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72.【友達の基準】
しおりを挟む雅臣「いや、……もういい」
楓「よくねぇよ言えや」
珍しく蓮池が俺の答えを待っているが、話をしようにも先程より頭痛が酷くなって考えが上手く纏まらない。
冷めてきたA定食を早く食べて薬を飲まなければと思うがこのタイミングで食べられる訳もなく、蓮池は軽く顎を突き出し早く言えと言わんばかりに先を促す。
俺は何を言おうとしていたんだ……?
あぁ、そうだ。蓮池の暴言についてだ。
雅臣「買い物するのは別にいいけど、お前のお母さんも大変なんだから……」
楓「あれは好きでやってるからいいんだよ」
雅臣「せっかく元気で生きてるのに……」
楓「さすが経験者、言葉の重みが違ぇわ」
鼻で笑う蓮池を見てこいつの心には何を言っても響かないのだろうかと少し苛立つ。
蓮池と向き直って真っ直ぐ見れば、切れ長の目元はあの優しい母親にそっくりだと気がついた。
着物を着た蓮池の母親を思い浮べると同時に、自分の死んだ母親の顔が頭を過ぎる。
蓮池の母親が息子の欲しがる物を何でも買い与えるのは〝好きでやっている〟ことらしい。
……それなら、俺の母親は?
俺の母親は俺の為に何をしてくれたんだ?
『まーくんは私のことが大好きね』
母さんは俺の手を握って何度も同じ言葉ばかり繰り返していた。
本当は……。
ただでさえ頭が痛いのにこれ以上余計なことを考えたくなくて、今は目の前のことだけにしようと蓮池を射るように見た。
雅臣「……何でお前はいつもそうやって揚げ足を取るんだよ」
蓮池相手にまた思ったことが自然と口をついて出る。
最近は何か話す前に一度良く考えてから話すようにしていたのに、今日は頭痛のせいかその工程を飛ばしそのままを口にしてしまう。
雅臣「……お母さんに何かあったら困るだろ?もっと大事に___」
楓「あのさ、お前いつもどこポジで話してんの?そんな上から目線で何様のつもりだよ」
突然、自分が話していることと関係の無い話になって目を瞠る。
……ど、どこポジ?
俺が上から目線、な、何様?
冷めた目で笑う蓮池に動揺した。
楓「無自覚ならタチ悪ぃわ、いつでも人を頭からつま先までジロジロ見下した目で見やがって」
雅臣「俺はそんな事……!」
___していない、とはハッキリ言い切れなかった。
蓮池は足を組んだまま背もたれに右肘を乗せて呆れたとばかりに笑った。
確かに以前の俺は無意識に誰に対してもどこか俺の方が上だと思っていて……。
楓「俺は見た目から馬鹿、夕太くんも姿相応に馬鹿そう。梓蘭世は芸能人で派手だから馬鹿そう、一条先輩は大人しいから普通、そんで3年にはビビって言わない」
蓮池が一息に言ったこと全てがどれも俺が1回は思ったことで、内心を見透かされていたことにひどく狼狽える。
しかもその事実を公衆の面前で晒されたことに羞恥に沸き立った。
楓「目つきで分かるんだよ、バレてないと思ったか?残念だったな陰キャくん」
雅臣「今はもうそんなことしてない!」
誤解されたくなくて強くそう言うが、蓮池は更に語気鋭く話を続ける。
楓「16年ものの見下し癖がそう簡単には治る訳ないだろ?それに俺にはまだお前が人を見下してるように見えるよ」
雅臣「どこがそう見えるんだよ!!」
酷い言い草だと立ち上がり反論する俺を周りの奴らが一体何事だと様子を伺ってる。
でも、それも今はどうでもいい。
いい加減ハッキリ理由を聞かせろと蓮池の答えを待つ。
いつだって俺を鼻で笑って馬鹿にするお前には何か理由があるのだろうけど、俺にはその明確な理由が分からない。
俺を嫌う理由が見つからない。
___ふと、買い出しの時にこいつに悟ったことをにわかに思い出す。
……俺が何か言おうが言うまいが蓮池の態度が変わらないのなら、今この瞬間何でも聞いてしまえばいいんじゃないのか?
今更こいつにどう思われようと構わないし、既に嫌われているんだから怖いものなど何もないと開き直れば、
雅臣「……お前さ、何で俺にそんな突っかかってくるんだよ」
今まで蓮池に聞きたかったことの1つが自然と聞けた。
楓「はぁ?俺からお前に話しかけたこともなければ突っかかったこともない、お前がいつだって低俗とは関わりたくないって目で見てんだろうが」
しかし蓮池から望むような答えは返ってこなかった。
……今までの散々な態度や言葉、あれを突っかかっていると言わずして何と言えばいいのか?
もしかして単純にこいつの口が悪いだけなんだろうかと蓮池の答えを何とか纏めようとしていると、
楓「ていうかさ、お前の唯一の友達がいないのに今日は随分威勢がいいね」
普段と違い自分と話そうとする俺を怪しく思うのか、蓮池は胡散臭そうな目でこっちを見てる。
友達、とは柊のことを言っているのだろう。
だが唯一の友達という言葉が俺の胸に引っかかる。
雅臣「柊は、友達………、じゃない」
俺は柊を友達だと思いたいが、正直友達と言い切れる自信が無くてそのままを口にしてしまった。
クラスメイトは友達ではないと気がついてから、俺の中の友達の基準は大きく変わった。
俺が勝手に友達だと思っていても相手はそう思ってないかもしれないし、柊とだって話すようにはなったけど友達かと言われると………まだ違うと思う。
互いの知らない部分がまだ沢山ある気がして、そんな簡単に友達だなんて言い切れなかった。
楓「友達じゃないって……」
一瞬俺の言葉に呆然とする蓮池を見て、慌てて訂正しようとするも遅かった。
楓「お前4月から夕太くんしか話しかけてくれない状況でよくそんな風に言えるよな」
雅臣「……ち、違う!俺が言いたいのはまだそんな関係性じゃないってことで……」
軽蔑の眼差しを浴びながらこれこそ頭でよく考えてから話すべきだったと後悔するがそれももう遅く、蓮池は臨戦態勢に入ったのか更に吊り上がった目でしどろもどろの俺を捕らえにかかる。
楓「夕太くんはお前の理想の友達じゃないって言いたいわけ?」
ま、待ってくれ。
そんなことは一言も言ってないだろ。
雅臣「そうじゃ__」
楓「じゃあお前の友達の基準って何?」
友達の基準、……それはさっき考えたことだ。
雅臣「それは___」
楓「傍から見て俺と夕太くんは友達、梓先輩と一条先輩も友達」
俺が口を開くと同時に蓮池が被せて話し始めるので伝えるタイミングを見出せない。
雅臣「ま、待て」
楓「じゃあお前の隣に立つべき推敲な友達って誰なわけ?」
待ってくれ。
楓「早く言ってみ___」
雅臣「待て!!待てって!!本当によく回る口だな!!」
矢継ぎ早に畳み掛ける蓮池にようやく言えたのがこれだけだなんてと思うが、両手をかざした甲斐があったのかその口が止まった。
しかしこんな小さな抵抗が長く持つわけもなく、蓮池は直ぐにまた口撃にかかる。
楓「何とろくさいこと___」
雅臣「皆が皆お前のスピードで話せるわけじゃない!俺も言いたいことがあるんだから少しくらい待てよ!!」
すぐに言い返されると思ってなかったのか、蓮池は目を瞬き言葉が止んだ。
いつも俺が話そうとする隙を一切与えない蓮池に今までどうしたものかと考えあぐねていたが、1回1回無理やりにでも止めれば良かったんだとようやく気がついた。
楓「じゃあ3秒待ってやるから言えよ、3.2_」
かといって言われた通りに待つ気なんて微塵もない蓮池は即座にカウントし始めるから冷や汗が止まらない。
こいつ相手に考えている暇なんてない、拙くても伝わらなくても、その都度言葉を捻り出すしかないと息を吸う。
雅臣「俺は今、柊と友達になろうと努力してるんだよ!!」
思わず食堂中に響く大声を出してしまった。
賑やかだった食堂がシンと静まり注目が集まるのが分かる。
でも、それもどうでもいいと思うくらいに俺はやっと本当の気持ちが言えて清々しかった。
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