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256.【相応の価値】
しおりを挟むスマホが震えた瞬間、俺は慌てて画面を覗き込んだ。
三木『お疲れ。どうかしたか?』
数分も経たないうちに三木先輩から掛けてきてくれた
ことに感謝して、俺は家だというのに思わず立ち上がって姿勢を正す。
雅臣「あの、今日は本当にすみませんでした!!」
三木『ん?』
唐突に謝罪をした後、電話越しに三木先輩が静かに耳を傾けているのがわかる。
察してほしいなんて甘い期待は捨てて、自分でちゃんと説明しないと。
俺は矢継ぎ早に、胸の内を吐き出した。
雅臣「三木先輩の好意で雇ってもらってるのに、今日
は喋ってただけで何の役にも立たなくて……明日から
改心して、ちゃんと頑張ります!」
一気に言い終えてると、少しの沈黙の後先輩の声が響いた。
三木『……あぁ、そうか。明日もよろしく頼むな』
電話が切れた瞬間、俺は小さく息を吐いた。
大して気にしていないのか、軽く返事をされほっとするが胸のモヤモヤは消えない。
むしろその軽さに自分の浅はかさが浮き彫りになった
気がして、明日また直接ちゃんと謝ろうと決めた。
……3000円しかじゃない。
俺は今日、3000円も貰ったんだ。
俺の働きなんてそれにも満たないはずなのに、何故か
頭の中では8000円、いやもっと貰える気がしていた。
どうして俺は自分を過大評価していたんだろう。
俺が柊や蓮池に〝無自覚ボンボン〟だと揶揄われるのもこの感覚のズレゆえかとようやく気づいた。
ふと、蓮池が華展でしっかり自分の仕事をこなしていた姿が頭に浮かんだ。
蓮池が親のカードであんなに自由に買い物できるのは、きっと与えられた仕事以上の働きをしているからだ。
普段の態度は最悪でも蓮池きちんと家業に汗を流し相応の責任を背負って働いてる。
あいつの親は甘やかしすぎだと呆れていたが、何も甘やかしてなんかいない。
それ相応の価値なんだ。
期待以上の仕事をするからこそ親のカードを使わせて
もらえる蓮池と、何も考えずにただ親のカードで好き
勝手している俺が同じだなんて勘違いもいいところだ。
勘違い野郎とはこのことで、恥ずかしさのあまり俺は
顔を覆った。
チラとテーブルの上の3000円を指の隙間から見て、それが俺の価値とばかりに冷たい現実を突きつけてくる。
これが別のバイト先だったら明日から来なくていいよと肩を叩かれただろうに、三木先輩は明日も頼むだなんて言ってくれて……。
先輩が連れてきた人間はこれから雇わない、なんて社長に言われてもおかしくないし、それでは先輩の立場
まで危うくなってしまう。
……あと2日で絶対に今日の分を挽回しないと。
三木先輩の好意を無駄にする行為はもう二度としないと胸に誓う。
雅臣「……この3000円を直ぐに使うのはやめよう」
自分が納得した働きができま時に使おうと封筒にしまい、母親の写真立ての横にそっと置いた。
明日こそ自分から動くぞ。
まず事務所のルールを聞いて、仕事は自ら探さないと。
聞いておかないといけないことや、何か手が空いた時に聞くべき言葉をメモしておこう。
雅臣「今日の失敗を糧にしないとな」
明日の梓蘭世のためにポタージュも作らないといけない俺は立ち上がり早急に動き出した。
______
____________
雅臣「昨日は本当にすみませんでした!!!」
2日目の朝、事務所に着いて三木先輩に会うなり俺は深く頭を下げた。
昨日電話で謝ったばかりだけど、直接会っての謝罪は
また別の重みがあるはずだ。
先輩は俺の勢いにパチパチと瞬きを繰り返すが、俺は
言葉を止めることなく自分の考えを一気に吐き出した。
雅臣「俺が間違ってたり、やる事があったらハッキリ
教えて欲しいです。事務所のルールもわからないので、明確な指示をくれると助かります!」
三木「それもそうだな。今日は俺もお前にスケジュールをしっかり伝えるよ。今日も頼むな」
先輩は口元に微かな笑みを浮かべ落ち着いた声で応えてくれて、その言葉を聞いてようやく少しだけ安堵できた。
雅臣「よろしくお願いします!あの、仕事の前に冷蔵庫借りていいですか?」
三木「冷蔵庫?給湯室のでよければ好きに使え。昼飯でも持ってきたのか?」
先輩は改めて給湯室に案内してくれるが、俺はカバンから昨日作ったコーンポタージュときのことほうれん草のミルクスープの入ったガラス製のタッパーを取り出して冷蔵庫へとしまう。
シンプルだけど手間を惜しまず丁寧に作ってきたものだ。
雅臣「梓先輩にポタージュ作る約束してて……今日の
オーディションが終わったら飲んでくれるって」
三木「そういう事か。雅臣、衛生面だけはしっかり
頼むぞ、蘭世はうちの商品だからな」
雅臣「はい、もちろんです!」
三木先輩はそう言って給湯室を出ようとするが、ふと
振り向いて俺をじっと見つめた。
何か仕事があるのか思いついたように声を上げる。
三木「雅臣、お前に適任な仕事がある」
雅臣「適任?」
三木「天晴のプレの仕分けなんだが…着いてきてくれ」
歩き出す先輩の後ろを追いかけると、エレベーターに
乗り込み4階を押す。
話しながら歩き出す先輩の後を追い一緒にエレベーターに乗り込むが、4階のボタンを押す先輩の横で俺は首を傾げた。
……てんせいのぷれとは?
それは何か事務所の独特な言い回しなんだろうか。
よく分からないが、多分何かを仕分ける業務なんだろう。
三木「かなり量があるんだが、お前はこういうものこそきちんとやってくれそうだから頼みたい」
雅臣「もちろんです!えっと、何かやり方とか……」
三木「追って説明する」
エレベーターの扉が開くと、先輩は素早く廊下を進み
始める。
俺は慌ててその後を追い1室のドアをくぐると、そこは広々とした部屋で棚や机の上に箱が山積みになっていた。
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