山王学園シリーズ〜カサブランカの君へ〜

七海セレナ

文字の大きさ
112 / 394

1年生の放課後1

しおりを挟む


夕太「友情かぁ……何かない?でんちゃん」

楓「ないね。大体歌詞は作曲の後じゃないの?」

夕太「え、そうなん?」


つれない態度を見せる蓮池に、柊が机にうつ伏せになって唸っている。

終礼後の教室で俺達3人は知恵を振り絞っている最中だが初手から何も出てこない。

〝友情〟がテーマの1年の作詞が既に難航していて先行きも暗く、どうしたもんかと頬杖をつきながら眺める。

今日は三木先輩が梓蘭世と共に用事があるそうで、昼休み過去問を渡しがてら直々に休むと1年の教室まで来てくれた。

その後一条先輩も急用ができたとチャットが入ったので、先輩達が来ないなら勉強会は明日にしようと今日の活動はなしになったのだ。

それなら今すぐ期末テストの勉強に取り掛かった方がいい気がするが、見ての通り学年毎のテーマの作詞について考えている最中だ。

帰る前に少しだけ作詞しようという柊の提案に乗ったものの、今までぼっちで今尚この2人が友達と思ってくれてるかどうかも怪しい俺に〝友情〟のテーマはハードルが高すぎる。

柊には申し訳ないがすぐに脱落して、期末は中間テストよりも順位を上げて気分良く夏休みを迎えたいなと全く違うことを思い浮かべていた。

実は昨日桂樹先輩から唐突に連絡があり、ライオンのスタンプと共に送られてきた内容は〝Not Bad〟のライブのチケットが2枚あるから夏休みに一緒に行かないかというものだった。

行きます!とすぐに返信をするくらい嬉しくて、多忙を極める桂樹先輩が俺を気にかけてくれるなんてと感激してしまった。

ライブの日程が8月の半ばだから合唱部の大会後にまた連絡すると返事を貰い、合宿とともにより夏休みが楽しみになっていた。


夕太「なー、雅臣も何かないの?」

雅臣「……とりあえず今すぐ出ないならどんな曲調にするかだけ決めとけばいいんじゃないか?」


俺が上の空なことに気がついた柊が意識を戻すように腕をつつくが何も思いつかない。

このままでは埒が明かないと新たな提案してみるが2人は天を仰いでしまった。


楓「曲調っていってもテーマが友情なら…まあしみったれた曲にはならないよね」

夕太「明るい感じ?……被ってもなんだから先輩達がどんな感じにするか聞いてからの方がいい?」


確かにその通りで、先輩達がどんな感じの曲にしたいのか意見を聞いてから作った方が色んなタイプにバラけていい気がする。

いくら柊がピアノが出来るとはいえ打ち合わせ無しでは似たようなものになってしまう可能性もあるよな。

__となるとますます考えるだけ無駄だな、と3人同時に立ち上がり、


夕太「諦めるかぁ………帰ろ!」


結局お開きになって揃って教室から出た。

下駄箱で靴を履き替えて歩くと、校門までの道のりは7月の日差しを遮るものが何もない。

15時を過ぎても暑さは薄れず、最初は物珍しかったが日除けに大きい日傘をさす蓮池の姿にももう慣れた。

柊曰く、「でんちゃんは丸焦げになるタイプのイエベ」らしい。

その何べとやらはわからないが、この名古屋の猛暑で日傘をさす選択は熱中症のリスクを考えれば男なのにと馬鹿にできないものだった。

自宅まで5分もかからないとはいえ、うだるような暑さに汗が流れて止まらない。


夕太「夏休みさ、プールと合宿以外にもどっか行きたくない?」


俺達の先頭を歩きながらそう尋ねる柊を見て、ふとその更に前を歩く生徒の後ろ姿が気になった。

真夏だというのにあの異様な首元の肌の白さは一条先輩じゃないのか?

見覚えのある後ろ姿は間違いないと、一条先輩が校門を通るのを凝視する俺に同じく2人も気づいたようだ。

声を掛けようしたが、一条先輩が鞄からパーカーを取り出し羽織るのを見て立ち止まる。


……何でこんなに暑いのに、わざわざパーカーなんか着るんだ?
 

黒のオーバーサイズのパーカーは日除けと言うにはかなり厚手で、しかも一条先輩が着るイメージのものではなく違和感を感じる。

一条先輩はそのまま覚王山駅までの1本道をスタスタ歩いて行くが気になったのは俺だけではないようだ。


夕太「……梅ちゃん先輩どっか行くのかな」

楓「わざわざBALENTIAGAの新作着て?」

雅臣「え!?」


蓮池じゃあるまいし一条先輩がブランド好きだなんて聞いたことないぞと見つめてしまう。

わざわざ制服の上からパーカーを着るということはバレないように寄り道しますと言ってるようなもので、そんなのを着て一体何処へと眺めると、


楓「___あれは間違いなく女だね」

雅臣「お、女!?彼女ってことか?」


蓮池の自信満々の言い方につい声を上げてしまった。


楓「そりゃそうだろ、わざわざ新作のパーカー着るなんてこの後どっかで待ち合わせなんだよ」


良いとこ見せたいんだなとドヤ顔の蓮池に、一条先輩に彼女がいるなんて知らなかったと遠のく背中を目で追ってしまう。


夕太「でんちゃんほんとそういうの好きだよな…」

楓「俺は数々のゴシップを見てきたからね、間違いないよ」


蓮池のかなり自信ありげな様子を柊は疑っているが、かなり信憑性が高い気がする。

まず圧倒的に華道を嗜むのは女性が多いだろうし、自分の所の生徒が集まれば様々な噂話を耳にする機会も多いだろう。

俺と違って女性と接することに慣れた蓮池にとってこんな予測は容易いことなのかもしれない。


夕太「___まぁでも、彼女ならどんな彼女か見たいよね」

雅臣「いや……まぁそれは……」


柊は大きな目を輝かせ口元がニヤニヤしているが、俺も気にならないと言ったら嘘になる。


楓「後付けるよ」


そう言う蓮池の口角も恐ろしいほど上がっていて、いつもなら後を付けるなんてと窘めるも今日ばかりは俺も好奇心が上回った。

俺達は一条先輩が気がついていないのをいい事に、急いで1本道を登ってこっそり後を付けることにした。

しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

幼馴染み

BL
高校生の真琴は、隣に住む幼馴染の龍之介が好き。かっこよくて品行方正な人気者の龍之介が、かわいいと噂の井野さんから告白されたと聞いて……。 高校生同士の瑞々しくて甘酸っぱい恋模様。

【完結・BL】春樹の隣は、この先もずっと俺が良い【幼馴染】

彩華
BL
俺の名前は綾瀬葵。 高校デビューをすることもなく入学したと思えば、あっという間に高校最後の年になった。周囲にはカップル成立していく中、俺は変わらず彼女はいない。いわく、DTのまま。それにも理由がある。俺は、幼馴染の春樹が好きだから。だが同性相手に「好きだ」なんて言えるはずもなく、かといって気持ちを諦めることも出来ずにダラダラと片思いを続けること早数年なわけで……。 (これが最後のチャンスかもしれない) 流石に高校最後の年。進路によっては、もう春樹と一緒にいられる時間が少ないと思うと焦りが出る。だが、かといって長年幼馴染という一番近い距離でいた関係を壊したいかと問われれば、それは……と踏み込めない俺もいるわけで。 (できれば、春樹に彼女が出来ませんように) そんなことを、ずっと思ってしまう俺だが……────。 ********* 久しぶりに始めてみました お気軽にコメント頂けると嬉しいです ■表紙お借りしました

【完結】I adore you

ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。 そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。 ※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】

彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』 高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。 その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。 そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

陰キャな俺、人気者の幼馴染に溺愛されてます。

陽七 葵
BL
 主人公である佐倉 晴翔(さくら はると)は、顔がコンプレックスで、何をやらせてもダメダメな高校二年生。前髪で顔を隠し、目立たず平穏な高校ライフを望んでいる。  しかし、そんな晴翔の平穏な生活を脅かすのはこの男。幼馴染の葉山 蓮(はやま れん)。  蓮は、イケメンな上に人当たりも良く、勉強、スポーツ何でも出来る学校一の人気者。蓮と一緒にいれば、自ずと目立つ。  だから、晴翔は学校では極力蓮に近付きたくないのだが、避けているはずの蓮が晴翔にベッタリ構ってくる。  そして、ひょんなことから『恋人のフリ』を始める二人。  そこから物語は始まるのだが——。  実はこの二人、最初から両想いだったのにそれを拗らせまくり。蓮に新たな恋敵も現れ、蓮の執着心は過剰なモノへと変わっていく。  素直になれない主人公と人気者な幼馴染の恋の物語。どうぞお楽しみ下さい♪

嘘をついたのは……

hamapito
BL
――これから俺は、人生最大の嘘をつく。 幼馴染の浩輔に彼女ができたと知り、ショックを受ける悠太。 それでも想いを隠したまま、幼馴染として接する。 そんな悠太に浩輔はある「お願い」を言ってきて……。 誰がどんな嘘をついているのか。 嘘の先にあるものとはーー?

こっそりバウムクーヘンエンド小説を投稿したら相手に見つかって押し倒されてた件

神崎 ルナ
BL
バウムクーヘンエンド――片想いの相手の結婚式に招待されて引き出物のバウムクーヘンを手に失恋に浸るという、所謂アンハッピーエンド。 僕の幼なじみは天然が入ったぽんやりしたタイプでずっと目が離せなかった。 だけどその笑顔を見ていると自然と僕も口角が上がり。 子供の頃に勢いに任せて『光くん、好きっ!!』と言ってしまったのは黒歴史だが、そのすぐ後に白詰草の指輪を持って来て『うん、およめさんになってね』と来たのは反則だろう。   ぽやぽやした光のことだから、きっとよく意味が分かってなかったに違いない。 指輪も、僕の左手の中指に収めていたし。 あれから10年近く。 ずっと仲が良い幼なじみの範疇に留まる僕たちの関係は決して崩してはならない。 だけど想いを隠すのは苦しくて――。 こっそりとある小説サイトに想いを吐露してそれで何とか未練を断ち切ろうと思った。 なのにどうして――。 『ねぇ、この小説って海斗が書いたんだよね?』 えっ!?どうしてバレたっ!?というより何故この僕が押し倒されてるんだっ!?(※注 一月十日のアルファポリス規約改定を受け、サブ垢にて公開済みの『バウムクーヘンエンド』をこちらへ移しましたm(__)m サブ垢の『バウムクーヘンエンド』はこちらへ移動が出来次第、非公開となりますm(__)m)

【完結】後悔は再会の果てへ

関鷹親
BL
日々仕事で疲労困憊の松沢月人は、通勤中に倒れてしまう。 その時に助けてくれたのは、自らが縁を切ったはずの青柳晃成だった。 数年ぶりの再会に戸惑いながらも、変わらず接してくれる晃成に強く惹かれてしまう。 小さい頃から育ててきた独占欲は、縁を切ったくらいではなくなりはしない。 そうして再び始まった交流の中で、二人は一つの答えに辿り着く。 末っ子気質の甘ん坊大型犬×しっかり者の男前

処理中です...