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1年生の放課後1
しおりを挟む夕太「友情かぁ……何かない?でんちゃん」
楓「ないね。大体歌詞は作曲の後じゃないの?」
夕太「え、そうなん?」
つれない態度を見せる蓮池に、柊が机にうつ伏せになって唸っている。
終礼後の教室で俺達3人は知恵を振り絞っている最中だが初手から何も出てこない。
〝友情〟がテーマの1年の作詞が既に難航していて先行きも暗く、どうしたもんかと頬杖をつきながら眺める。
今日は三木先輩が梓蘭世と共に用事があるそうで、昼休み過去問を渡しがてら直々に休むと1年の教室まで来てくれた。
その後一条先輩も急用ができたとチャットが入ったので、先輩達が来ないなら勉強会は明日にしようと今日の活動はなしになったのだ。
それなら今すぐ期末テストの勉強に取り掛かった方がいい気がするが、見ての通り学年毎のテーマの作詞について考えている最中だ。
帰る前に少しだけ作詞しようという柊の提案に乗ったものの、今までぼっちで今尚この2人が友達と思ってくれてるかどうかも怪しい俺に〝友情〟のテーマはハードルが高すぎる。
柊には申し訳ないがすぐに脱落して、期末は中間テストよりも順位を上げて気分良く夏休みを迎えたいなと全く違うことを思い浮かべていた。
実は昨日桂樹先輩から唐突に連絡があり、ライオンのスタンプと共に送られてきた内容は〝Not Bad〟のライブのチケットが2枚あるから夏休みに一緒に行かないかというものだった。
行きます!とすぐに返信をするくらい嬉しくて、多忙を極める桂樹先輩が俺を気にかけてくれるなんてと感激してしまった。
ライブの日程が8月の半ばだから合唱部の大会後にまた連絡すると返事を貰い、合宿とともにより夏休みが楽しみになっていた。
夕太「なー、雅臣も何かないの?」
雅臣「……とりあえず今すぐ出ないならどんな曲調にするかだけ決めとけばいいんじゃないか?」
俺が上の空なことに気がついた柊が意識を戻すように腕をつつくが何も思いつかない。
このままでは埒が明かないと新たな提案してみるが2人は天を仰いでしまった。
楓「曲調っていってもテーマが友情なら…まあしみったれた曲にはならないよね」
夕太「明るい感じ?……被ってもなんだから先輩達がどんな感じにするか聞いてからの方がいい?」
確かにその通りで、先輩達がどんな感じの曲にしたいのか意見を聞いてから作った方が色んなタイプにバラけていい気がする。
いくら柊がピアノが出来るとはいえ打ち合わせ無しでは似たようなものになってしまう可能性もあるよな。
__となるとますます考えるだけ無駄だな、と3人同時に立ち上がり、
夕太「諦めるかぁ………帰ろ!」
結局お開きになって揃って教室から出た。
下駄箱で靴を履き替えて歩くと、校門までの道のりは7月の日差しを遮るものが何もない。
15時を過ぎても暑さは薄れず、最初は物珍しかったが日除けに大きい日傘をさす蓮池の姿にももう慣れた。
柊曰く、「でんちゃんは丸焦げになるタイプのイエベ」らしい。
その何べとやらはわからないが、この名古屋の猛暑で日傘をさす選択は熱中症のリスクを考えれば男なのにと馬鹿にできないものだった。
自宅まで5分もかからないとはいえ、うだるような暑さに汗が流れて止まらない。
夕太「夏休みさ、プールと合宿以外にもどっか行きたくない?」
俺達の先頭を歩きながらそう尋ねる柊を見て、ふとその更に前を歩く生徒の後ろ姿が気になった。
真夏だというのにあの異様な首元の肌の白さは一条先輩じゃないのか?
見覚えのある後ろ姿は間違いないと、一条先輩が校門を通るのを凝視する俺に同じく2人も気づいたようだ。
声を掛けようしたが、一条先輩が鞄からパーカーを取り出し羽織るのを見て立ち止まる。
……何でこんなに暑いのに、わざわざパーカーなんか着るんだ?
黒のオーバーサイズのパーカーは日除けと言うにはかなり厚手で、しかも一条先輩が着るイメージのものではなく違和感を感じる。
一条先輩はそのまま覚王山駅までの1本道をスタスタ歩いて行くが気になったのは俺だけではないようだ。
夕太「……梅ちゃん先輩どっか行くのかな」
楓「わざわざBALENTIAGAの新作着て?」
雅臣「え!?」
蓮池じゃあるまいし一条先輩がブランド好きだなんて聞いたことないぞと見つめてしまう。
わざわざ制服の上からパーカーを着るということはバレないように寄り道しますと言ってるようなもので、そんなのを着て一体何処へと眺めると、
楓「___あれは間違いなく女だね」
雅臣「お、女!?彼女ってことか?」
蓮池の自信満々の言い方につい声を上げてしまった。
楓「そりゃそうだろ、わざわざ新作のパーカー着るなんてこの後どっかで待ち合わせなんだよ」
良いとこ見せたいんだなとドヤ顔の蓮池に、一条先輩に彼女がいるなんて知らなかったと遠のく背中を目で追ってしまう。
夕太「でんちゃんほんとそういうの好きだよな…」
楓「俺は数々のゴシップを見てきたからね、間違いないよ」
蓮池のかなり自信ありげな様子を柊は疑っているが、かなり信憑性が高い気がする。
まず圧倒的に華道を嗜むのは女性が多いだろうし、自分の所の生徒が集まれば様々な噂話を耳にする機会も多いだろう。
俺と違って女性と接することに慣れた蓮池にとってこんな予測は容易いことなのかもしれない。
夕太「___まぁでも、彼女ならどんな彼女か見たいよね」
雅臣「いや……まぁそれは……」
柊は大きな目を輝かせ口元がニヤニヤしているが、俺も気にならないと言ったら嘘になる。
楓「後付けるよ」
そう言う蓮池の口角も恐ろしいほど上がっていて、いつもなら後を付けるなんてと窘めるも今日ばかりは俺も好奇心が上回った。
俺達は一条先輩が気がついていないのをいい事に、急いで1本道を登ってこっそり後を付けることにした。
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