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259.【始まるオーディション】
しおりを挟むその後俺たちは三木プロのバンに揺られ、大須の
オーディション会場へ向かった。
車内は緊張感が漂い、俺の隣に座る梓蘭世はイヤホンで音楽を聴きながら時折スマホをスクロールしていた。
鋭い横顔が画面の薄い光に照らされ、そのキツい眼差しに迂闊に声をかけることもできない。
張り詰めた空気の中で静かに天晴さんから押し付けられた買い物リストに書かれた店をスマホで検索すると有難いことに全部大須の店のものだった。
俺にとっては都合がいいがこの状況で買い物に行くなんて出来るのか……?
変に緊張が高まる中、助手席の三木先輩が振り向き俺
たちに声をかけた。
三木「2人とももう着くぞ。降りる準備しろ」
バンから降ろされ先輩の後について大須の中心にある
ビルに到着するとオーディション会場はなんとスタジオだった。
建物自体は古びた外観だが、1歩足を踏み入れると室内はまるで異世界だ。
高い天井にむき出しの鉄骨が走り、コンクリートの壁にはアートポスターや照明器具がランダムに配置されている。
床は磨き上げられた黒いタイルで巨大な窓からは午後の陽光が差し込み、スタジオの中央に設置されたスポットライトと相まって空間全体が眩い光に支配されている。
壁際には黒いパイプ椅子が並び二階堂さんを含む関係者たちがタブレットやノートを手に低く囁き合っていた。
そのざわめきがスタジオの緊張感をさらに増幅している。
三木「蘭世、メイク室空いたそうだ」
蘭世「わかった」
いよいよ始まるオーディションに気を引き締め、
俺は邪魔だけはしないようにしようと三木先輩の後ろを静かに着いて行った。
______
____________
だ、誰も彼も人間離れしすぎている……。
順に呼ばれる色んな事務所から集結したモデルたちを
見ながら俺はスタジオの隅っこで落ち着かずにいた。
オーディションを受けに来た人全員の頭が異様に小さくて、脚が信じられないほどに長い。
どの人もオーラとスタイルが次元を超えていて、自分が本当に一般人なんだと思い知らされるばかりだ。
梓蘭世でさえこの中では埋もれてしまうんじゃないかと心配になるが、三木先輩は俺の隣で冷静にオーディションの様子を眺めていて梓蘭世の出番を待っていた。
「23番、ありがとう。帰っていいよ」
オーディションは絶賛進行中で、今回の主催者であり
コレクションを手掛けるデザイナーの二階堂さんの淡々とした声がスタジオに響いている。
二階堂さんはタブレットを手に色々確認しているが、
素人の俺には何を基準にモデルを選定しているのかさっぱり分からなかった。
中にはメイクの段階で『ありがとう、帰っていいよ』と言われた人もいて、すでに半数以上が切り捨てられている。
チラリと二階堂さんを見るが今日も相変わらず俺には
理解できないハイセンスさだった。
透け感のあるハイネックシャツに黒のレザージャケットを羽織っていて太ももにカットアウトの入ったハイウエストパンツを履いている。
しかしこの前とは違い、表情からは何の感情も伝わらずモデルを切り刻むように見つめるだけだ。
その視線に当てられる審査に残ったモデルたちも、完璧に作り込まれたメイクとポーカーフェイスの裏に疲れと焦りが滲み始めている。
「11番着替え終わった?前出てきて……うん、左側
向いて……」
___いよいよ、梓蘭世だ。
梓蘭世は落ち着いた動きで指示に従い、二階堂さんの
前に立つ。
その瞬間、ライトの白い光が梓蘭世の彫刻のような
輪郭を際立たせた。
二階堂さんのデザインしたユニセックスな衣装は梓蘭世の華奢な体に完璧にフィットしていて、柔らかな光沢を帯びた生地の流れるようなシルエットのブラウスが何よりも目を引く。
肩から裾にかけて微妙なドレープが美しく揺れ、脚の
長さを強調するモノトーンのスリムなパンツからは
ブラックベロアの10cm近いヒールが覗いている。
ハイヒールの音が黒いタイルの床を叩くたびにルビー
レッドのソールが印象的に見え、性別を超越した美しさがあった。
……梓蘭世が完全にスタジオの空気を支配している。
壁際に並ぶ関係者たちの視線がいっきに鋭くなり、梓蘭世と三木先輩を交互に見ながらヒソヒソ話し始める。
コンクリートの壁に反響する囁きが緊張をさらに煽るが、品定めする二階堂さんは椅子の背に体を預けたまま鋭い眼光で梓蘭世の動きを追う。
「……うん、いいね。次の衣装着てきて」
蘭世「はい」
感情のない声で答える梓蘭世は着替えるためにスタジオの奥へ消えていく。
……や、やったぞ!!!
ハイヒールの遠ざかる音を聞きながら俺は思わず拳を
握りしめた。
OKが出たってことはひとまず次のステップに進めたってことだよな?
安堵した俺は一旦肩の力を抜いて小さく息を吐いた。
それにしても……。
オーディションって意外と事務的なんだな。
モデルたちは商品のように品定めされ、気に入られな
ければ即アウト。
そこには賞賛も何もなく、無慈悲な現実を受け入れる
だけだなんて。
雅臣「あの、これ選ばれる基準とかあるんですか?」
俺は思わず隣の三木先輩に囁いた。
しばらくオーディションを眺めていても何が基準なのな分からなすぎる。
見るからにパリコレっぽいモデルも駄目、顔が良くても身長が高くても低くても駄目。
今のところ俺が良いなと思った人は全部アウトだった。
次のモデルが登場するまでの間、三木先輩はメモを取りながら視線を上げずに答えた。
三木「__さぁ? 今回ばっかりは俺にもわからないな」
雅臣「そうですか……」
三木「二階堂さんの理想に近ければ選ばれる、ただそれだけだよ」
この答え方だと、どのプロダクションも今までの勘や経験が全く意味の無い合否の決め方なんだろう。
デザイナーが何を基準に選んでいるのかさっぱりわからないだなんて、ただひたすらにジャッジされる側にとっては息苦しい時間でしかない。
二階堂さんと仲の良い梓蘭世はこうなると見越してピリピリしていたのだろう。
「58番、ありがとう。帰っていいよ」
二階堂さんの容赦のない断りを聞きながら俺まで胃が痛くなった。
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