山王学園シリーズ〜カサブランカの君へ〜

七海セレナ

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70.【波乱の予感】

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こうして学年ごとに歌詞のテーマが確定したわけだが、ボッチで陰キャでコミュ障の俺が引いたテーマがよりにもよって〝友情〟だなんて無理難題がすぎる。

何より俺ら1年……と言うよりも俺と柊、俺と蓮池の間にはまだ友情も何もない。


蘭世「……しかし愛って、また困るものを……」

梅生「ごめん、蘭世」


一条先輩がそのテーマを引いてしまったことを詫びるように両手を目の前で合わせた。

確かに俺らの友情も厳しいが、愛なんてもっとハードルが高い気がする。


蘭世「難しくねってだけだよ、謝るなって」


謝る一条先輩を励ますように梓蘭世はその背中を軽く叩いた。


桂樹「企画書提出は?合唱部の方は例年通りだけど、ここどーすんの?」

三木「それも早く決めないとな。企画書にはいつ何をどこでやりたいのか概ねの希望を書くんだ」


企画書、と頭にハテナを浮かべる俺達1年に向けて三木先輩は分かりやすく説明してくれる。


三木「運動部は運動場を使ったり広場使ったりだが…文化部は割と体育館でやりたがるところが多いんだ」

桂樹「文化祭には来年受験する奴らも見に来るし、新入部員獲得のためにも意外と気合い入れてる部活多いんだよな。ちなみに合唱部は今年も体育館、あと吹奏楽と演劇部も多分体育館狙い」


3年生2人の説明をざっと聞いて、あの広い体育館でやりたがるなんてともうビビる。

うちがどの場所を狙うのかまだ分からないが、広い場所や大勢の前で自分達の作った歌を披露するのかと想像したらもう恥ずかしくて死にたくなった。


雅臣「あの、申請した場所全部そのまま通る…とかじゃないんですよね?」


疑問に思ったことを素直に尋ねると、


三木「希望が多かったらジャンケンなんだよ。生徒会の前で公正にな」

桂樹「生徒会って1年中忙しいけど文化祭あたりがピークで忙しいからなぁ…にしても今年はピリつくの早くね?」


笑う桂樹先輩を横目に俺はジャンケンと聞いて少し安心した。

あまり人の来ない静かな場所でひっそり歌えないかと目論むが、皆の意見も色々あるよな。

山王の異様なまでの部活熱に圧倒されるのと、生徒会の多忙さを知ってこの間の2人を思い出す。

あの多様性生徒会長と眼帯カラーグラスの強烈な2人しか知らないが、きっとあれと渡り合えるメンバーがまだいるのだろう。


夕太「それならまた明日企画書のこと決めて、今日はテーマに沿ってどんな曲調にするとか___」

桂樹「あーわり、俺この後合唱部の方行かないとで…明日昼なら参加できる」


柊がすぐ曲について決めようと教壇に立つが、桂樹先輩は合唱部の大会に文化祭、それに加えてこっちの文化祭まで生徒会に負けじと大忙しだ。


蘭世「企画書だけだろ?昼やるなら食堂でいいんじゃね?」

雅臣「……食堂なら、1年で席取っておきます」

蘭世「お、まじ?気ぃ利くじゃん!」


意識して先回りした言葉を梓蘭世が褒めてくれて、自然と顔が綻ぶのが分かる。


三木「授業終わりダッシュしたら7席取れると思うから頼んだぞ」

桂樹「昼に食堂な、また連絡するわ」


そう言うと桂樹先輩は足早に教室を出ていった。


夕太「雅臣、明日頑張ろうな!」


席取りに蓮池をハナから当てにしていないのか柊は俺に笑いかけてくれて、俺が勝手に1年でと言ってしまったが乗り気な様子に安堵した。


雅臣「ああ、明日な」


誰かのために席取りをするなんて初めてだ。

弁当作りに買い出し、そして席取りと少しずつ変わっていく自分が嬉しい。

サークルの皆を見渡しながら、改めて大須で俺は思っていたほど大層な人間でないことに気がつけて良かったと思った。

変わりたいと思って動き出したが、人はそう簡単には変われない。

それでも足を止めずに頑張る自分はこれからどうなっていくんだろうと想像した。

友達を作りたいとか、先輩との関係とか、毎日考えることは山程あって気持ちも頭の中も忙しないが、これだけはハッキリと言える。

東京にいた時の自分よりも、今の自分の方が好きだ。

明日の約束が待ち遠しい、そんな心が踊るような感覚に俺はしばらく包まれていた。






______________





………。

朝起きると何となく頭が重くて冴えないが、今日だけは休む訳にはいかなかった。

昨日あまりの蒸し暑さにクーラーをつけたまま寝たのがいけなかったのか?

いつもと少し違う気がしてすぐに市販の薬を飲んで、どうせ食堂に集まるんだから久しぶりに何か買って食べようと日課になっていた弁当作りを休みにした。

そして席取りの任務に張り切って学校へ向かったものの、朝礼が始まっているのに教室には柊の姿もなければ蓮池の姿もなかった。

蓮池はいつも通り寝坊、……いや家業による遅刻かもしれないが、毎朝必ず俺よりも先に教室にいる柊がいない。

珍しく寝坊……?いや電車が遅延してるとか?

後で担任に聞こうと思うと前の席の奴らがタイミングよく同じ質問をした。


「先生、柊は?」

小夜「あー、あいつ今日休み。体調不良」


………や、ややや、休み!?!?

想像をしてていなかった事態に分かりやすく動揺した。

昨日の帰り際、柊と再びまた明日と約束した時は元気そうだったのに風邪でも引いたんだろうか。

俺も今朝少し頭が重かったから、薬を飲んできて正解だった。

……しかし、困ったぞ。

席取りは正直まだどこか柊をあてにしていたとこもあり、いよいよ自分1人で成し遂げなければならないことに緊張が走る。

授業終わりにダッシュするなら柊のすばしっこさが頼りだったのに、あいつがいないとなると俺1人で柊抜きの6人分の座席を用意しなけらばならない。

程よくいい感じの席を2人で探す予定が大幅に狂って焦ってしまう。

蓮池は……、あいつはそもそも今日来るかどうかも微妙だ。

そっとスマホを開いてみても柊から連絡もなく、あの気遣いができる柊が連絡できないのなら相当体調が悪いのだろう。

俺が言い出した以上ここは自力で何とか頑張らねば。

やる気に燃える俺は頭の中で何度か利用したことのある食堂を思い出し、1限が始まるチャイムを聞きながら窓側の大きい丸テーブルに狙いをつけた。



_____________

_____________________



つ、ついてる………!!!

本当についているぞ、運が俺に味方した!!

4限の数学の授業が5分早く終わったのだ。

案の定蓮池は来なくて、俺は急いで教室を飛び出した。

今朝の調子の悪さは薬が効いたのか少し落ち着いて、己に任された任務のために猛スピードで走る。

食堂の扉を開けば多少の人はいたが狙っていた丸テーブルの席は空いていた。

人数分のコップを先に運んで急いで机に置き、ピッチャーで茶を入れておいて場所取りは完了した。

念の為に予め用意してきたタオルを横取りされないよう机の上に乗せると、以前より先回りして行動できるようになった自分に嬉しくなる。

今日は絶対に人気のA定食コーヒーゼリー付きを頼むぞと意気込みながら皆が集まるのを楽しみに待っていた。

4限終わりの鐘が鳴ると同時に俺のポケットの中のスマホが動いた。


〝わりぃ授業押してる、先始めて〟


開けばグループチャットに梓蘭世からの連絡が入っていて授業中は一応スマホ禁止だよなと思いつつ、


〝分かりました〟


と一旦スルーして返信を打つが、その間にも今度は桂樹先輩から連絡が入った。


〝1年先食ってていいぞ!職員室寄ってからすぐ向かう!〟


………。

一瞬この場合俺1人先に食べ始めてもいいんだろうかと思うが、先食えって言っただろと笑う桂樹先輩の姿が想像ついた。

ここはお言葉に甘えよう。

俺はA定食の食券を買いに立ちあがった。



____________
【後書き】
いつも読んでくださりありがとうございます!
ついに70話……!
ブクマやいいねが書く励みとなっています。これからも書き続けますのでよろしくお願いします✨✨
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