山王学園シリーズ〜カサブランカの君へ〜

七海セレナ

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257.【プレゼントの山】

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雅臣「これは……」

三木「ファンから送られてきたプレゼントだ」  


部屋の中のテーブルの上には色とりどりの封筒や
ラッピングされた小包が山のように積み重なっていた。

ドラマで見たような光景に目を疑うが、これら全てが
ファンからの熱い想いが詰まった贈り物だと聞いて息を呑む。


三木「誰宛のプレゼントかを仕分けて欲しいんだ。
この前天晴てんせいのバースデーライブがあったから、天晴宛が多いと思うが……」


なるほど、さっきの〝てんせいのぷれ〟とは天晴さんという方へのプレゼントという意味だったのか。

ようやくピンと来て頷くと、三木先輩は社用スマホを
俺に押し付ける。


三木「一旦全て開封して欲しい。それから中身と手紙、送り状を必ずリンクさせて写真に撮ってファイルで送ってくれ。撮り忘れは厳禁だぞ」

雅臣「わ、わかりました……でも何で写真がいるんですか?」


俺は受け取ったスマホを握りしめ、素直に気になった
ことを聞いた。


三木「例えばな、お前が一生懸命選んで蘭世に贈った
BALENTIAGAのシャツがあるとする。それを蘭世が
『柊から貰った』と言ったらどう思う?」

雅臣「そ、それは……嫌ですね」


せっかく自分がプレゼントしたのに、別の誰かから
貰ったことになってるだなんてショックだし、自分の
気持ちが他の誰かで上書きされるなんて冗談じゃない。

素直に応えると三木先輩はくすりと笑った。


三木「だろ? だから誰が何を誰に贈ったかを明確にしておかないと、ファンの気持ちも、タレントの気持ちもぐちゃぐちゃになる。トラブル回避のためにも記録は残しておくんだよ」

雅臣「なるほど……」

三木「スマホフォルダにリストがあるからそれ見ながら分けてくれ。あとダンボールや包装紙は処分するからまとめてここに置くのと……特に手紙はスタッフが後から中を確認するから絶対に捨てるなよ」

雅臣「はい」


そのリストとやらを開くと、プレゼント仕分けのルールまで軽く記載されていて助かった。

化粧品、飲食物、金券……受け取れないものは別箱に
まとめて受け取れるものはタレントごとに仕分ける。

これを全部開けて、写真に撮って、記録して。

……気が遠くなるような作業量だ。

三木先輩が適任だとと俺を指名した理由は多分……
俺の几帳面さを見込んでのことだよな。

それからこの中の物を盗んだりしないという信頼もある気がした。


雅臣「これ何時までに終えればいいですか?」

三木「12時だな。終わったら少し休憩して、蘭世の
オーディションへの付き添いだ。できるか?」

雅臣「わかりました!」


先輩は満足げに頷き、それと、と付け加えた。


三木「ぬいぐるみやマスコットの中に盗聴器が入ってるとかザラだから、ぬいぐるみ系のプレゼントは怪しいボックスの中にでも纏めて入れといてくれ」


……。

………………え!?

と、盗聴器!?


最後に爆弾みたいな一言を残して先輩は去って行った。

その背中を呆然と見送りながらプレゼントの山に視線を移す。

何となくこれが幸せだけが詰まったものじゃない気がしてきて、急に背筋がぞわっとしてしまった。


……や、やるか。


俺は気持ちを整え、最初のダンボールに手を伸ばした。

ファンからのプレゼントや手紙にはどんな想いが込められているんだろうか。

ちょっと楽しみな気も……いやいや、これは列記とした仕事だ、集中しろ!!

自分の邪念を払うよう頭を振って、山のようなプレゼントを前に2日目のバイトが始まった。




______

____________




…………な、何なんだ一体!!


作業開始1時間、俺は段ボール箱に詰め込まれたプレゼントの山を前にため息をついた。

これくらいなら俺にもできるだろうと高を括っていたが、蓋を開けてみれば事態は予想を遥かに超えていた。

まず第1にGUCCAやFONDIなどのハイブランド品が
当たり前のようにたくさん送られてきているのが恐ろしい。

贈り物として高額すぎなのではと思うよりも、そういうプレゼントを贈る人の手紙は決まって、


〝このシャツ、絶対着てくださいね〟

〝着画、レス楽しみにしてるからね〟


と、謎の言葉が綴られた注文書のような内容ばかり
書かれているのだ。

プレゼントや手紙なんてファンの純粋な応援が詰まっているものだと思って開封していたのに、中にはここの
踊りが悪かったとか舞台での演技への不満まで書いて
あって何だか俺まで落ち込んでしまう。


雅臣「……どうしてこんなこと書くんだ?」


タレント側は応援の言葉を期待してるだろうに、これを本人に見せるのははばかられるレベルのものが多くて嫌になってくる。

段ボールの中身を1つ1つ確認して写真を撮る度に俺の心はどんどん重くなっていった。

もちろん純粋に応援してくれるファンの手紙もある。

感謝の言葉や貴方に救われたという熱いメッセージも
あるのだが、何故か目につくのは『次はこれ着て』
『このアクセサリー使って』『絶対レスちょうだい』といった人形か何かと勘違いしているような過度な要望。

三木先輩が誰から贈られてきたのか把握しておきたい
気持ちもわかるかもしれない。

こんなに多種多様な要求だらけだと、スタッフもきちんとブラックリストみたいにして把握しておかないと危ないよな。


雅臣「世間ってこんなものなのか……」


世の中の複雑さを初めてまともに目の当たりにした気がする。

誰かの悪意や妬み、または単なる無神経さに触れて、
俺が好きなテレビは幻想だと思い知らされた。

そして何より、ここには梓蘭世宛の手紙やプレゼントが1つもないことが最大のショックだった。  

ファンの応援や要求の詰まった形が何もない梓蘭世は
どうやって芸能界に戻ろうと奮起できるのだろう。

梓蘭世ではない他人宛の段ボールの山を見て、自分の
無知を突きつけられた気がした。

俺は梓蘭世が背負っているものの重さを全く分かって
いなかった。

ここでバイトして現実を知れたことに感謝すべきなの
かもしれない。

学校以外の世界を知ること、俺自身の世界を広げる
必要性を痛いほど感じる。


あと残り1時間。


まずはこの与えられた業務を時間内にきちんと終わらせようと深呼吸して再び手を伸ばした。

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