山王学園シリーズ〜カサブランカの君へ〜

七海セレナ

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269.【家族の話】

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夕太「俺たちね、東京行ってきた帰りなんだ」

雅臣「と、東京!?」


柊の唐突な言葉に俺は箸を落としそうになった。  

そうか、このカラフルなお菓子は原宿のものだし東京に決まってるよな。

でも、俺がバイトで必死になってる間に2人だけで東京旅行に行ってたなんてと何故か少しだけ気分が落ち込む。

俺も誘って欲しかったな……。

いや、誘われたところでバイトがあったんだから行けなかったんだが……。

グルグルと渦巻く気持ちを抑えきれず俯いて黙り込んでいると、


楓「俺は仕事で夕太くんはバイトな。旅行でも遊びでもねぇわ」


蓮池が大きな鶏肉を噛みちぎりながら呆れ顔で教えてくれた。


雅臣「え!?柊もバイトしてたのか!?」

夕太「バイトって言っても1番上の姉ちゃんの手伝いな!ラフォーラでポップアップやっててさ、これ着て
手伝ってたの」


1番上、となると俺たちの文化祭の衣装を作ってくれた服屋さんのお姉さんか。

柊はスマホを取りだしポップアップとやらのイメージがつかない俺に写真を見せてくれる。

そこにはまるで貴族の舞踏会を思わせる空間が広がっていて、壁一面に飾られたドレスはどれもが過剰なまでに豪奢でフリルとリボンが波打つように重なり合っていた。

写真に映り込んでいたのは紛れもなく接客中の柊で、
今日のコスプレみたいな服装はポップアップのコンセプトに合わせたものだったんだと納得がいく。


雅臣「じゃあ着替える間もなく名古屋に帰ってきたん
だな」

夕太「そうそう」

楓「違うでしょ。夕太くんはただ面倒くさかっただけ
じゃん」


ネタばらしをする蓮池に構わず画面をスワイプして見せてくれる柊だが、ここに映るドレス全てをお姉さんが手掛けたのかと驚いた。


雅臣「す、すごいな……元々は名古屋だけのお店なんだろ?」

夕太「そうなんだよ!ネット通販とかもやってるけど、今回のでぜひ東京の方にも店舗拡大しないかって話が出たらしくて___」

雅臣「そうなのか!?良かったな、おめでとう!!」


東京にまで店舗が増えるなんて凄いことで、友達の
お姉さんの成功を心から嬉しく思う。


雅臣「文化祭の時も衣装作ってくれてお世話になってるし……服を買うことはできないけどおめでとうって
伝えておいてくれ!!」


素直にそう言うと、ヤンニョムチキンを頬いっぱい詰め込んだ柊がモゴモゴと口を動かしながら大きな目を見開いた。

まさかまた喉につっかえたのか!?

眉間に皺が寄る柊に、詰め込みすぎだと俺は慌てて
カルピスを差し出す。


夕太「ぷはっ……ありがと……んー、あのさ?雅臣ってマジでいい奴だね」

雅臣「え?」  


柊はごくごくとジュースを飲みながら隣に座る俺の肩をポンポンと叩く。


夕太「雅臣、バイトは程々にしなよ?お金の心配なんてしなくても大丈夫だからさ」


ね?と微笑みかけられるが、突然こんな風に慰められるなんてきっと俺の顔は相当疲れて見えるんだろうな。 

俺がこの間泣き顔を見せたせいで柊にかなり心配をかけてしまったと反省しながらも、その優しさが本当に嬉しかった。


雅臣「ありがとう。でもバイトは俺にとって本当にいい経験になって……」

楓「お前がそんなせっせ働かんでも、この後高島屋で
BALENTIAGA買い散らかしたところでとっと(笑)は何も言えんわ」

夕太「でんちゃん」


柊が幼馴染のキツイ口調を窘めるようとしてチラと
目配せをするが、この言い方は蓮池なりに俺を心配してくれてるのがわかって俺はまた嬉しくなった。

初めてのバイトで、知らず知らずのうちに相当気を
張っていたんだな……。

相変わらず2人は早口で、でもこのついていけない感じが懐かしくもあり例えようもない幸せに自分でも顔が緩んでいるのが分かる。


夕太「……そういえば雅臣のさ?」

雅臣「ん?」


追加注文したサムギョプサルの脂がジュージューと音を立てる中、待ちきれない柊がトングをカチカチと鳴らしながら俺を見る。


夕太「とっととお母さんっていくつ違いだったの?」

雅臣「え!?………確か親父が母さんの2つ上だから2つ違い、だけど……」


唐突すぎる質問に戸惑い言葉が変に途切れ途切れに
なってしまう。

素直に年齢差を答えれば何故か2人は渋い顔で黙り込んでしまって、サムギョプサルの脂がジュージューと弾ける音だけがやけに大きく耳に響いた。


雅臣「そ、それがどうかしたか?」


急にどうしたんだと俺は無意識に箸を握りしめているが柊は答えない。

しばらくの沈黙の後、


楓「……新幹線でふと俺のババアは本当にババアだなと思ってだな」


目の前の蓮池が複雑そうな顔で唐突に呟いた。


雅臣「お、おま、何てこと言うんだよ!?いいお母さんじゃないか!!」


確かに少し年齢はいってるかもしれないが、脳裏に蓮池のあの優しそうな母親を思い浮かべてダメだぞと注意する。

すると柊がトングを振りながら違う違うのと大慌てで
俺を止めた。


夕太「えっと、お、俺の母ちゃんもババアで年の差婚だから!?その、そう、!雅臣んとこは若くていいなーって話なの!!……ナイスでんちゃん」

楓「……そう、そんな感じだ。俺んとこのババアはあまりにもババアすぎんだよ」


おかしな事に2人はババアを連呼し自分の母親がいかに
老けているかを強調し始めた。

話をよく聞けば、今回の東京での仕事は蓮池だけで、
ご両親が夫婦水入らずの旅行がてら一緒に着いてきたらしい。

そのせいか新幹線内で何となく自分たちの親の年齢の話になり、世間一般では何歳くらいなのかと俺に聞いてみたということだった。

………何だ、そういうことだったのか。

新幹線での話題に俺を加えて和に入れてくれようとしてるんだと2人の気遣いが見えて微笑んだ。


雅臣「うちは2つ違いだけど、最近年の差婚とかよく聞くもんな。でも結婚する年齢なんて人それぞれだよな」

夕太「だ、だよねー!!それと今日ね?いちねぇの
ポップアップ記念にグランマにたくさん写真送ったのね!アメリカの!」

雅臣「え?アメリカ……あぁ、お姉さんのな」


2人が親の年齢の高さを気にしているとは知らずありきたりな返答をすれば、柊が不自然に別の話題を振ってきてお姉さんのおばあさんの写真まで見せてくれた。


夕太「ま、雅臣にはさー……グランマとかいないの?」


柊はカナリアのように上目遣いで目を瞬かせながら首を傾げるが、多分これも蓮池と東京で話していたこと
なのだろう。

俺は今まで2人に詳しく家族の話なんてしたことが
なかった。

でも、もしかしたら2人なりに寂しい俺にずっと気を
遣ってくれてたのかもしれない。

そう考えたらこうして1歩踏み込んだ話をしてくれるのはより親密になった証のように感じて、黙々とサムギョプサルを食べる姿に笑いがこぼれた。


雅臣「実は親父の方の両親は早くに亡くなってて……
母さんの方はいるにはいるんだが会う機会がほとんど
なくてさ」


俺とこの際だからとこの話題に便乗しぽつりぽつりと
実情を話すと、何故か蓮池は箸で掴んだ豚肉に落っことし、柊はトングごと床に落としてしまった。

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