山王学園シリーズ〜カサブランカの君へ〜

七海セレナ

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279.【種目決め】

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夕太「なー、雅臣どうだった?」


実力テストが無事終わったと同時に柊が振り返り俺の
机に肘をついて身を乗り出してきた。

教室はテスト後の解放感でざわついていて、ホーム
ルームまでの休み時間、俺たちも終わったばかりの数学のテストの出来を話し合う。


雅臣「結構宿題から出ていたし意外と出来たよ」

夕太「えー!でも大問5の証明問題むずかったくない?」

雅臣「そうか?」


柊の言うように数学はかなり難しく作られていて、それでも夏休みの宿題と復習を真剣にやったからか俺は久しぶりに中々の手応えを感じていた。

三木先輩の事務所でバイトを始めてから気持ちが引き
締まったのもあり、タイムスケジュール表通りにしっかり課題に取り組めたのが良かったのだろう。


夕太「余裕じゃん!!ムカつくなー……んーまっ!」


結果が楽しみでさえある俺の前で柊は文句を言いつつ
グロスを塗りたくっているが、そのグロスは昨日三木
先輩から貰ったパリ土産だ。

パリ土産といっても免税店の、しかも名古屋のセントレア空港で買ったというDioraのマキシマイザー?とやらのリップなのだが……。

ずっとボッチで貰えれば何でも嬉しい俺とは違い、皆は松坂屋で買えるものだとかパリらしくないだとかで
大不評だった。

しかも三木先輩の母親が化粧水を持ってくるのを忘れたついでにグロスもまとめて買って貰ったそうで、かなり不評ではあったが効率重視の三木先輩らしいと笑ってしまった。


夕太「……でんちゃん!!!!もうそろ起きろよ!!!!」

雅臣「蓮池は見事なまでに全教科寝てたな……」


柊が自分の机で突っ伏したままの蓮池に声をかけるが
微動だにしない。

山王のテストは出席番号順に着席して行われるため嫌でも視界に入るのだが、俺の2つ前の席に座る蓮池は見事に全教科爆睡していた。

恐ろしくて考えたくもないが、こいつもしかして全部0点なんじゃないか……?

いくら成績に反映されないという噂とはいえ素直に
信じて爆睡できる蓮池のメンタルの強さが羨ましい。

ただ勉強嫌いの蓮池のために次回のテスト前にまた勉強会を開いた方がいいことは明確で、実力テストの結果が思わしくなかったのか柊は八つ当たりするように
蓮池の椅子を蹴り飛ばしている。


小夜「はいはいはいはい。実力テストも終わったし
ホームルーム始めるぞー、蓮池起きろー」


ちょうど担任が戻ってきて、蓮池の頭を軽く小突いて
から教壇の前に立った。


小夜「マジでハイスピードで行くぞ。体育祭の種目決め15分、そんで文化祭の詳しいこと30分で決めて」


担任が黒板に体育祭の種目と定員人数を1つずつ書いていくが、


小夜「ほら、時間ねぇから早いもの順でやりたい種目に名前書いてけー」


その決め方があまりにも雑すぎる。

担任は文句を言う生徒を無視してチョークの粉がついた手を払っているが、どうやらうちのクラスだけまだ
文化祭の詳しい概要が決まっておらず生徒会に急かされたらしい。

生徒会はそんなところまで関与してるのかと驚いている間に運動部の奴らは率先して黒板に名前を書きに行った。


「げ!お前も短距離出んの!?」

「陸部なんだから当たり前だろ……ってか、何で同じ
クラスなのに部活対抗みたいになるんだろうな」

「先輩からの勝ての圧がやばすぎる。文化部ほんと
いいよな……」


名前を書きながら運動部の奴らが嘆いているが、話を
聞く限り体育祭だというのにクラス対抗ではなく部活
対抗に近い感じだ。

やれサッカー部の1年には負けるな、野球部の1年には
負けるなとどの部も先輩たちが厳しいようで既にげんなりしていた。

……可哀想に。

そう考えるとSSCは本当に気楽だ。

そんな圧も何も無い自由なサークルで改めていいよなとその姿をぼんやりと眺める。

正直俺はどの種目でもいいし特にやりたいものもない
から余り物でいいと座っていると、


楓「おい陰キャ、お前何ぼーっとしとんだ」


蓮池がムクリと起き上がって振り返った。


雅臣「蓮池、起きてたのか?いや、種目は別に何でもいいかなって」

楓「んなこと言って、お前なんか中学時代から余りもん押し付けられて万年持久走だろ」


……。

余りもの、って……。

蓮池は寝起きで機嫌が悪いのかケッと鼻で笑っているが、何故俺が中学3年間持久走だったと分かるんだ?

確かに持久走はやりたがらない人が多かったが、俺は
そこまで嫌いじゃないしやると言ったら皆喜んでくれていたのに。


雅臣「いや俺持久走好きだし……」

楓「そんな奴おらん」

雅臣「何でだよ!!普通に走ればいいだけだし俺は
好きで___」

夕太「もー!!でんちゃん意地悪言わないの!!素直に早く好きなやつ選べって言ってあげなよ」


柊にドンと椅子の下を蹴られて蓮池は不貞腐れているが、そういう事だったのか。

やっぱり優しいところがあるんだなと立ち上がると、
蓮池がふと思いついたように眉を上げてニヤリと笑った。


楓「……なぁ、お前玉入れにしろよ」

雅臣「玉入れ?」


突然の提案に疑問に思うが、黒板を見ると何故か玉入れのところは全然名前が書かれていない。

やっぱりうちのクラスは運動部が多いだけあって、玉入れや大玉転がしのような緩い競技は人気がないのだろうか。

蓮池は左口角を上げているが、……これはもしかして
一緒に出ようってことか?


雅臣「蓮池も玉入れにするのか?」

楓「お前が出るなら考えてもいい」

夕太「でんちゃんさぁ……まぁ、玉入れね、うん。
雅臣は……本当に玉入れでいいの?」


珍しく乗り気な蓮池を見て柊は微妙な顔をしているが、蓮池の提案を気にせず自分でやりたい種目を決めろと言いたいのだろう。

その気持ちは有難いが、せっかく蓮池が俺と一緒にやりたいかのような言い方をしてくれたんだ。

友達と一緒に体育祭の競技を決めたことなんてないし、いつも余り物でいい精神だったから蓮池の言葉は
とても嬉しかった。


雅臣「もちろんいいよ。玉入れ楽しみだな」


心配することはないと笑顔で気持ちを伝えるが、柊は
上を向いてうーんと考え込んだ。


夕太「……まぁ、うん。心配だし俺も一緒に出るよ」

雅臣「え!本当か?」

夕太「うん。俺が3人の名前書いてきてあげる」


柊は立ち上がり、玉入れのところに俺たちの名前を順に書いてくれた。

柊はついでに黒板の前で人気のなさそうな大玉転がしにも俺たちの名前を書いてくれて、


楓「玉ばっかじゃん」

夕太「じゃあでんちゃんはリレーする?」

楓「ダルい、なし、大玉でいいよ」


と2人は意外と楽しそうに盛り上がっていた。

体育祭の種目決めって楽しいものだったんだなという
初めての気づきに俺の心も踊る。


雅臣「蓮池って意外とこういうの乗り気なんだな」

楓「まぁな。面白いもん見れるの確定だし当日が楽しみだわ」

雅臣「お、おう……?」

小夜「おーし、名前書いたかー?空いてるとこどんどん埋めてけよー」


どういう事だと小首を傾げるが、担任が周りを急かすので分からないままだった。



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