山王学園シリーズ〜カサブランカの君へ〜

七海セレナ

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304.【それぞれの弁当】

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様々なお題に観客席からはずっと爆笑が渦巻き、借り人競走は大いに盛り上がった。

競技がムカデ競走に変わると大活躍した先輩たちが客席に戻ってきたが、どうにも梓蘭世が不機嫌丸出しだ。


蘭世「……マジで何で抱えるわけ?普通に一緒に走ればいいのに」

三木「俺が抱えて走った方が速いに決まってるだろ。実際それで勝ってるわけだしな」


まぁ、確かにその通りではあるが……いくら梓蘭世が軽いとはいえ姫抱きでゴールできる三木先輩の腕力は一体どうなってるんだ?

つい先輩の鍛えられた二の腕を見つめてしまうが、抱き上げられた本人は未だに納得がいかないらしい。


雅臣「あー……お疲れ様です」

夕太「すごいよ蘭世先輩、ジャジャ馬姫みたい__
ぐ、ぐるじいー!!!DVー!!!」

蘭世「だーれが姫だ!!!」

雅臣「まあまあまあまあ!!!」


柊にヘッドロックを決め込む梓蘭世を落ち着かせようと、素早くアイスティーをカップに入れて手渡した。


蘭世「……うめぇ」


アイスティーを飲みながらドカッとベンチに腰を下ろした梓蘭世は、その座高が異様に低いせいで脚の長さがより強調される気がする。

改めて8等身のスタイルと顔面偏差値の高さを実感し、芸能人の威力を思い知った。


梅生「桂樹先輩すみません、重かったですよね……」

桂樹「全然余裕。一条ちゃんと食ってんのか?」


少し遅れて戻ってきた桂樹先輩は申し訳なさそうな一条先輩の頭を笑いながらガシガシ撫でる。

白い頬がぽっと赤く染まるのが丸見えで、やっぱり山王に一条先輩レベルの色白はどこにもいないと感心してしまった。


雅臣「皆さんお疲れ様です!」 

桂樹「お、雅臣!見てた?__って何だこれ、美味そうじゃん!!」

雅臣「俺が作ったんです、良ければ桂樹先輩も食べて
ください」


置いてあったスナックの残りを差し出すと、桂樹先輩は最後の1つだったアメリカンドッグを一口で頬張った。


桂樹「んー!!!ん?ん?」

雅臣「そ、そうです!!俺が作りました!!」


口に入れた瞬間、桂樹先輩は本当にお前が作ったのかと目で訴えてくるので慌てて自分を指差した。

桂樹先輩は美味いと何度も言ってくれて、嬉しくて微笑んでいると何故か横から蓮池に思い切り脛を蹴飛ばされる。


雅臣「っ、い、痛いな!何するんだよ」

楓「……」


……何なんだよ!?

もしかして最後のアメリカンドッグが食べたかったのかと蹴られた脛を摩っていると、


桂樹「にしてもマジであとちょいで三木に勝てたのによ」


桂樹先輩は悔しそうに三木先輩に話しかけた。


三木「残念だったな」

蘭世「正味どっちの方が足速いん?」


梓蘭世の問いかけに先輩達はお互いが自分を指さすので思わず吹き出しそうになった。

桂樹先輩はしばらく俺の作ったスナックを摘んでいたが、ふと物言いたげな目を見せる。


桂樹「……あの、俺さ__」

「おい桂樹ー!! 早く来いよー!!」


先輩が口を開きかけた瞬間、アリーナから他の3年の先輩の声が飛んできた。


桂樹「……悪い、もう行くわ。騎馬戦もお互い頑張ろうな」

雅臣「あ、」


何か言おうとしていたのは明白だったが、片手を上げて去っていく桂樹先輩の表情はどこか曇っていた。

……まさか、今SSCを辞める話をしようとしていた、とか?

……。

さすがに違うよな。

もし辞めるにしてもきっと三木先輩だけに直接言うはずだ。

……というか、そうであって欲しい。

今日の楽しい瞬間を壊されるのは嫌で、頼むから今だけは辞めるなんて言わないで欲しいとこっそりと願った。




______

____________



夕太「いただきまーす!!」


ようやくの昼休憩。

俺たちは朝から色々摘みながら競技見てたとはいえ、
よく動いたから腹が減っていた。

保冷バッグから弁当箱を取り出し蓋を開けると、柊に
リクエストされたスコッチエッグに柊好みの野菜の肉巻き串やミニハンバーグから唐揚げまでぎっしり詰まっている。

口当たりの良い素麺カップには枝豆、錦糸卵や刻み海苔トッピングし、定番好みの蓮池のためにウインナーと卵焼き、おにぎりまで用意した。


雅臣「もし良ければこっちも摘んでくださいね」

蘭世「うお、すげえ。何これ素麺まであんの?」

梅生「藤城シェフだね」

夕太「やったスコッチエッグだ!!雅臣マジで作って
くれたの!?」


柊は自分の弁当そっちのけでスコッチエッグを2個まとめて口に放り込むと目を輝かせてまた1個箸を伸ばす。

こんなに喜んでくれるなら次は普通のゆで卵バージョンも作ろうかな……。

柊のリクエストのおかげで料理の幅がどんどん広がっていて、俺も自信作の肉巻き串に手を伸ばした。


夕太「雅臣交換しようね」


だが柊は自分の弁当の唐揚げを全部寄こす代わりに俺の弁当箱の肉巻き串をほとんど掻っ攫っていく。

当然俺が食べようとしていた分までせっせと自分の弁当箱に詰めてしまうので、俺は1つもありつけなかった。

……まあ、いいか。


蘭世「でんとこの弁当すげぇな」

楓「そうですか?いつも通りですけど」


俺の横で蓮池がいつものお重の蓋を開けた瞬間、秋の
味覚が凝縮されたようなおかずが現れた。


雅臣「蓮池の母さん、本当に料理上手だよな」

楓「マザコン熟女好き」

雅臣「はあ!?」


こ、この野郎……!

毎度熟女好きだとか馬鹿なことを抜かしやがって……!!

めちゃくちゃ腹が立つがここで俺が怒って蓮池が暴れようものならおばさんの作ったお弁当が台無しになってしまう。

グッと堪えて蓮池の弁当に目を向ければ、一番上のお重は銀シャリに薄切り松茸がびっしり敷かれている松茸ご飯で、銀杏と紅葉人参が彩りを添えていた。

二段目には鰻の八幡巻きや海老フライにだし巻き玉子など全部が宝石みたいに並んでいて、三段目は煮物や
息子好みのウインナーやハンバーグ、そしておにぎりにいなり寿司と圧巻だ。

いつもよりも見るからに力が入っていて、それを見た
柊がこっそり耳打ちしてきた。


夕太「でんちゃんが体育祭に参加するのが嬉しくって
おばさん張り切ったんだよ」


その言葉にホランテで買い出しをしていた姿を思い出し、お母さんの愛がいっぱい詰まった力作を見てるだけで心が温まる。


蘭世「うーわ、また野菜かよ……でんそのハンバーグ1個寄越せ」

楓「……もう取ってるじゃないですか」


梓蘭世は自分の弁当の蓋を開けたと同時にがっくり項垂れながら蓮池のハンバーグを摘む。

確かに彩りは素晴らしいが梓蘭世が食べ盛りの息子だということを全く配慮していない中身に少し同情した。


夕太「でんちゃんのおにぎり全部具材違うんでしょ?
おばさんの美味しいんだよなー!」

雅臣「やっぱり全部違うのか!?それはすご……え!?」


蓮池のおにぎりに気を取られていたが、ふと一条先輩がとんでもないほどデカイおにぎりを手にしていた。

か、軽くおにぎり4個分はないか……?


雅臣「あ、あの、一条先輩、もし良ければ俺のおかずも食べていいですからね」

梅生「この中におかず全部入ってるから大丈夫だよ」

雅臣「え!?___そ、それは…どこから何のおかずが出るのかワクワクしますね!」


おかずも何も無いラップにくるまれたそれだけを取り
出す姿に思わず声をかけてしまったが、一条先輩は楽しそうに笑った。

大きすぎるおにぎりからは唐揚げが顔を覗かせていて、俺がこれを作ることはないだろうが洗い物も出ないしワクワクしながら食べれるよなと素直に思った。


蘭世「梅ちゃん朝眠くて詰めるの面倒かったんだろ?」

梅生「野菜ばっかりだからって本当のお母さんが朝早くに起きて作ってくれたお弁当を蔑ろにする蘭世には
俺の気持ちなんて分からないよ。ハムが薔薇みたいで
綺麗じゃん、良かったね愛されてるね、ハイハイ俺は
どうせ面倒くさがりですよ」


___は、始まった……。

柊が以前一条先輩のこの状態をヒス構文と言っていたがまさにそれじゃないか。

どうして梓蘭世はいちいち余計なことを言うんだと俺ら1年は顔を見合わせる。


梅生「弁当作ってもらえるのが当たり前とか思ってる?蘭世知らないでしょ?炊きたてのお米でおにぎり
握るのがどれだけ熱いのか……ああ、そっか、おにぎりでさえ三木先輩が握ってくれるの?ハイハイ蘭世は本当に本当に恵まれてるね」

夕太「だ、だよねー!!お米熱いよねー!!梅ちゃん
先輩、ほら雅臣の作った野菜肉巻き食べなよ!!」

雅臣「い、一条先輩ゴマ団子も作ってきましたよ!」


俺と柊は慌てて一条先輩におかずを勧めるが、


梅生「藤城はえらいね、朝から皆の分まで作ってきてさ。ギリギリまで意地汚く寝てた蘭世と違ってね」


…………だ、ダメだ。

こうなった一条先輩を止めることは出来なくて、あなたが悪いですとばかりに梓蘭世を見ると非常に分が悪そうに黙って野菜弁当を食べ始めた。


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