山王学園シリーズ〜カサブランカの君へ〜

七海セレナ

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313.【着いてきてよかった】

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雅臣「……」

楓「……」


わかっている。

俺は蓮池の苛立ちをヒシヒシと感じていた。

いくら蓮池のお母さんが誘ってくれたとはいえ社交辞令で本当に家まで着いてくる奴があるかよ。

きっとこいつはそう言いたいんだろうけど、玄関まで一緒に来てしまった今、もう引き返すこともできない。


雅臣「お、お邪魔します」

楓「ほんとお前は図々しいな……」

雅臣「ご、ごめんって!!」


引き戸を開ける蓮池にまたため息をつかれるが、追い返されないということは家に上がっていいということなのだろう。

玄関で靴を揃えて蓮池に着いていくと出来たての食事の匂いが鼻をくすぐった。

廊下を進みキッチンに差し掛かった瞬間、テーブルの上にフルコースのように並んだ料理を見て俺は思わず足を止める。


楓「……ババアはすぐはしゃぎやがる」


蓮池は嫌そうに顔を歪めているが、まず目に入ったのは大きな耐熱皿にたっぷりと盛られたグラタンだ。

表面がこんがり狐色に焼けていてバターのいい香りに思わず喉が鳴る。

そういえば柊が蓮池の家のグラタンが絶品だって嬉しそうに話していたな。

手作りホワイトソースにじゃがいもがゴロゴロ入ってると言っていたことを思い出し自然と頬が緩む。

その脇には色んなおかずが並んでいて、ミートボールにレタスの豚肉巻き串、ロールキャベツとオムレツまで、全部蓮池と柊のために作られたものだった。

それにしても……。

柊が来られなくなったからといって俺が代わりにこんな豪華なごちそうを食べてもいいのだろうか?

蓮池のお母さんは息子が久しぶりに学校行事に出る喜びから体育祭用にあんな豪勢な弁当を作って、更に夕飯には2人の好物まで存分に作って……。


楓「何だよ」

雅臣「いや…その、本当に俺が食っていいのかなと……だってこれ全部柊とお前の好きなものなんだろ?」
 
楓「……しょうがないだろ。夕太くんは病院なんだから」


蓮池の声にはどこか諦めたような響きがあって、俺はまた柊のことを思い出させてしまったと胸が締めつけられた。


雅臣「……」

楓「……食いたきゃ食ってけよ」


深いため息をつきながらも同伴を許してくれる姿に俺の心も軽くなる。

たまたまとはいえこうして蓮池の家にいることがなんだか不思議で、でもとても嬉しかった。


楓「手洗ってこいよ。この部屋の前な」

雅臣「わ、わかった!」


洗面所の方を顎で指された俺は小走りで手を洗いに向かった。



______

____________



俺が手を洗っている間に蓮池はいつもの食事をする部屋に料理を運び込んでくれていたらしい。

総檜の一枚板のローテーブルの上にはずらりと料理が並んでいて、その圧巻の光景に目を奪われていると雑に箸を置く音でハッと我に返った。

 
楓「……いただきます」


座らない俺を無視して先に食べ始めようとする蓮池に、慌てて荷物を置いて蓮池の向かいに腰を下ろす。


雅臣「い、いただきます」


2人だけの静かな食卓が始まった。

俺はスプーンを握ったまましばらく蓮池の顔を見つめてしまう。


楓「……俺なんか見とらんとはよ食えや」

雅臣「へ?あ、そ、そうだな!」


不機嫌そうに睨みつけてくる蓮池のために俺は慌ててグラタンを小皿によそい分けた。

気まずさを誤魔化すようにスプーンですくって冷ましもせず口に入れたせいで熱くて涙が出そうになる。

何とか咀嚼するとじゃがいものホクホクした食感が広がってチーズと完璧に合っていた。

……これは絶対柊が好きな味だ。

色鮮やかなオムレツにも手を伸ばすと、ピーマンやパプリカ、ニンジンがが細かく刻んであって見た目もさながら味も本当に美味しい。

でも、味わえば味わうほど胸の奥がチクチクした。

チラと蓮池を見るとやっと肉巻き串に手を伸ばしたが皿に置いてからはなかなか手をつけようとしない。

……肉巻き串は、柊の好物だもんな。


雅臣「う、美味いな蓮池!!本当に絶品だよ!!だから……ほら、」


柊のことを思い出してまた沈んだのか、手をつけずに動かないその姿に今度は俺が食べるよう促してやる。

ほっとけと言わんばかりに睨まれるが俺は諦めずに目で訴えてみた。

しばらくじっとお互いを見つめ合う妙な時間が生まれたが、先に折れたのは蓮池だった。

蓮池は渋々食べ始めるがやっぱり母親の味は口に合うようで次第に手が進むようになった。

これでこの豪華な料理が無駄にならずに済むと、俺も肉巻き串を手に取り噛み締める。


___着いてきて良かった。


1人でこのテーブルに向かうのはきっと辛かっただろうし、柊のために並んだおかずを見てまた不安に掻き立てられたはずだ。

蓮池の表情はさっきより少しだけ柔らかく見えて、俺は自分が少しでも役に立てた気かした。


雅臣「柊からそのうち連絡来ると思うよ」

楓「……さあ?俺にはしないんじゃない?」


幼馴染の名前を出した途端、蓮池の表情はまた曇ってしまい部屋は沈黙に包まれた。


雅臣「多分担任があいつの親にも連絡するだろうし…それにもしかしたら柊のお母さんからお前のお母さんに連絡してくれるかもしれないだろ?」

楓「何で親同士が繋がっとることをお前が知っとんだ」

雅臣「えっ?」


冷たい声に思わず顔を上げると、形相が一変した蓮池に俺の背筋が凍った。




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