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326.【それぞれの優しさ】
しおりを挟む夕太「そうだよ!雅臣の母ちゃん!」
蘭世「何で夕太が答えてんだよ……それにしても……」
梅生「似……うん、似てないね」
飾り棚に置いてある小さな写真立てを見つけた一条先輩の言葉に皆が自然と棚の前に集まり始めた。
母さんもこんなに沢山の男子高生に囲まれるのは初めてだろうな……。
病院ばかりだった自分の母親だが驚いた顔で皆を見上げるかもしれないと思うと何となく笑ってしまった。
雅臣「俺は本当に親父似ですよ」
梅生「みたいだね。俺も父親に似てるって言われること多いかな」
夕太「1番目は父親に似るって言わない?」
あんまり聞いた事のない迷信に本当かと首を傾げるが長男である三木先輩も父親にそっくりだったことを思い出す。
蘭世「あー、俺も意外とパパ似かも」
雅臣「あのデザイナーの……!!」
その言葉に一瞬、上ずった声が出てしまった。
この人の異常な等身とスタイルは間違いなく母親の梓志保似だが、確かに顔立ちは世界的デザイナーである父親の影響が強い気がする。
梅生「えぇ?そうかな」
蘭世「え?ちげぇ?割とパパ似だと思ってんだけど」
雅臣「何言ってるんですか!?似てますよ!スタイルは梓志保ですけど顔は絶対父親譲りです!!」
何を馬鹿なことを言っているんだと俺はつい2人に力説してしまった。
少し垂れ気味の甘い目元も彫りが深くて鼻筋が通っているところも父親にそっくりじゃないか。
本当に両方から良いとこ取りすぎなくらい整っていて改めて華やかな顔立ちをしげしげと見つめていると、
蓮池「てめぇは……」
三木「ふっ……」
だが蓮池の呆れた声と三木先輩の苦笑が聞こえてハッとした。
蓮池は明らかに俺を見て引いていて、梓蘭世は勘弁してくれと思い切り俺の頭を叩いた。
蘭世「ほんっっっとお前はミーハーだな!!」
三木「熱心なファンでいいじゃないか」
雅臣「す、すみません……」
梓蘭世のことになるとミーハーさを抑えきれない自分が本当に恥ずかしい。
皆に大爆笑されながらそれぞれ席に戻って引き続き親の話で盛り上がると、ふと担任との車の中での会話を思い出した。
………ないとは思うけど、念には念を入れて置いた方がいいよな。
雅臣「あの、ちょっといいですか……」
突然話し始めた俺に、全員の注目が集まる。
雅臣「実は俺、骨折したことを親父に連絡しないでくれって担任に頼んだんです。これを機に何かアクションを起こされても困ると言いますか……」
俺は今の素直な気持ちを皆に訥々と説明した。
これを機に東京に引き戻されるかもしれないこと。
今の俺では親父と上手く話せない気がすること。
まだ山王で皆と楽しく過ごしたいこと。
ゆっくりと素直な気持ちを語れば皆は静かに聞いてくれた。
雅臣「だから、もし先生たちから骨折の詳細を詳しく聞かれても……もし俺の親父が学校に来たとしても何も言わないで欲しいんです」
親父がこういう時だけ大騒ぎするかもしれないなんて考えるだけでも嫌だが、俺は何よりもSSCの皆に迷惑をかけたくない。
雅臣「……柊?」
夕太「ゲフォ……ケフォ……」
だができる限り上手く収束させたい一心を台無しにしたのは柊だった。
雅臣「柊!!!」
よく乾燥したタルト生地が喉を通過しないのかむせ込む柊に俺は水と慌てて立ち上がるが骨の軋みを感じてままならない。
こ、このバカカナリアは……!!
本当にどうしていつもいつもこうなんだ!!!
代わりに三木先輩が立ち上がって冷蔵庫から牛乳パックを取り出し机の上にドンと置くと、柊はそのまま口を口をつけて一気に飲み干した。
ゼーハーと肩で息をする柊を見ながら人の真剣な話を折りやがってとムカつきとため息が止まらない……!!
雅臣「あのなぁ!俺は真剣に話してるのに……というか!!お前はそろそろ本当にその食べ方を意識して直せよ!!」
楓「あ!?夕太くんにどういう口の利き方だよ、お前こそ何調子乗って___」
夕太「でんちゃんっ!!」
柊は口の周りに牛乳をつけたまま珍しく蓮池を片手で制した。
夕太「ま、雅臣!!もし……とっとから電話とかメールとかチャット、それからそれからDMとか!!何か1つでも連絡が来たらまずは返信せず俺とでんちゃんに連絡して?ね?ね?」
雅臣「……は?」
夕太「絶対俺たちすぐ駆けつけるから……作戦会議行くから……」
も、もしかして柊は俺を心配するあまり勢い余ってタルトを飲み込んでしまったのか?
そうとは知らず俺は心の中でこっそりバカカナリアと暴言を吐いてしまった。
雅臣「あ、ありがとう……!!何か心強いな」
俺は嬉しさと申し訳なさで痛みに耐えながらも何とか立ち上がり、その背中をさすってついでにウエットティッシュで口も拭いてやる。
楓「あー……まあ、自分から何かとっとに言う必要ももちろんない。俺らも言わない、いいな?絶対に言うなよ」
さっきまで言い返そうとしていた蓮池までも真剣な顔で頷いていて、2人の優しさに俺は胸が熱くなるが、
蘭世「あーね?お前ら雅臣散々弄ってきたから気まずいんだろ?とっとにウチの息子に何てことをーなんて言われたら立場ねぇもんな」
騙されんなよと梓蘭世にニヤニヤ笑われてしまった。
梅生「蘭世に言われたくないよね?人のこと言えないくらい藤城のことからかってるくせに」
雅臣「俺が鈍臭いから2人は心配してくれてるんですよ!……ありがとうな」
蘭世「……チョロすぎ」
梅生「そういうのは気が良いって言うんだよ」
苦笑する2年の2人にそうじゃないと首を振った。
普段はとんでもないことばかりする柊と蓮池だけど、多分心では俺のことをちゃんと思ってくれている。
柊の言い方からして俺と違って隙のないこいつらは事前に親父から連絡が来た時の作戦を色々と立ててくれていたのだろう。
友達と、友達になれたらいいなと思ってる奴が俺にためにあれこれ考えてくれていることが本当に嬉しかった。
三木「雅臣、お前は何も心配しなくていい」
三木先輩も俺を真っ直ぐに見据えた。
三木「何か骨折に関することを聞かれても全員俺に聞くように言え。先生には俺が上手く説明しておくし、たとえ雅臣の親父が出てきたとしても俺が対応するよ」
何よりも心強い言葉とともに三木先輩が眼鏡のブリッジを押し上げ静かに微笑んだ。
……先輩はいつもこうだ。
一言二言で場を収めて上手く有利な形に持っていってくれて、三木先輩ならどんな難問でも上手く解決してくれる気がして本当に心強い。
三木「それに山王はバカなだけあって揉め事が多いから本当に心配するな」
雅臣「へ?」
三木「骨折なんて大した問題じゃないってことだ。なあ、蘭世?」
突然名指しで振られた梓蘭世はびくりと肩を震わせた。
梓蘭世はタルトにフォークを突き立てたまま視線を逸らし、気まずそうに口元を引きつらせている。
……この人も何かしらやらかしてるな?
その度に全部三木先輩がフォローして回っていたことが分かりつい笑ってしまった。
蘭世「はぁー?俺はマジで品行方正だろうがよ」
梅生「何言ってんだよ。中1の時廊下の壁大破してたじゃん」
蘭世「あれはー!たまたま足が当たって……ま、まあ!!何かあったら俺も言ってやるよ!!どうせとっとも俺の顔好きだろ?この俺の顔見てたら全部どうでもよくなるっての」
どうせって……。
自分の過去をバラされ気まずくなったのか梓蘭世なりの親父対策を披露してくれるが全く意味がなくて納得いかない。
夕太「えぇぇ!?とっとも蘭世先輩好きなの?うわ、親子で姫を取り合いかぁ……」
雅臣「ち、違う!!親父は梓志保の方が___」
そこまで言って、しまったと口を抑えたけどもう遅い。
蓮池の目は半月型になり、
楓「本物の親子丼だね」
いつものように俺が思いつきもしないろくでもない例え方をしやがった。
雅臣「何だよそれ!!!」
楓「お前のミーハーさはとっと(笑)譲りとよぉくわかったわ」
く、クソ野郎!!!!
……というより、どうして俺は親父のこととなると余計なことばかり言ってしまうんだ!!
いやらしく笑う蓮池に言い返すことも出来ずに悔しくて震えていると、
夕太「え!梓志保もとっとの愛人候補なの!?どうしよう、SSCで義兄弟ができちゃ……ぐええ!!蘭世せんぱいじぬ!!」
柊が更に余計なことを言って梓蘭世に締められた。
それを見た皆の笑い声がリビングに響いて、肋骨は痛いけど心は今までで一番満たされていた。
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