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105.【アフタヌーンティー】
しおりを挟む………完全に場違いだろ。
ホテルならではの煌びやかなアフタヌーンティーを楽しむ空間に俺達男子高校生3人があまりにもアウェーすぎる。
名観ホテルのラウンジシャルダンは開放的な大きな窓が特徴的で、程よく夏の日差しが差し込んでいるが突然行ったこともあり入口近くの席を案内された。
今度は俺と柊が隣同士に、向かいに蓮池が座るが、制服でしかも男だけで来てるのが余程珍しいのか周りの女性から痛いくらい視線を感じる。
しかし2人はものともせず早速アフタヌーンティーを人数分注文しているが、どうしたらそんな鋼のメンタルになれるのか。
味噌煮込みと米2杯を平らげた俺の腹は既にはち切れそうで、もし全部食べきれなければ絶対蓮池に食べさせようと心に誓う。
……それにしても蓮池の胃は底なしだな。
味噌煮込みを2つに米3杯、そして今からアフタヌーンティーを余裕で食べれるなんて……こいつまだ身長伸びるだろ。
対面に座る蓮池を眺めるついでにアフタヌーンティーのサイズ感はどれくらいなんだろうと辺りを見渡す。
音符をモチーフにした3段のケーキスタンドに皿がセットされていて、その上にケーキやゼリーなどが色とりどりのスイーツが綺麗に盛り付けられている。
パッと見結構な量があるが、これは本当に女子が好きそうな世界だな……。
夕太「雅臣、あれ今度姉ちゃんとこでもやりたいらしくてさ」
圧倒されていると柊が運ばれていくケーキスタンドを指差しながら教えてくれる。
雅臣「あぁ、お姉さんパティシエだったよな?」
夕太「そう!そこでゆくゆくはカフェもやりたいんだって、だから写真撮ってこいってうるさくてさー」
なるほど、そこでアフタヌーンティーをやるための参考にしたいのか。
ぼんやりとラウンジの光景を眺めながら改めていくらするのかメニュー表の値段を見るとかなりの金額で驚く。
3千円くらいだと思っていたが実際は6千円近くて、親金の蓮池は支払いなんて余裕だろうけど柊は大丈夫なのだろうか?
人の懐具合を心配するのは余計なことだと学んだが、高校生の1回の食事だけで約1万円も出せるのかと俺も金銭感覚がおかしくなる。
楓「てか夕太くん、アフタヌーンティー用の軍資金貰ってきたの?」
夕太「もち!この前貰ったのとー、あと2番目の姉ちゃんから5万貰った!」
___ご、5万!?
お小遣いですぐに5万円が貰えるのか!?
隣に座る柊の顔色を伺うが、平然としていて気にした様子がまるでない。
…………いやしかし、柊が末っ子でお姉さん達から可愛がられてるのかもしれないよな。
俺は一人っ子だから分からないが、そういうものだと思いたい金額だった。
夕太「雅臣こそ大丈夫なの?父ちゃん冬しか漁に出れないだろ?」
漁?
一体何の話……。
______!?
雅臣「カニ漁じゃない!!俺の父さんは建築士だし、大丈夫だ」
夕太「え、そうなの?」
蓮池が流したあのろくでもない嘘をまだ信じていたのか!?
柊も気づけよ、それに蓮池もいい加減ネタばらししろと呆れてしまう。
楓「どっかのお抱え建築士にしちゃえらい羽振りがいいな…お前んとこのあのソファ、お仲間に譲ってもらったのか?」
胡散臭いなと蓮池はじっと見つめてくるが言葉の意図が分からずに首を傾げた。
雅臣「あれは親父が好きで買ってて……」
楓「200万越えんのに?テレビにデスクに飾り棚……ざっと見てリビングだけで1000万以上かかってんのに自分は住まねぇってやっぱおかしいわ」
1回来ただけで家具や内装まである程度価格が分かる目敏さに目を丸くするが、東京のマンションにあれより上のものがもっとあるだなんてとても言えなかった。
バレたら何を言われるか………。
ここでまたこいつに詰められたら前と同じで勢いに負け色々と白状してしまう未来が見える。
顔を引き攣らせる俺を見て柊はなるほど、と手を打った。
夕太「あー……、雅臣って無自覚ナチュラルボンボンなんだ。じゃあ大丈夫だね」
〝無自覚ナチュラルボンボン〟なんて聞いたことのない単語は多分柊の造語なのだろうけど、響きからあまり良い感じはしない。
暗にディスられてる気もするが、
夕太「__となると、俺の家のが1番まともだな!お小遣い制でいつでもキャッシュ払い!」
エッヘンと隣で胸を張る柊に、お前がそれを言うかと苛立たしさが全身に広がった。
雅臣「まともなわけないだろ!5万円が1回で貰える小遣いなんて__」
楓「てめぇのその50万の革の鞄とクレカ使い放題に比べりゃ5万なんて可愛いもんだろ。特大ブーメランだから噛み付かない方がいいぜ」
……こ、こいつ!?
蓮池に煽られ猛烈に腹が立つが、こんな感覚は久しぶりだ。
最近割と穏やかに過ごしていたせいで忘れていたが、やっぱり蓮池は蓮池だとカチンときた。
雅臣「お前にだけは言われたかない!!外商呼んで好き勝手買い漁るお前だけにはな!!」
楓「『陰キャでコミュ障だった俺は無自覚ナチュラルボンボン!?名古屋の田舎で必死に友達を作り生まれ変わるためのゆっくりスローライフ』みたいなクソイキリ陰キャのお前なんかに何言われても痛くも痒くもねぇよ喚いてな」
雅臣 「な、何言ってんだ!?何語だよそれ!ていうかお前は毎回何なんだよ!突然早口で意味不明なこと言うな!!」
勢いに飲まれてつい言い争いになるが、聞いたこともない単語の羅列に既に頭がパンクしそうだ。
言い返せるようになっただけ成長したとは思うが、突飛な蓮池の返しには相変わらず歯が立たなくて悔しい。
楓「最近大人しくしてんなぁと思ってたけど長年の見下し癖は直らんね」
雅臣「あのなぁ……!?前から1回言おうと思ってたけどお前の方がよっぽど見下してるだろ!」
楓「お前だけだよバカ気づけ」
雅臣「その態度がいつか蓮池流の仇となるからな!」
楓「おーおーコスプレ時代劇は健在ってか?なんだその古臭い言い方」
しかしこのしょうもない言い争いを止めたのはいかにも支配人といった感じの初老の男性店員だった。
ワザと雑にドン!と目の前にケーキスタンドを置かれてその音に3人とも我に返る。
男性は一通りの商品の説明をした後にそれぞれのカップに丁寧に紅茶を注いでくれるが、
「どうぞお静かにお楽しみください」
口元は笑顔なのにどう見ても目が笑っていなくて、うるさくした申し訳なさに慌てて頭を下げた。
しかし蓮池がそんなことで動じるはずもなく、俺に中指を立てて舌を出し未だに煽ってくる。
どうにも負けた気がして悔しいが、周りからの視線も痛くて俺は口を噤むしかなかった。
こんなことになったのも柊が親父の職業を漁師だなんて信じるからだぞ。
今更ながら恨みがましい目で横を見ると、何故か柊は取り残された子供のような顔をして俺と蓮池を見つめていた。
……急に、どうした?
普段底なしに明るいくせに柊は時折こういったどこか寂しげな表情を見せる。
夕太「……2人ともうるさいなー、まぁ雅臣が払えるならいいよ。危うく出勤前の姉ちゃん呼んで立て替えてもらうとこだった」
しばらくしてわざとらしい程明るい声を上げたが本当に大丈夫なんだろうか?
早速アフタヌーンティーを色々な角度で何枚か撮っている柊をじっと見つめるが、いつもと同じ楽しそうな顔をしていた。
全て撮り終えた柊が俺達に食べていいよと合図を出すと、
夕太「どれからいこうかな」
本人も迷う素振りをしながらマンゴーのジュレを手にして美味しそうにスプーンで食べ始めた。
勘違いか?と俺も暖かい紅茶を口にしてようやく一息つくことが出来た。
しかし柊の何番目のお姉さんかは知らないが、こんなことで一々呼び出さなくて良かったと安堵する。
大体柊はやっぱりどこかズレてるというか、毎度おかしい事を言うよな。
例え俺の金がなくてもお前のその5万から貸せば済むことじゃないかと恨みがましく思う。
楓「お前みたいな陰湿な男が錦通うんだよ」
まだ臨戦状態の蓮池は最初に頼んだ紅茶をグイッと煽るように飲み干すと、手を挙げ店員を呼び出し同じのお代わりと一言だけ伝える。
雅臣「錦?何の話だ?」
夕太「今月もNO.1だったんだよ、うちの姉ちゃん錦の売れっ子だから!」
〝錦〟とは何かを聞いているのに何故か柊が異様に誇らしげで困惑する。
NO.1という言葉に周囲も少し怪訝そうな顔をしていて、売れっ子とは一体なんの話だ?と俺の頭はハテナだらけだ。
……一旦落ち着こう。
気を取り直して目の前のスタンドを眺めると、パッションマンゴームースにライムのタルト、トロピカルココナッツジュレとフルーツオープンサンドといった夏を感じる色合いでとても華やかだ。
夕太「なるほどね、夏だからこうパッションフルーツ系なんだ」
楓「こういうのは大体季節に沿ってるよな、春なんかどこもかしこも桜か抹茶味だろ」
豪華なアフタヌーンティーを前に自然と苛立ちが消えていく。
こんなラグジュアリーな空間でどんな話をしようか少し構えていたが、先程のくだらない会話にもうどうでもよくなった。
よく言えば2人ともいつも通りで何も変わらない、俺も普段通りでいいんだと少し肩の力が抜けた気がした。
雅臣「そういえば柊のお姉さんって……」
夕太「んぁ?」
1番上の小さなタルトを素手で取り大口を開けて放り込む柊はブンと俺の方に首を回す。
暖かい紅茶を手に取りながら、お姉さん達は何をしてるのか、いくつ離れてるのかと全く知らない柊のについて前から聞いてみたかったことを聞いてみることにした。
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