292 / 394
257.【プレゼントの山】
しおりを挟む雅臣「これは……」
三木「ファンから送られてきたプレゼントだ」
部屋の中のテーブルの上には色とりどりの封筒や
ラッピングされた小包が山のように積み重なっていた。
ドラマで見たような光景に目を疑うが、これら全てが
ファンからの熱い想いが詰まった贈り物だと聞いて息を呑む。
三木「誰宛のプレゼントかを仕分けて欲しいんだ。
この前天晴のバースデーライブがあったから、天晴宛が多いと思うが……」
なるほど、さっきの〝てんせいのぷれ〟とは天晴さんという方へのプレゼントという意味だったのか。
ようやくピンと来て頷くと、三木先輩は社用スマホを
俺に押し付ける。
三木「一旦全て開封して欲しい。それから中身と手紙、送り状を必ずリンクさせて写真に撮ってファイルで送ってくれ。撮り忘れは厳禁だぞ」
雅臣「わ、わかりました……でも何で写真がいるんですか?」
俺は受け取ったスマホを握りしめ、素直に気になった
ことを聞いた。
三木「例えばな、お前が一生懸命選んで蘭世に贈った
BALENTIAGAのシャツがあるとする。それを蘭世が
『柊から貰った』と言ったらどう思う?」
雅臣「そ、それは……嫌ですね」
せっかく自分がプレゼントしたのに、別の誰かから
貰ったことになってるだなんてショックだし、自分の
気持ちが他の誰かで上書きされるなんて冗談じゃない。
素直に応えると三木先輩はくすりと笑った。
三木「だろ? だから誰が何を誰に贈ったかを明確にしておかないと、ファンの気持ちも、タレントの気持ちもぐちゃぐちゃになる。トラブル回避のためにも記録は残しておくんだよ」
雅臣「なるほど……」
三木「スマホフォルダにリストがあるからそれ見ながら分けてくれ。あとダンボールや包装紙は処分するからまとめてここに置くのと……特に手紙はスタッフが後から中を確認するから絶対に捨てるなよ」
雅臣「はい」
そのリストとやらを開くと、プレゼント仕分けのルールまで軽く記載されていて助かった。
化粧品、飲食物、金券……受け取れないものは別箱に
まとめて受け取れるものはタレントごとに仕分ける。
これを全部開けて、写真に撮って、記録して。
……気が遠くなるような作業量だ。
三木先輩が適任だとと俺を指名した理由は多分……
俺の几帳面さを見込んでのことだよな。
それからこの中の物を盗んだりしないという信頼もある気がした。
雅臣「これ何時までに終えればいいですか?」
三木「12時だな。終わったら少し休憩して、蘭世の
オーディションへの付き添いだ。できるか?」
雅臣「わかりました!」
先輩は満足げに頷き、それと、と付け加えた。
三木「ぬいぐるみやマスコットの中に盗聴器が入ってるとかザラだから、ぬいぐるみ系のプレゼントは怪しいボックスの中にでも纏めて入れといてくれ」
……。
………………え!?
と、盗聴器!?
最後に爆弾みたいな一言を残して先輩は去って行った。
その背中を呆然と見送りながらプレゼントの山に視線を移す。
何となくこれが幸せだけが詰まったものじゃない気がしてきて、急に背筋がぞわっとしてしまった。
……や、やるか。
俺は気持ちを整え、最初のダンボールに手を伸ばした。
ファンからのプレゼントや手紙にはどんな想いが込められているんだろうか。
ちょっと楽しみな気も……いやいや、これは列記とした仕事だ、集中しろ!!
自分の邪念を払うよう頭を振って、山のようなプレゼントを前に2日目のバイトが始まった。
______
____________
…………な、何なんだ一体!!
作業開始1時間、俺は段ボール箱に詰め込まれたプレゼントの山を前にため息をついた。
これくらいなら俺にもできるだろうと高を括っていたが、蓋を開けてみれば事態は予想を遥かに超えていた。
まず第1にGUCCAやFONDIなどのハイブランド品が
当たり前のようにたくさん送られてきているのが恐ろしい。
贈り物として高額すぎなのではと思うよりも、そういうプレゼントを贈る人の手紙は決まって、
〝このシャツ、絶対着てくださいね〟
〝着画、レス楽しみにしてるからね〟
と、謎の言葉が綴られた注文書のような内容ばかり
書かれているのだ。
プレゼントや手紙なんてファンの純粋な応援が詰まっているものだと思って開封していたのに、中にはここの
踊りが悪かったとか舞台での演技への不満まで書いて
あって何だか俺まで落ち込んでしまう。
雅臣「……どうしてこんなこと書くんだ?」
タレント側は応援の言葉を期待してるだろうに、これを本人に見せるのははばかられるレベルのものが多くて嫌になってくる。
段ボールの中身を1つ1つ確認して写真を撮る度に俺の心はどんどん重くなっていった。
もちろん純粋に応援してくれるファンの手紙もある。
感謝の言葉や貴方に救われたという熱いメッセージも
あるのだが、何故か目につくのは『次はこれ着て』
『このアクセサリー使って』『絶対レスちょうだい』といった人形か何かと勘違いしているような過度な要望。
三木先輩が誰から贈られてきたのか把握しておきたい
気持ちもわかるかもしれない。
こんなに多種多様な要求だらけだと、スタッフもきちんとブラックリストみたいにして把握しておかないと危ないよな。
雅臣「世間ってこんなものなのか……」
世の中の複雑さを初めてまともに目の当たりにした気がする。
誰かの悪意や妬み、または単なる無神経さに触れて、
俺が好きなテレビは幻想だと思い知らされた。
そして何より、ここには梓蘭世宛の手紙やプレゼントが1つもないことが最大のショックだった。
ファンの応援や要求の詰まった形が何もない梓蘭世は
どうやって芸能界に戻ろうと奮起できるのだろう。
梓蘭世ではない他人宛の段ボールの山を見て、自分の
無知を突きつけられた気がした。
俺は梓蘭世が背負っているものの重さを全く分かって
いなかった。
ここでバイトして現実を知れたことに感謝すべきなの
かもしれない。
学校以外の世界を知ること、俺自身の世界を広げる
必要性を痛いほど感じる。
あと残り1時間。
まずはこの与えられた業務を時間内にきちんと終わらせようと深呼吸して再び手を伸ばした。
30
あなたにおすすめの小説
【完結・BL】春樹の隣は、この先もずっと俺が良い【幼馴染】
彩華
BL
俺の名前は綾瀬葵。
高校デビューをすることもなく入学したと思えば、あっという間に高校最後の年になった。周囲にはカップル成立していく中、俺は変わらず彼女はいない。いわく、DTのまま。それにも理由がある。俺は、幼馴染の春樹が好きだから。だが同性相手に「好きだ」なんて言えるはずもなく、かといって気持ちを諦めることも出来ずにダラダラと片思いを続けること早数年なわけで……。
(これが最後のチャンスかもしれない)
流石に高校最後の年。進路によっては、もう春樹と一緒にいられる時間が少ないと思うと焦りが出る。だが、かといって長年幼馴染という一番近い距離でいた関係を壊したいかと問われれば、それは……と踏み込めない俺もいるわけで。
(できれば、春樹に彼女が出来ませんように)
そんなことを、ずっと思ってしまう俺だが……────。
*********
久しぶりに始めてみました
お気軽にコメント頂けると嬉しいです
■表紙お借りしました
【完結】I adore you
ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。
そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。
※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。
陰キャな俺、人気者の幼馴染に溺愛されてます。
陽七 葵
BL
主人公である佐倉 晴翔(さくら はると)は、顔がコンプレックスで、何をやらせてもダメダメな高校二年生。前髪で顔を隠し、目立たず平穏な高校ライフを望んでいる。
しかし、そんな晴翔の平穏な生活を脅かすのはこの男。幼馴染の葉山 蓮(はやま れん)。
蓮は、イケメンな上に人当たりも良く、勉強、スポーツ何でも出来る学校一の人気者。蓮と一緒にいれば、自ずと目立つ。
だから、晴翔は学校では極力蓮に近付きたくないのだが、避けているはずの蓮が晴翔にベッタリ構ってくる。
そして、ひょんなことから『恋人のフリ』を始める二人。
そこから物語は始まるのだが——。
実はこの二人、最初から両想いだったのにそれを拗らせまくり。蓮に新たな恋敵も現れ、蓮の執着心は過剰なモノへと変わっていく。
素直になれない主人公と人気者な幼馴染の恋の物語。どうぞお楽しみ下さい♪
【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?
アイドルくん、俺の前では生活能力ゼロの甘えん坊でした。~俺の住み込みバイト先は後輩の高校生アイドルくんでした。
天音ねる(旧:えんとっぷ)
BL
家計を助けるため、住み込み家政婦バイトを始めた高校生・桜井智也。豪邸の家主は、寝癖頭によれよれTシャツの青年…と思いきや、その正体は学校の後輩でキラキラ王子様アイドル・橘圭吾だった!?
学校では完璧、家では生活能力ゼロ。そんな圭吾のギャップに振り回されながらも、世話を焼く日々にやりがいを感じる智也。
ステージの上では完璧な王子様なのに、家ではカップ麺すら作れない究極のポンコツ男子。
智也の作る温かい手料理に胃袋を掴まれた圭吾は、次第に心を許し、子犬のように懐いてくる。
「先輩、お腹すいた」「どこにも行かないで」
無防備な素顔と時折見せる寂しげな表情に、智也の心は絆されていく。
住む世界が違うはずの二人。秘密の契約から始まる、甘くて美味しい青春ラブストーリー!
こっそりバウムクーヘンエンド小説を投稿したら相手に見つかって押し倒されてた件
神崎 ルナ
BL
バウムクーヘンエンド――片想いの相手の結婚式に招待されて引き出物のバウムクーヘンを手に失恋に浸るという、所謂アンハッピーエンド。
僕の幼なじみは天然が入ったぽんやりしたタイプでずっと目が離せなかった。
だけどその笑顔を見ていると自然と僕も口角が上がり。
子供の頃に勢いに任せて『光くん、好きっ!!』と言ってしまったのは黒歴史だが、そのすぐ後に白詰草の指輪を持って来て『うん、およめさんになってね』と来たのは反則だろう。
ぽやぽやした光のことだから、きっとよく意味が分かってなかったに違いない。
指輪も、僕の左手の中指に収めていたし。
あれから10年近く。
ずっと仲が良い幼なじみの範疇に留まる僕たちの関係は決して崩してはならない。
だけど想いを隠すのは苦しくて――。
こっそりとある小説サイトに想いを吐露してそれで何とか未練を断ち切ろうと思った。
なのにどうして――。
『ねぇ、この小説って海斗が書いたんだよね?』
えっ!?どうしてバレたっ!?というより何故この僕が押し倒されてるんだっ!?(※注 一月十日のアルファポリス規約改定を受け、サブ垢にて公開済みの『バウムクーヘンエンド』をこちらへ移しましたm(__)m サブ垢の『バウムクーヘンエンド』はこちらへ移動が出来次第、非公開となりますm(__)m)
【完結】後悔は再会の果てへ
関鷹親
BL
日々仕事で疲労困憊の松沢月人は、通勤中に倒れてしまう。
その時に助けてくれたのは、自らが縁を切ったはずの青柳晃成だった。
数年ぶりの再会に戸惑いながらも、変わらず接してくれる晃成に強く惹かれてしまう。
小さい頃から育ててきた独占欲は、縁を切ったくらいではなくなりはしない。
そうして再び始まった交流の中で、二人は一つの答えに辿り着く。
末っ子気質の甘ん坊大型犬×しっかり者の男前
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる