山王学園シリーズ〜カサブランカの君へ〜

七海セレナ

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68.【ついに始動!SSC!】

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たこ焼きパーティー…もとい、歓迎会騒動の翌日。

今日のSSCの活動は珍しく5階の1年1組、俺達の教室で行われることになった。

というのも、珍しく担任がSSC全員に招集をかけたのだ。

終礼後、柊は始まる前にトイレに行ってくると教室を出ていってしまい蓮池はどこへ行ったかわからない。

担任は1人残された俺に、


小夜「すぐ戻るけど、一旦職員室行かなきゃなんねーから皆来たら待たせといて」


頼んだ、と手を上げて教室を出ていった。

今日の終礼を担任が早く終わらせたこともあって、まだ誰も来ない。

先輩達を待つ間にイヤホンを取りだし音楽を聴いて
10分程過ぎた頃、2.3年が揃って教室に顔を出し、その後すぐ柊も戻ってきた。

遅れて蓮池が片手に購買の袋を抱えて戻ってきたのを目ざとい柊が見つける。


夕太「でんちゃんドーナツあった?」

楓「あんドーナツとツイスターとか」

夕太「1個頂戴」


どちらも白砂糖が大量にまぶしてあるドーナツを柊が袋から勝手に出して蓮池の了承も得ずにかぶりついた。


夕太「むぅさおみ、何聞いてんの?」


手も口もドーナツの砂糖をいっぱいつけた柊が近づいて来て、油と砂糖まみれの指で俺のイヤホンを抜こうとするから飛び退きすぐに自分で外した。


雅臣「柊、頼むからこれで拭いてからにしてくれ」


ティッシュを差し出して事なきを得たと安堵した時、タイミング良く担任が戻ってきて全員に着席を促した。



小夜「___ねぇ君達、頼むからお歌歌って!」



教壇に立つなり担任は実に真っ当な顧問らしい言葉を吐いた。


小夜「モリゾーにクソ叱られたの!監督不行届って!パーティーしてもいいからSSCの名の通り、君達今日からお歌作りなさい」


森耕三、略してモリゾーとは教頭先生のことだ。

あの後担任が散々叱られる代わりに、俺達は見逃して貰えたんだと気づいた。


……でも、その通りだよな。


今まで全員でピザだのたこ焼きだの遊び呆けてばかりで、作詞、作曲、歌っちゃおうなんて1度もした事がない。

俺がこのサークルに入りたくなかった本来の理由を思い出し、せっかくこのサークルにもメンバーにも慣れてきて楽しくなってきたところだったのにと少しだけ気分が沈んだ。

活動内容通りになったら当たり前だが人前で歌う事になる。

最初はただ気恥ずかしくて嫌なだけだったが、ぼっち、コミュ障、陰キャを自覚した今の俺には黒歴史を作れと言われているようなもので……。

担任は三木先輩の肩を叩いて、逐一報告するようにと念を押して教室を出ていった。


三木「……仕方ない、やるか」


今日は合唱部で忙しい桂樹先輩以外全員集まっているから、今後どう進めていくのか初めて話し合いをする事になった。


蘭世「作詞作曲なぁ……ガチ?」


梓蘭世がやりたくないとばかりに拒絶オーラを出しているのが見て分かる。


夕太「ガチです、ガチ、ちゃんと活動します」

梅生「柊は何か案とかある?」


ドーナツで腹の脹れた柊は元気とやる気に満ち溢れているがまだ何も考えてはいないようで、んーと首を傾げて考え込んでしまった。


三木「生徒会はうるさいからな。名前通りきちんと作詞作曲を自分達でしないといけないぞ」


先生達は見逃してくれてもあそこだけは厳しいと三木先輩が真剣な顔で話すのを聞いて、蓮池がだるいと呟いた。

稽古や花展など普段から人前に出ることの多い蓮池ならともかく、やはり俺みたいな奴は極力人前で歌うのは避けたい。


三木「何曲か作って全員で歌うか?」

蘭世「……俺は歌わねぇって」


目を逸らしそっぽを向く梓蘭世を三木さんはチラと見ただけでそれ以上は何も言わないが、俺は歌わないと言い切る梓蘭世に少し残念に思った。

昔〝あの梓蘭世がミュージカルに出演〟とテレビで大きく特集を組まれて、俺も何度かその歌声を聞いた事がある。

ミュージカル『タイガーキング』に出ていた子役の梓蘭世の歌声は、ダブルキャストの子が気の毒になるくらいレベルが違って子供心に感動した。

生まれか素質か天性のものか、演技も歌も何をするにも別格という言葉が相応しい子役だったのだ。

成長してからは1度も歌声を聞いたことがないし、折角なら聞いてみたいと思うがそれは俺の我儘だよな。

以前は合唱部のソロくらい歌ってやればいいのにと梓蘭世が歌わない事の方が疑問だったが、今はきっと本人に何か込み入った事情があるのだと理解できる。

今この瞬間、本人が全く乗り気でない事がその証拠だ。

流行り廃りの激しい芸能界で三木先輩の家の事務所が休ませてもいいと決断をしたくらいだから、もしかしたら本人が普通の学生生活を送りたいのかもしれない。

大須で楽しそうに笑う梓蘭世の様子を思い出し、余計にそう思えた。


蘭世「三木さんこれってさ、どこで歌うの?」

三木「それも含めて決めないとな。10月が文化祭とはいえ企画書は夏休み前には提出しないといけない」


三木先輩の言葉を聞いた梓蘭世の顔は明らかに嫌そうだ。

梓蘭世がソロを歌うか歌わないかで揉めて合唱部を辞めた経緯を俺は掻い摘んで見ていたけれど、真相は分からない。

ただ今日ばかりは桂樹先輩が参加していなくて本当に良かったと思う。

どういう形になるかはまだ分からないが、梓蘭世がSSCの方では歌うとなれば桂樹先輩も合唱部の奴らもいい気はしないだろう。

しかし何をどうしたって梓蘭世が反感を買いそうで、三木先輩はどうするつもりなんだろうかと頬杖をつきながら眺めた。


楓「まあ別になんでもいいけど…全員で何曲かって効率悪くない?好きなペアでいいじゃん」


すでに飽きたのかだるそうな蓮池の意見に、他人の心配をしてる場合かと真顔になる。

よりにもよってペアだなんて……東京時代が頭を過ぎって暗くなる。

あの頃の周りの皆が仕方なく俺とペアを組んだりグループに入れてくれていたという予測は概ね間違っていないと思う。

だからこそぼっちで陰キャでコミュ障と気づいた今の俺にはペアを組むなんてハードルが高すぎるのだ。

……もう頭の中で残酷な図式浮かび上がるぞ。


A.蓮池は柊と組む。
B.梓蘭世は一条先輩と組む。
C.三木先輩は桂樹先輩と組む。


こんなのどこにも俺の入る余地がないじゃないか!!

大体奇数なのにペアを提案するだなんて、新手の蓮池の嫌がらせかもしれないと少しだけ恨めしく思うがそんな俺の胸の内に気がつくわけもない蓮池はどこ吹く風だ。

これならまだ全員で作り上げて歌う方がマシだが、効率が悪いという意見に皆が納得し始めている中、俺は気合いで手を上げ1人1人の目を見ながら提案した。


雅臣「が、学年ごと、とかどうでしょうか……」



_____俺は自分を変えると決めたんだ。


蓮池と一緒にやると考えるとすでに気が重いが、誰ともペアが組めずぼっちが確定しそうな今、そんな事は言っていられない。

学年ごとなら最近話慣れてきた柊もいるし何とかなりそうだと提案したが、


梅生「えっ」


学年ごと、に驚き反応したのは一条先輩だった。


梅生「お、俺作曲とか何にもできないし……」

蘭世「俺はピアノもギターもある程度できるし、作詞は一緒にやればいいだろ?」

梅生「い、いや……そう、なんだけど」


しまった。

梓蘭世は歌わないと宣言してる以上、一条先輩は1人で歌うことになってしまう。

一条先輩は非常に浮かない表情を見せるが、2人で一緒に何かをするのが嬉しい気持ちが勝つのか、いつもならその態度にすぐ気がつき不機嫌になる梓蘭世も今日に限って何にも言わない。


雅臣「あ、梓先輩が歌わないなら、一条先輩が1人で歌う事になりますよ」


言い出した俺がフォローしないと、と助け舟を出すよう掛けた言葉に一条先輩は目を瞬き、梓蘭世は眉根に皺を寄せ舌打ちする。

……これはまずい。

険悪になりかねない雰囲気にどうにかしないとと焦る俺に、


夕太「確かに、んー…あ!それなら梅ちゃん先輩俺と歌おうよ!」

梅生「え……あ、」

夕太「蘭世先輩が作曲して作詞は2年2人でやって…で、出来た曲は俺と歌おう!」


柊がこれぞフォローというお手本を見せてくれた。

人前で歌いたくないという梓蘭世にこれ以上の提案が出来るはずもなく、まぁそれなら、と納得してくれた。


三木「それなら学年ごとで1曲作り上げて歌おうか。柊は一条と歌ってもいいし、まぁ1曲くらいは全員で歌うのもいいかもな」


三木先輩は再びチラと梓蘭世を見る。

例え全員でも〝歌う〟という事に梓蘭世の表情が酷く固くなるのを俺は見逃さなかった。

梓蘭世は物言いたげに三木先輩をじっと見つめるが、口を開けばうっかり余計な感情を掘り起こしかねない気がして不安になる。

こんなところで気持ちを暴露する羽目になり、また梓蘭世の激昂に飲まれるのは嫌だという俺の願いが伝わったのか、梓蘭世は目を逸らし無言で唇を噛み締めた。


夕太「それいい!!でんちゃん超音痴だからさ。下手すぎて聞いてられないけど学年ごとと皆で歌うなら大丈夫だね」

楓「……うるさいな夕太くん」


意外にもあっさり学年ごとに1曲作って歌う事が確定したが本当にそれで良かったんだろうかと不安が過ぎる。

もちろん言い出した俺にとっては有難いことだが、2年生は2人とも浮かない表情で、よく考えれば3年生だって三木先輩と桂樹先輩の2人でやるのは少し気まずいんじゃないだろうか。

今更ながら俺の自分本位な提案が通った事に不安になると同時に、ガラッと勢いよく扉が開く。


「あー死ぬかと思った、決まった?」


雅臣「……えっ!?」


振り向けば桂樹先輩がいたが、その変わり果てた様子に本人だと理解するのに脳が追いつかなかった。




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