山王学園シリーズ〜カサブランカの君へ〜

七海セレナ

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264.【ポタージュをどうぞ】

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雅臣「お待たせしてすみませ……うわ!!」


突然の光景に言葉が詰まる。

赤木さんと別れて直ぐに三木先輩に連絡するとタイミングよく仕事が終わったとのことで、俺は駐車場に
停まった三木プロのバンの前で待機していた。

急ぎ足で向かい誰もいない駐車場でホッとしたのも
束の間、

  
三木「雅臣お疲れ、受け取りと買い物助かったよ」


現れた2人のその姿に俺は目を疑った。  

何と三木先輩は全ての荷物を肩に下げて、更に梓蘭世を姫の如く抱えて戻ってきたのだ。


雅臣「あ、梓先輩!?い、生きてますか!?」

蘭世「死ぬ、もう死ぬ、グラグラする」


俺に返事をする梓蘭世の声は弱々しく、まるで魂が
抜けたみたいだ。  


三木「喋れるなら余裕だな。ほら降りろ」

蘭世「無理。中まで運んで」


もう1歩も歩けないと駄々をこねる姿は我儘王子ならぬ
我儘姫そのもので呆れてしまうが、あのプレッシャーの中仕事を勝ち得たんだから仕方ないのかもしれない。


三木「悪い、トランク開けてくれるか?」

雅臣「もちろんです」


慌ててトランクを開けると、三木先輩は未だに降りない梓蘭世を抱えたまま荷物を器用に中へ置いていく。

……梓蘭世とて一応男だぞ?

いくら細くて軽いとはいえそれなりの重さはあるはずなのに、三木先輩は軽々と抱き上げスライドドアを開けて梓蘭世を座らせた。

スーツの上からでも分かる鍛え上げられた体格の良さに思わず感心してしまう。


雅臣「梓先輩お疲れ様でした」

蘭世「おー……」


俺も急いで梓蘭世の隣に乗り込んで労いの言葉をかけると気抜けした返事が返ってくる。


雅臣「昨日約束したポタージュ、事務所の冷蔵庫に入れてあります」

蘭世「まじぃ……?」


その言葉に梓蘭世の目が一瞬だけ光った気がしたが、
すぐにまた力が抜けたように目を閉じた。

梓蘭世はメイクもしたままシートにぐったりと寄りかかると寝息が聞こえ始めた。

車が発進し、俺たちは揺られながら事務所へ戻った。  



______

____________



事務所のドアをくぐるや否や、梓蘭世は給湯室に突進
して行った。

電子レンジ対応のスープジャーに入れてきたから温めて飲むように伝えると梓蘭世は目を輝かせた。


蘭世「やっと胃にモノが入る……」  


レンジから取り出したスープジャーを手に慎重に蓋を
開けると湯気がふわりと立ち上り、ポタージュの濃厚な香りが給湯室に広がった。  


蘭世「あー……うめぇ……」


余程飢えていたのか、珍しくもう半分以上平らげている梓蘭世の顔にふっと笑みが浮かぶ。

その無防備な笑顔にほっとすると同時に俺も笑顔に
なった。


雅臣「お口にあって良かったです」

蘭世「夕太が雅臣の作る飯が美味いって絶賛してたの
マジだったんだな、美味いわこれ」


ストレートな褒め言葉に、俺の胸はほんのり温まる。

普段は気難しい梓蘭世がこうやって素直に言葉をくれる瞬間はかなり貴重だ。

1口飲むごとに彼の機嫌が少しずつ上向きになり、疲れ
果てた表情が柔らかくなっていくのが分かってとても
嬉しかった。


雅臣「また作ってきます。飲み終わったらスープジャー
そのままにしといてください。俺持って帰るんで」

蘭世「マジ?サンキュ……っぐしゅん!!あー…」

雅臣「ちょ、大丈夫ですか?冷えたんじゃないですか?」


か細い体だというのにエアコンの効いた会場で衣装に
着替えまくっていたから風邪を引いてもおかしくない。

煌びやかなイメージしかないモデル達の舞台裏は服などあってないようなものだった。

梓蘭世も自前のガウンを羽織っていたのは最初だけで、ほぼ全裸でスタッフの言われるがまま着替えをしていたのを思い出す。


蘭世「誰か噂しとんな……」

雅臣「馬鹿なこと言ってないでちゃんと体温めてくださいよ」

蘭世「そうする、疲れたし帰るわ」

雅臣「……あの、本当にお疲れ様でした」


丁寧に返すが、梓蘭世はもう荷物を肩にかけバケット
ハットを深く被り直して帰る気満々だった。


蘭世「おう、じゃあな」


オーディションを終えたばかりとは思えない、拍子抜けするほどあっけらかんとした声。

梓蘭世は軽く手を振って、事務所を後にした。


とりあえず、無事オーディションが終わって良かった。


スープジャーを軽く水で流し、帰宅してからしっかり
洗おうとバッグにしまいながらほっと一息ついた瞬間、


三木「お疲れ、終わったら客間に来てくれ」


三木先輩の落ち着いた声に呼ばれ、急いで手を拭いて
後を追う。

客間に足を踏み入れるとソファに腰を下ろすよう言われ、座ると同時にどっと疲れが押し寄せてきた。


三木「お疲れ様、本当に今日は助かったよ。これ今日の分な。後は特にやることもないからもう帰っていいぞ」

雅臣「ありがとうございます」


先輩は穏やかに笑いながら給料の入った封筒を差し出してくれて、両手で受け取ると封筒の厚みに胸が少し
高鳴った。

……昨日より確実に多い。

口元が自然と緩むが、ふとさっきの梓蘭世の姿が頭を
よぎる。

あのカラッとした態度の裏に、相当な疲れやプレッシャーが隠れているんじゃないかとつい考えてしまった。


雅臣「三木先輩、梓蘭世って……その、」

三木「ん?」

雅臣「……も、戻りますよね?」


どうしても気になってしまい、言葉が口をついて出てしまうと三木先輩は静かに目を細めた。  

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