山王学園シリーズ〜カサブランカの君へ〜

七海セレナ

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318.【初めての頼み事】

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雅臣「……熱っ!!」


湯船に足を踏み入れた瞬間、あまりの熱さに思わず声が出た。

俺は慌てて湯船の縁に手をつき体を引くが、檜のいい香りが鼻をくすぐるのに堪能する暇もない。


雅臣「ご、拷問かよ……」


この前泊まった時に柊が「でんちゃんの家の風呂はいつも45度」と言っていたがさすがに熱すぎる。

湯船の外で足を冷ましながらゆっくりと体を沈めて徐々に慣らしていった。


雅臣「あー……」


熱がじわじわと体全体に広がって、自然と深いため息が漏れる。

ふくらはぎの張りから足の裏の痛みまで、今日1日で溜まった疲れが全部溶けていくように感じた。


それにしても……。

本当に蓮池との関係性も随分マシになったな。

ちょっと前までは蓮池の視線1つで凍りつきそうだったのに、今はこうして泊めてもらって風呂まで沸かしてもらってるなんて……。

あの後、泊まることを許してくれた蓮池は俺を客間に案内してくれた。

家の中は相変わらず花の香りが漂っていて、廊下を歩きながら少し開いていた襖から部屋を覗くと、畳の上には数え切れないほどの花器と道具が整然と並べられていた。


楓『次の華道の展示会の準備で部屋がほとんど埋まってんだよ』


目ざとい蓮池は俺の様子を見逃さなかったがきちんと客間に案内してくれて、布団は自分で引けと言い残してこの風呂を沸かしておいてくれた。

蓮池の気遣いに感動しながら湯船の中で大きく伸びると、肋骨あたりが軋む感覚に慌てて体を戻す。


雅臣「いてて……」


体育祭での筋肉痛が今頃来てるのか?

普段全然運動していないせいか骨がやけに痛む気がする。

料理や勉強ばかりじゃなくもう少し涼しくなったらランニングくらい始めてみようと肋をさすった。


雅臣「……あ、弁当箱」


ふと汚れたままの弁当箱の存在を思い出すが、明日の朝家に帰ってから直ぐに洗えばいいか。

逆上せる前にと俺は早々に風呂を上がることにした。



______

___________



風呂から上がると、脱衣所にタオルと浴衣がきちんと畳んで置いてあった。

多分こういうきっちりしたところが蓮池のお母さんに似てるんだろうなと微笑み、蓮池を探せば縁側の傍に座布団を敷いて腰を下ろす姿が目に入る。


雅臣「蓮池、風呂ありがとうな。あとタオルに浴衣も貸してくれて助かった」

楓「全裸でうろつかれても困るからな」

雅臣「うろつくわけないだろ!!……って、風邪ひくぞ?」


ぼんやりと大雨の降る庭を眺めていたその視線の先はやっぱりあの切り株だった。
 

雅臣「……あの、」

楓「あのさ、」


同時に口を開いてしまい一瞬気まずい空気が流れるが、俺が目線で「先にどうぞ」と促すと蓮池は躊躇いながらも口を開いた。


楓「……夕太くんに電話かけて」

雅臣「え?」

楓「……連絡ないから」


そういえば、と俺もスマホを確認するがチャットも着信も何もない。

いい加減検査も終わってるはずなのに連絡がないのはうっかり忘れてるのだろう。


雅臣「蓮池からかければ___」

楓「頼む」


は、蓮池が俺に頼みごとをするなんて……。

有り得ないことすぎて驚いてしまうが、目の奥に浮かぶ不安がはっきりと伝わってきて断れるわけがなかった。

連絡がないのはやっぱり心配だよな。

俺は立ったままスマホを取り出し柊のチャットから電話マークをタップした。


雅臣「かけるぞ?」


突き刺さるような蓮池の視線を感じながら通話ボタンを押すと呼び出し音が鳴り、1回、2回……5回目にしてようやく繋がった。


夕太『んえ?むぁさうぉみ?やべ!!タレついた!!』


……ほら見ろ、元気じゃないか。

咀嚼音と柊の騒がしい声を聞きながら、忘れていただけだと確信して肩の力が抜けた。


夕太『雅臣ー!?どしたの?』


俺から電話なんて珍しいからか不思議そうな声が向こうから聞こえてくる。


雅臣「いや、その、大丈夫だったかなと……」

夕太『あーっ!ごめん!!全然余裕、むしろ健康すぎて褒められたよ』

雅臣「な、ならいいんだ……っ!?」


突然、蓮池に袖を強く引っ張られて、俺は無理やりその横に座らされた。

差し出された蓮池のスマホの画面には文字が打ち込まれている。


〝ビデオ通話にして〟

〝嘘かもしれない〟


その内容から蓮池の不安が痛いほど伝わってきて可哀想になってしまった。


夕太『雅臣ー?どしたよ?』

雅臣「あ、いや、えっと……だ、大丈夫だ。柊は何してたんだ?」

夕太「しぃちゃんが買ってきた焼鳥食ってるよ!」


またもしゃもしゃと咀嚼音が聞こえ始めて、柊がこの状態で嘘をついてるとは到底思えない。

俺は蓮池の顔をチラッと見るが、首を振るだけで柊の言葉を信じていないようだ。

これの様子じゃ自分の目で確認しないと納得しないよな……。

俺はどうにか自然な流れでビデオ通話に持っていこうと必死に考える。

……。

…………。

……ごめん、母さん。

本当に悪いとは思ってる。

帰ったら新しい花を飾るからもう1回だけ嘘に使うことを許してくれと心の中で目一杯頭を下げた。


雅臣「あ、あのさ」

夕太『ぬぅあーにー?』

雅臣「……お、俺の母さん死んじゃっただろ?」

夕太『ぅえ!?』


柊は焼き鳥を喉に詰まらせたのかゲホゲホと咳き込んでいて、それでも何かを感じ取ったのか電話越しに急に慌て始めた。


夕太『ゲホゲホっ!!……ご、ごめん、ど、どしたのさ急に』

雅臣「だから、その、ビ、ビデオ通話にして顔を見せてくれないか?……よ、要するに安心したいんだよ!!」


蓮池は眉根を寄せてじっとこっちを見つめているが、我ながらどんな頼み方だよと自分でも思う。

でも、これも全て蓮池のためだ。

柊が元気そうなのは電話越しで分かるけれど、蓮池が実際に見て安心するならそれが一番だもんな。


夕太『も、もちろん!ほら見て雅臣!俺ピンシャンしてるでしょ?』


ビデオ通話に切り替わると同時にスピーカーに変わり、柊の声が縁側に響き渡る。

画面に映った柊は緑の変な宇宙人のヘアバンドで前髪を上げていて、口の周りには焼き鳥のタレがベタベタについていた。

どこからどう見てもめちゃくちゃ元気そうなその姿に、蓮池の肩から少しだけ力が抜けていくのが分かった。



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