山王学園シリーズ〜カサブランカの君へ〜

七海セレナ

文字の大きさ
88 / 394

78.【本質】

しおりを挟む


しばらくの沈黙を破ったのは桂樹先輩だった。


桂樹「お前さ、雅臣をバカにすんなよ」


桂樹先輩が蓮池の肩に手を置いてキツく言い放つ。


楓「は?」

桂樹「さっきから無理やり雅臣にこんな話全部言わせて……どういうつもりだよ」


どこから聞いていたのか分からないが、桂樹先輩は俺が無理やり家庭の事情を言わされたと勘違いしているのだろう。

俺を背に庇うようにして立つ桂樹先輩に慌てて誤解を解こうと一歩踏み出した瞬間、頭に鋭い痛みが走って体勢を崩す。


楓「バカにしてんのはてめぇだろ?」

桂樹「はぁ!?」


何とか耐えるが、その1歩を出遅れたせいで着火した蓮池を止めることができなかった。

1年にそんな口をきかれるとは思ってもみなかったのか、桂樹先輩は怒気を隠さず形相が一変した。

恐ろしいほどの圧を感じてビビる俺と違って、不敵な笑みを浮かべる蓮池は桂樹先輩を上から下までゆっくりと嫌らしい目つきで見る。

今まで蓮池に同じことを何回もされたが、自分以外にやってるところはさすがに見たことがなくて驚く。

それはそれでいいんだか悪いんだかと思うが、傍から見ると非常に人を馬鹿にしたよくない行為で、3年生相手に怖いもの知らずがすぎるだろう。


楓「学年29位現国96点の桂樹さん。こんな話って何だよ?こんなってどこの部分の話?人の事情をこんなって言うなよ」


そう言われると桂樹先輩は気まずそうな顔をして答えに窮した。


……もしかして、こいつ俺の事を庇っているのか?


とてもじゃないが普段の蓮池からは考えられない行動に唖然とする。

それと同時に、よくそこまで細かいところに気がつくなと改めて蓮池は揚げ足取りの天才だと思った。

〝こんな話〟って俺の話を軽視しているように聞こえたのだろうか。

いや、桂樹先輩の言い方なんて大したことでもないぞ。

何ならお前、今までもっと俺に散々酷い返し方をしてきただろうとつい恨みがましく見てしまう。

それなのにそんな相手に庇われたことが嬉しい自分もどうかしてると2人を眺めた。


桂樹「それは言葉のあやで__」

楓「あや?よく言うよ。それがアンタの本質だろうが。普段から思ってないと咄嗟に出ないんだよ」


俺を言いくるめる時よりも早口で蓮池は桂樹先輩に話す隙を与えなかった。


楓「大体部活だってあっちもこっちもいい顔して何なの?三木先輩のいない大会は大丈夫なの?」


一瞬で標的を俺から桂樹先輩に変えたことが分かる。

蓮池の強気の発言とその態度に、後ろでガタリと勇んで椅子から立ち上がる音が聞こえた。

桂樹先輩のそばに来たのは合唱部の奴だろう。


「おい、1年お前あんま調子乗んなよ」


蓮池に近づき胸ぐらを掴もうとするその手を桂樹先輩が止めた。


桂樹「やめとけ中田。いいって」

「……でも!!」


中田と呼ばれる人は桂樹先輩を軽く見られて腹が立って仕方がないのだろう。

蓮池を睨み続けるその人を桂樹先輩は宥め、あっちに行ってろと手で示す。


桂樹「……なあ、お前何が言いたいんだよ」


後輩の手は止めたものの激しい憤りが見て取れるが、その様子を蓮池はまた鼻で笑うと、


楓「アンタほんとは三木先輩のこと嫌いなんじゃないの?」


真っ直ぐに桂樹先輩の目を見てストレートに言い放った。

あまりにも自信のある核心を突いたかのような言い方に、一瞬本当にそうなのかと疑ってしまう。


桂樹「はあ!?俺と三木は友達で___」


楓「三木先輩はそう思ってるだろうけどアンタはそう思ってないだろ。何?俺らのサークルに入ったのも三木先輩引き戻すためとか?」


桂樹先輩を見ればそんなことあるかと憤慨した様子で、俺は急いで斜に構える蓮池を止めようと口を挟む。


雅臣「蓮池違うぞ!桂樹先輩は…その、断れなかった俺を見兼ねて、……一緒に名前を貸してくれただけだ」


蓮池は俺を見るといつもみたいに馬鹿にしたり茶化したりせず、俺がつっかえようが言葉を被せることなく最後まで話を聞いた。


楓「……お前の方がこいつらよりよっぽどマシだわ」


蓮池の言葉に目を見張る。


楓「俺には分かんないね。昨日までお前らの部長で、アンタのその大切な友達が突然合唱部辞める理由って何?」



…………は、はは、蓮池が。


あの蓮池が俺の方がマシと言ったか?


蓮池の標的は確実に俺から桂樹先輩と合唱部に移っていて、止めないといけないのは分かってはいるが聞き間違いかと耳を疑う。


お、俺の方がいいだなんて一体何事だ!?


恐ろしいほど好き嫌いがハッキリしていて用意周到で抜かりがない、その蓮池が皆の前でマシだといった。

明日槍でも降るのかと有り得ない出来事に凝視して固まってしまう。

同じ嫌いなら桂樹さんより俺の方がまだマシってレベルだとは思うが、それを口にしたことがまず信じ難い。

あんぐりと1人驚く俺とは違い、蓮池の言葉に何故か桂樹先輩も合唱部の奴も何も言い返さない。


楓「責任感強い三木先輩とずっと一緒にやってきたんだよな?簡単に投げ出すような人じゃないってわかるだろ?


その言葉を聞いた三木先輩は腕を組んだまま何も言わずに見つめているだけだった。



楓「……なぁ、何で辞めたかよく考えろよ」



………蓮池は先輩たちが合唱部を辞めた明確な理由が分かるのか?

蓮池のその言葉に、何故か桂樹先輩と合唱部の奴らが追い詰められてるように見えた瞬間、目が霞んで足がもつれた。

足元が回ってる気がして耐えられない。


楓「何が理由で誰のせいなんだよ。自分達になんか理由があると1回も思わなかったのか?答えろ__」


桂樹「お、おい!!」


俺の記憶はそこでプツンと途切れた。


しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

幼馴染み

BL
高校生の真琴は、隣に住む幼馴染の龍之介が好き。かっこよくて品行方正な人気者の龍之介が、かわいいと噂の井野さんから告白されたと聞いて……。 高校生同士の瑞々しくて甘酸っぱい恋模様。

【完結・BL】春樹の隣は、この先もずっと俺が良い【幼馴染】

彩華
BL
俺の名前は綾瀬葵。 高校デビューをすることもなく入学したと思えば、あっという間に高校最後の年になった。周囲にはカップル成立していく中、俺は変わらず彼女はいない。いわく、DTのまま。それにも理由がある。俺は、幼馴染の春樹が好きだから。だが同性相手に「好きだ」なんて言えるはずもなく、かといって気持ちを諦めることも出来ずにダラダラと片思いを続けること早数年なわけで……。 (これが最後のチャンスかもしれない) 流石に高校最後の年。進路によっては、もう春樹と一緒にいられる時間が少ないと思うと焦りが出る。だが、かといって長年幼馴染という一番近い距離でいた関係を壊したいかと問われれば、それは……と踏み込めない俺もいるわけで。 (できれば、春樹に彼女が出来ませんように) そんなことを、ずっと思ってしまう俺だが……────。 ********* 久しぶりに始めてみました お気軽にコメント頂けると嬉しいです ■表紙お借りしました

【完結】I adore you

ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。 そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。 ※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】

彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』 高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。 その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。 そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

こっそりバウムクーヘンエンド小説を投稿したら相手に見つかって押し倒されてた件

神崎 ルナ
BL
バウムクーヘンエンド――片想いの相手の結婚式に招待されて引き出物のバウムクーヘンを手に失恋に浸るという、所謂アンハッピーエンド。 僕の幼なじみは天然が入ったぽんやりしたタイプでずっと目が離せなかった。 だけどその笑顔を見ていると自然と僕も口角が上がり。 子供の頃に勢いに任せて『光くん、好きっ!!』と言ってしまったのは黒歴史だが、そのすぐ後に白詰草の指輪を持って来て『うん、およめさんになってね』と来たのは反則だろう。   ぽやぽやした光のことだから、きっとよく意味が分かってなかったに違いない。 指輪も、僕の左手の中指に収めていたし。 あれから10年近く。 ずっと仲が良い幼なじみの範疇に留まる僕たちの関係は決して崩してはならない。 だけど想いを隠すのは苦しくて――。 こっそりとある小説サイトに想いを吐露してそれで何とか未練を断ち切ろうと思った。 なのにどうして――。 『ねぇ、この小説って海斗が書いたんだよね?』 えっ!?どうしてバレたっ!?というより何故この僕が押し倒されてるんだっ!?(※注 一月十日のアルファポリス規約改定を受け、サブ垢にて公開済みの『バウムクーヘンエンド』をこちらへ移しましたm(__)m サブ垢の『バウムクーヘンエンド』はこちらへ移動が出来次第、非公開となりますm(__)m)

嘘をついたのは……

hamapito
BL
――これから俺は、人生最大の嘘をつく。 幼馴染の浩輔に彼女ができたと知り、ショックを受ける悠太。 それでも想いを隠したまま、幼馴染として接する。 そんな悠太に浩輔はある「お願い」を言ってきて……。 誰がどんな嘘をついているのか。 嘘の先にあるものとはーー?

【完結】後悔は再会の果てへ

関鷹親
BL
日々仕事で疲労困憊の松沢月人は、通勤中に倒れてしまう。 その時に助けてくれたのは、自らが縁を切ったはずの青柳晃成だった。 数年ぶりの再会に戸惑いながらも、変わらず接してくれる晃成に強く惹かれてしまう。 小さい頃から育ててきた独占欲は、縁を切ったくらいではなくなりはしない。 そうして再び始まった交流の中で、二人は一つの答えに辿り着く。 末っ子気質の甘ん坊大型犬×しっかり者の男前

陰キャな俺、人気者の幼馴染に溺愛されてます。

陽七 葵
BL
 主人公である佐倉 晴翔(さくら はると)は、顔がコンプレックスで、何をやらせてもダメダメな高校二年生。前髪で顔を隠し、目立たず平穏な高校ライフを望んでいる。  しかし、そんな晴翔の平穏な生活を脅かすのはこの男。幼馴染の葉山 蓮(はやま れん)。  蓮は、イケメンな上に人当たりも良く、勉強、スポーツ何でも出来る学校一の人気者。蓮と一緒にいれば、自ずと目立つ。  だから、晴翔は学校では極力蓮に近付きたくないのだが、避けているはずの蓮が晴翔にベッタリ構ってくる。  そして、ひょんなことから『恋人のフリ』を始める二人。  そこから物語は始まるのだが——。  実はこの二人、最初から両想いだったのにそれを拗らせまくり。蓮に新たな恋敵も現れ、蓮の執着心は過剰なモノへと変わっていく。  素直になれない主人公と人気者な幼馴染の恋の物語。どうぞお楽しみ下さい♪

処理中です...