそうになる。

燕尾のジャケットは全面同色のスパンコールが彩られていて、体育館の天井際の窓から入る自然光に反射してキラキラと輝いている。


楓「……やると思ったんだよね、夕太くんは」


皆が驚きの表情を浮かべる中1人冷静な蓮池はさすが幼馴染と言うべきか、長年の付き合いから柊の行動パターンが予測出来たのだろう。

でもそれならもっと早く言ってくれ!!


楓「んでその紐は?」

夕太「よくぞお気づきで……こうやってー、ほっ!引っ張ると!」

梅生「おぉー!」


柊が燕尾の下に着こんだベストの裏側に付いた紐を両端から引っ張ると、どういう仕組みになってるのか一瞬にしてジャケットの裏側から真っ赤なチュール生地が現れた。

腰から足元にかけてぶわっとパニエの如く広がったチュール生地は段々になっていて、紅白歌合戦の衣装さながらのド派手さだ。

2段階の衣装チェンジ仕様に俺は動揺が止まらず腰を抜かしそうになり口をあんぐり開けてしまった。


雅臣「お、お、お、お前それ……」

夕太「いちねぇが言うにはコンセプトは天使なんだって。もうめっちゃ力入れて作ってくれてさ!!」


柊は上目遣いで俺の周りをクルクルと見せびらかすようにウロチョロしているが、


雅臣「シンプルで簡単ってのはどこにいったんだよ!!」


___ま、また騙されてしまった。

想像とまるで違う出来栄えに思わず怒鳴ってしまう。

一条先輩に説明していた時はあんなに簡単だのシンプルだの言っていたくせに、これじゃあ去年の漫才研究会といい勝負じゃないか!!

体育館での発表が決まったばかりだというのに更にはこんなド派手な衣装を着るだなんて……。

今から体育館に集まった人皆に指をさされて大笑いされる未来が見えて恐ろしくてゾッと身震いしてしまう。


楓「役満すぎるって?」

雅臣「お前も分かってたなら早く教えてくれよ!」

楓「負けるわけにはいかないからね」


一体どこにと思うくらい蓮池の目は燃えていて、こいつらはどうしてこうも変な所で負けず嫌いなんだと睨む。


夕太「はい、これが設計図!えっとねーこれは蘭世先輩のでー、」


柊はお姉さんが作成した本物のプロの設計図を1人1人に手渡していくがそれを見てまたゲンナリする。

以前採寸したcmに合わせて作られた設計図は1人ずつ幅や丈も違ってそれはもう細かく懇切丁寧に書かれている。

ここまで手の込んだ事をして貰ったのにやっぱり嫌ですだなんて失礼すぎて言えるわけがない。

舞台を眺めながらこのトンチキな衣装を着た男子高校生があそこに7人も並ぶのかと思うと考えるだけで目眩がしてきた。


三木「よく出来てるな……うちの衣装も頼もうかな」

蘭世「カラフルジュエリストより派手じゃね?」

雅臣「ひ、柊、ち、ちなみにその羽は……」


アイドルより派手にしてどーすると震えながら1番背負いたくないものの理由を訊ねてみると、


夕太「これは玉塚ぎょくづか歌劇団のオマージュ!天使のイメージならこれもありじゃない?って俺が言ったらめっちゃ喜ばれて即採用」


なんとお姉さんが1本ずつ羽根を縫い付けた渾身の作らしく既に7人分用意してくれてるらしい。

ば、馬鹿野郎!!

男子高校生と天使が何の関係があるんだと俺が1人戦慄く中、一条先輩は羽が気になるのかさわさわと撫でている。


梅生「蘭世のお母さんみたいだな」


一条先輩の言葉に梓蘭世の母親で元玉塚男役トップスターの梓志保を思い浮かべる。

俺達がこんな派手派手しい羽根を背負ってどうしろと言うんだ!

許されたトップスターのみが背負う羽根には意味があるけど、俺達高校生が背負ったところで白鳥のギャグにしかならないぞ!!!


夕太「ここのチュールの色はそれぞれメンカラみたいに分けといてだって!だから後で決めような……ってあちぃ、一旦脱いでいい?」

楓「早く抜いで部室置いてきなよ」

夕太「やべ、いちねぇからまた電話……皆の分の布も持ってきてくれてるから部室に全部運び込んどくよ!あ、あと誰か家庭科室の使用許可とミシン貸し出しだけ頼みたい!!」


再びバタバタと出て行ってしまった柊に、いよいよ諦めるしかないと言葉が出なくて項垂れることしかできない。


三木「それしてもここの空調調節されたか?暑いな」

蘭世「さっと練習して、冷えた部室戻ろうぜ」


そうだ、すっかり衣装に気を取られていたが俺達 は練習をするためにここにいたんだった。

じんわりと肌に滲む汗に俺はふと首元のネックレスの存在を思い出す。

汗で錆びたら嫌だし外そ___


楓「何しとんだ」

雅臣「い、いや、ストレッチだ」


首の後ろに持ってきた右手を無理やり頭に置いて伸ばす振りをする。


も、もしこいつにバレたら絶対バカにされる。


ネックレスなんかつけてきてイキってるだとか再三言われるに決まってると察した俺は咄嗟に誤魔化した。

ネックレスが錆びるのは嫌だし、舞台練習中緞帳の裏にでも隠れてそっと外してズボンのポケットにしまおう。

そして部室に戻ったらタイミングを見計らって鞄にしまうことを決めた俺は、練習しましょうと皆に声を掛けた。



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