山王学園シリーズ〜カサブランカの君へ〜

七海セレナ

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254.【模索する理由】

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左手首のミサンガを指でなぞっていると、


蘭世「……..今何時?」  


梓蘭世はソファにだらりと長い脚を放り出したまま、
面倒くさげに髪をかき上げ呟いた。


雅臣「もう14時20分ですね」

蘭世「マジ?ちょっと三木さん探してくるわ」

雅臣「あ、お疲れ様でした!」

蘭世「お前明日もいんならちゃんと働けよー」


……ちゃんと働いてますよ。

言葉には出さないがモロに不満が顔に出ていたのか、
梓蘭世は小さく笑って立ち上がる。

軽く伸びをした瞬間、シャツがずり上がって本気で心配になるくらい薄すぎる腹がチラリと見えるが……。

食事制限はいつまでするつもりなんだろうか。


雅臣「明日のオーディション終わったら食事できるん
ですか?」

蘭世「おう、明日乗り切りゃまたある程度は食える」

雅臣「そ、そしたらあの……俺、明日ポタージュとか
作ってきます!!」


つい勢いで言ってしまったが、俺に期待をかけてくれた梓蘭世に何か返したい。

でも俺に出来ることといったら料理くらいだ。

節制後の胃に急な負担を避けたくて優しいスープを提案したのだが、梓蘭世は眉を上げ少し馬鹿にしたような笑みを浮かべる。


蘭世「はぁ?ポタージュ?肉にしろよ肉」


俺の心遣いまるで届いてないみたいで思わずずっこけ
そうになった。


雅臣「一気に食べたら気持ち悪くなりますって!!
それにタレントは体が資本、体が大事なんで……
俺に作らせてください!」


自分でもびっくりするくらい必死だが、ようやく役に
立てそうな時がきた。

前から細い細いとは思っていたが、分かりやすく何か
手助けすることは出来なかったし、夏休みに入って拍車をかけて無理してることが伝わる。

梓蘭世は呆れ顔でゆっくりカバンを手に取るが、俺の
熱意が伝わったのかその目は一瞬だけ柔らかくなった
気がした。


蘭世「芋とかかぼちゃとか、えんどう豆も嫌だからな。舌触り悪いスープ嫌いなんだよ」

雅臣「任せてください!!」

蘭世「……ま、頼んだわ」


ぶっきらぼうだけどどこか期待を乗せてくれたのを感じて、レシピのイメージが頭の中で渦巻き始める。

梓蘭世は身を翻して出口に向かうと軽く手をひらひらと振る。

歩き出す背中はなんだか軽やかで、ほんの少しだけ俺の胸に安心が広がった。


雅臣「……よし」


早速梓蘭世が喜びそうなポタージュのレシピを調べて
みるか。

三木先輩はまだ仕事中みたいだし、空いた時間は宿題をしていいって言われたもんな。

それに今日バイト代を手渡しで貰えるなら、野菜を
裏ごしする機械を買ってもいい。

きっと長く使えるだろうし、サンドイッチパーティーの時に色んなポタージュを持ってくのもありじゃないか?

夢を膨らませながらガラステーブルに視線を落とすと、この前も見たタレントのポートフォリオが目に留まる。


……今どきこういうのって紙でも作るんだな。


手に取ってパラパラと眺めると、色んな女優や俳優の
データが飛び込んできた。


雅臣「……えっ、この人も三木プロなのか」


キラキラした笑顔に完璧に整ったポーズ。

どれも眩しいくらいに綺麗で、下には経歴や出演作品がずらりと並んでいる。

有名な人から順に載せているのか、ページを捲っていくともちろんこの事務所のスターである梓蘭世のページもあった。


雅臣「何で……」


しかし、梓蘭世のポートフォリオは子役時代の写真と
昔の経歴だけが並んでいた。

世間の誰もが知っている頃の写真で、無邪気な笑顔は
まるで時間が止まったみたいに鮮やかだった。

でもどうしていつまでも子供の頃の写真を使用しているのだろう。

もう成長してモデルの仕事をしているんだから最近の
宣材写真を使えばいいのに……。


…………。


………………。


多分、新たなタレントを発掘するための戦略なんだろう。

この冊子の有名タレントの写真は誰が見ても分かる印象的なものばかりで、だから梓蘭世も昔のままの写真を使っているんだと思う。


でも……。


それじゃあ梓蘭世は一生子役の頃の栄光しかないみたいじゃないか。

成長した今は有り得ないくらい綺麗で、この幼い頃より断然輝いて見える。

それなのに過去の自分の写真を使われ続ける本人はどんな気持ちなんだろう。

過去の輝きが影のようにずっとついて回るのは俺が想像するよりもとんでもないプレッシャーがかかるのかもしれないと実感した。

日本中の誰もが知っている子役時代を超えて、更に輝かしい存在になるのはそう簡単なことじゃない。

だからあんなに梓蘭世自身が模索しているんだとここでバイトすることで身に染みて分かる気がした。


……三木先輩が俺の悩みという名のただの愚痴を無駄だと言うはずだ。


親が金を出してくれない不安を世界一の大問題のように大層なことに仕立てあげて、俺がこの世で1番苦労しているかのように嘆いていただなんて。

そんなのは責任もプレッシャーもないただの子供の甘えだと、このバイトをしなければ気づくこともなかった。

他の世界を知ることで自分自身が見えてくるチャンスをくれた三木先輩に頭が上がらないと俺は猛省した。



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