山王学園シリーズ〜カサブランカの君へ〜

七海セレナ

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258.【漂う緊張感】

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雅臣「おっ……終わりました……」


無事頼まれた通りの時間内に仕分けを終え、写真も三木先輩に送り終えた俺は満身創痍だった。

汗が額を伝い、シャツの背中がべっとりと張りついて
いる。


三木「お疲れ、助かったよ」


三木先輩はいつの間にかシャープなシルエットのスーツに着替えていた。

スーツの生地は上質でマットな質感の黒で、ノーネクタイとはいえクールで圧倒的な存在感を放っている。

梓蘭世が来るまでの間少し休憩していいと言われ、俺は客間のソファに座り込んだ。

背もたれに凭れて深く息を吐くが、午前中いっぱい時間厳守で仕分けしたため身体が重い。


三木「今日はお前がいてくれて助かるよ」

雅臣「え?」

三木「蘭世の不機嫌が……そうだな、2割減ってとこだ」


三木先輩は肩をすくめ窓の外に視線を移すが、そんなに今日は機嫌が悪いんだろうか?

いつもの俺が知る不機嫌な梓蘭世とはまた違うという
事前予告に変に気が引き締まる。


雅臣「ちなみに今日はモデルのオーディションなんですよね?」

三木「そうだ、この前の二階堂さんのところの___」


三木先輩は俺にもわかりやすく端的に説明してくれた。

今回は二階堂さんの新作コレクションを使って『Para_Kid』のイメージアップも兼ねたPV撮影をする
ためのものだそうだ。

有名なフォトグラファーも来る大型企画に三木プロだけではなく他の事務所からもモデルやタレントが殺到するらしい。


三木「向こうはコンセプトに合わせたモデルが欲しいとのことだが……これくらい勝ち取らないとな」


その声は軽やかだったが、先輩の瞳の奥には何としても梓蘭世を押し上げたい執念のような熱が宿っていた。

ただのオーディションではなく梓蘭世が何かを掴み取るための新たな挑戦のように思えてきて、胸がザワついてくる。


雅臣「……えっと、」


俺が言葉を探していると、客間の扉が静かに開いた。

梓蘭世が来たのかと振り向けば、


三木「なんだ、天晴てんせいか。お疲れ」

天晴「おつー、ねぇ俺のプレある?」

三木「あるけどまだ確認できてない。渡せるのは明後日だ」

天晴「えー……って、あれ?」


こ、この人が天晴さんだったのか……!!

頬を膨らませて明らかに不満げに唇をつきだすこの人は、この前挨拶してくれたカラフルジュエリストのメンバーの1人だ。

色鮮やかなジュエリーを纏ったような可愛さとカッコ
よさが融合した存在はやはりアイドルそのもので、プレゼントの多くがこの人宛だったのにも納得がいくと俺は慌てて立ち上がって頭を下げた。


雅臣「昨日からバイトで入った藤城雅臣です。よろしく
お願いします」

天晴「へー、やっぱりスタッフなんじゃん!春樹この子貸してよ」


天晴さんは俺を上から下まで舐めるように見つめて三木先輩に絡むが、


三木「駄目だ、雅臣はお前の使いっ走りじゃない。
それに今から俺と一緒に蘭世のオーディションに付き
添うんだ」

天晴「えーっ!?」


先輩に直ぐに却下されたのが気に入らないのか、天晴
さんはまた唇を尖らせながらが三木先輩の腕に手を絡める。


天晴「今日何のオーディションなの?教えて__
うわっ!!」


天晴さんが目を丸くして言葉を止めたのはいつの間にか梓蘭世が背後に立っていたからだ。



蘭世「退けよ」



鋭い視線を天晴さんに投げつけて部屋に入ってくるが、刺々しい言い方がもう不機嫌なのを証明している。

今日はいつも纏う甘い香水の香りがなく、オーディション会場でコンセプトに合わせたメイクをするから素顔なんだろう。

それにしても顔色が悪いな……。

華奢な体に眼光の鋭さが加わって不機嫌さが倍増して
見えるくらいだ。


天晴「おー怖っ、そんなにピリピリすんなよ!触らぬ
悪魔が……何だっけ?まあいいや、オーディション
ファイト」


天晴さんは殺気立つ梓蘭世に肩を竦め、ひょいと俺に
近づいて小さなメモを手渡した。


天晴「ついでにこれ買ってきてね。じゃあね」

雅臣「………え!?ちょ、」


俺が抗議する間もなく、天晴さんは睨む梓蘭世から逃げるよう颯爽と去って行った。

メモを握りしめたまま立ち尽くしていると今度は梓蘭世に鞄を押し付けられた。


三木「蘭世、コンディション大丈夫か?」

蘭世「__見りゃわかんだろ」


梓蘭世は髪をかき上げ苛立たしげに吐き捨てるが、毎度のことなのか先輩は動じず続ける。


三木「この後、会場に向かってメイクとヘアセット。
その後は指定された衣装を着て審査だ」

蘭世「ん」


先輩が穏やかな声で予定を告げると梓蘭世は短く頷いた。


三木「よし、行くぞ」


三木先輩は着いてこいと俺に視線を移すが、2人とも怖いくらいに殺気立っている。

お、オーディションってそんなにピリつくものなのか?

よく分からないがさっきのプレゼントの仕分けの時の様に想像もつかないシビアな現実が待っているのかもしれない。

梓蘭世の荷物を片手に抱えながら、ふと天晴さんから渡されたメモを広げると、細かい買い物の指示がびっしり書いてあるリストで店まで指定されていた。


……こ、この状況で買いに行く時間はあるのだろうか。


俺は首を傾げながら黙って緊張感が漂う2人の背中を追いかけた。



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