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244.【無駄なこと】
しおりを挟む三木「……」
先輩は一瞬黙り込んでしまったので、急いで言葉を紡ぐが自分の声がどこか情けなく裏返った。
雅臣「い、いや本当にありがたいんです!!すごく頼りになるし俺はほんとに考え無しだからものすごく助かるんですけど……!!」
三木先輩がそばにいると正しい道がどんどん見えてきて、そのまま進めばいいんだと自信が湧いてくる。
でも……。
雅臣「いくら何でも頼りすぎだよなって、思って……」
俺は次第に項垂れながら小さく呟いた。
全部を先輩に預けて答えだけ貰うのはさすがに良くないと申し訳なくなる。
自分が先輩を頼りすぎていることを反省してると素直に伝えれば、三木先輩は軽く笑った。
三木「雅臣は良い奴だからな」
雅臣「え?」
思いがけない一言に、つい間の抜けた声で聞き返して
しまう。
三木「頼れるものには頼ればいいし使えるものは全て
使えばいい、そう思う奴が大半なんだが……」
苦笑しながらコーヒーを啜る三木先輩に、ふと合唱部の人たちが頭をよぎった。
三木先輩に頼るだけ頼っておいて大会で負けたことは
平気で人のせいにする奴らだった。
頼りすぎという面については自分も同じことをしているので、先輩に嫌な思いをさせていないか不安になってくる。
三木「お前はいつもそうやって気遣ってくれる。そういう良い奴だから、俺は手伝ってやりたくなるんだよ」
雅臣「先輩……」
三木「俺は雅臣には頼って欲しいし、雅臣に頼られて
嬉しいぞ」
俺は思わずぽかんと口を開けて先輩の顔を見つめていた。
いつもクールで落ち着いてる三木先輩がこんなストレートに言ってくれるなんて想像もしてなかった。
最初は近寄りがたいくらいの雰囲気で、冷静すぎて怖い人だと思っていた。
でも本当はこんな優しくて、心を打ち抜くような言葉を投げてくれてちゃんと俺を見ていてくれる。
そのことがたまらなく嬉しかった。
雅臣「あ、ありがとうございます……」
頭を下げると先輩はコーヒーカップを軽く傾け、ふっと遠くを見るような目をした。
三木「それに無駄なことをずっと考えてる割には必ず1歩踏み出すところも良い所だと思う」
雅臣「……え゛」
しかし突然どう受け止めればいいのか分からない言葉を投げられ言葉が詰まる。
褒められているのか、それとも貶されているのか。
む、無駄なこと……?
俺がずっと考えてきたことは無駄なことなのか?
確かに先輩みたいな頭のキレる人から見たら、俺の悩みはちっぽけでくだらないことの連なりなのかもしれない。
でもここまでハッキリ言われると……。
頭がグルグルして、俺は愛想笑いしか返せないでいた。
三木「すまない、言い方がよくなかったな」
雅臣「い、いえ……」
三木「何でも真剣に考えるのはお前のいい所だと伝えたかったんだ。俺はつい効率を優先してしまうからな」
先輩はソファの背もたれに深く背中を預けながら苦笑する。
三木「気を悪くしないでくれ。俺は言葉が下手なんだ」
雅臣「……」
確かにハッキリ言いすぎる傾向はあるけれど、先輩が気にしてるとは思っておらず目を瞠る。
三木「言葉を選ばずキッパリ言い切りすぎるんだ」
先輩は少し自嘲するように呟くが、誰かに何度かそう言われたこともあるんだろう。
……。
…………。
ということはやっぱり、今の俺のこの悩みは、無駄っていうことだよな?
雅臣「あの、この際ハッキリ言ってくれていいんで……俺の悩みのどの辺が無駄かを教えてくれませんか?」
言葉にしてみると、何だか急に自分が小さく感じて胸がチクッとした。
先輩は一瞬目を細めて俺を見るとゆっくり口を開いた。
三木「……俺の言い方が悪かったな」
雅臣「あ、いやその!?そうじゃなくて、その……俺にも分かるように教えてください。気になるんです」
効率優先という先輩は、俺の悩みの無駄な箇所がもう
分かっているはずだ。
それを知ることができれば、もっと心の内が晴れるような気がする。
三木先輩は片眉を上げ、そうかと静かに呟くと鋭い視線を投げかけた。
三木「お前の問題は……俺からしたら金だけのことだ。
金が解決する問題なんだよ」
いつも通りのどこか冷めた雰囲気を漂わせながら、しかしその声には正論を叩きつける時の力強さがあった。
雅臣「お金……だけ?」
三木「奨学金で大学に通うなら生活費は全て自分のバイト代で補う、学費免除なら自分が楽になる。それだけのことだろ?」
その言葉は自分の曖昧な思考を鋭く切り裂いた。
金があれば大学に進学できるし、金がなければきっぱり諦める。
ただそれだけのことで、それ以上でもそれ以下でもない。
そう言い切られると……。
一体、俺は何に悩んでいたんだ?
長い間頭の中でぐるぐると渦巻いていた不安や葛藤が急に色褪せて見えて、頭の中が一瞬空白になり言葉が何も出てこなかった。
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