山王学園シリーズ〜カサブランカの君へ〜

七海セレナ

文字の大きさ
150 / 394

130.【一条先輩と】

しおりを挟む



______

____________



梅生「楽しかったな!!」

夕太「だね!後でもう1個乗ろうね梅ちゃん先輩!」


俺達は現在、軽快な音楽に合わせて変化に富んだ水流がパワフルに四方八方から舞い上がるサーフィンプールで泳いでいる。

一条先輩と柊は楽しそうに先程のスライダーについて楽しそうに話しているが俺と蓮池はぐったりしていた。

俺達の乗ったスライダーは〝デラアビス〟というもので、名古屋弁の強調表現がつく名前に相応しい想像を絶するスリルさだった。


『垂直な壁の高さは30m超え!!そこから専用のゴムボートに乗り激しく揺らされながら最大傾斜50度近い斜面を一気に急降下するスライダー!』


列に並んで待っている間に書いてある詳細をじっくり見ていたらいつの間にか暗記してしまったくらいだ。

階段を上る度に目眩がしそうになったが並んだ手前今更辞めるとも言えず意を決して皆と一緒にゴムボートに乗り込んだ。

……が、辞めておけばよかったと滑り出し直後に本気で思うくらい恐ろしいものだった。


楓「2度と乗らないから……」

雅臣「あんなに激しいとはな……」


思い出すだけであのふわっと浮く感覚が蘇る。

ボートはラッパのようなファンネル型の中で大きくスウィングしながら急上昇と急降下を何度も繰り返し、次第にコース奥の巨大な大穴の奈落に吸い込まれ……。

恐怖が蘇り身震いしながら俺もあれには2度と乗らないと心に誓う。

今はそのスライダーの真下にあったサーフィンプールでのんびり水に浸かっているが既に腰の高さまで水深がある。

このプールは中々深くて、そろそろ足がつかないと言う柊と一条先輩を持ってきた浮き輪にそれぞれ乗せて俺と蓮池が横に捕まらせてもらう。

3台の造波器に波立つのを楽しみながらゆらゆら揺れていると、


楓「さっきのスライダー新しく出来たやつなんだ」

夕太「そうそう!もう1個のやつは昔からあるけどあんな斜めじゃないからさ」


浮き輪を押す蓮池もそれに乗っかる柊もどちらもとても楽しそうに笑っていて、プールの効果なのか昨日の2人からはとても考えられない程自然な会話で上手くいってるように思える。

是非その調子で互いに本音が言えるようになってくれと一条先輩の入る浮き輪を押していると、プールはどんどん深くなっていき最深の1.6mの所まできていた。

俺や蓮池の首下まで水面がきてここまで深いとさすがに周りにいた人もほとんどいなくて、俺ら4人だけが楽しそうに浮いている。


夕太「あ、そうだ!写真!撮ってミルキー先輩達に送ろうよ!」


チャンスとばかりに浮き輪に乗ったまま柊は蓮池の首にかかった防水ケースからスマホを取り出すとカメラを反転させ近寄ってと手招きする。

落としたらどうするんだ……と言いたいところだが昨日から柊は写真を撮りたがっていたからな。

ヒヤヒヤしながら俺は一条先輩の浮き輪を押して一緒に写ろうとするが何故か蓮池が影に隠れて入ろうとしない。


梅生「もっと寄りな?」


一条先輩が蓮池に声をかけると渋々画角内に入り込み、柊のせーのの声で笑顔を作った瞬間、


夕太「どわー!!!!」


大量の水飛沫が舞い上がって柊のスマホに思い切りかかってしまった。

決まった時間に遊泳中の客に向けて水を放出する仕組みなのか、暑さを吹き飛ばすようなノリのいい音楽とともに突然ウォーターキャノンから大放水されてどの人もびしょ濡れになっている。


夕太「やばい!俺のスマホが…!!!あ、でも写真は撮れてる」

楓「いやそんなん言ってる場合じゃないでしょ」


柊がスッスッとスライドさせて確認してから俺達に見せてくれた写真は、俺らと背後の迫力ある水飛沫がとてもいい感じに撮れている。

皆で写真を撮るのは初めてだし、後で送って貰おう。

しかしさすがに心配になるほど柊のスマホの全面が濡れていて、


雅臣「戻って早くスマホ拭いた方がいい。壊れるぞ」

楓「……ついでに飯食おうよ」


腹が減って機嫌がいまいちになってきた蓮池の一言に賛成と俺達は波の力を借りて急いでプールサイドまで戻って行った。




_________

__________________




雅臣「結構並んでますね……」

梅生「お昼時だし仕方ないよ。柊…より蓮池の方がいいか」


一条先輩はスマホで蓮池に時間がかかると連絡を入れてくれるが、俺達が2人だけで並んでいるのは理由がある。

サーフィンプールから上がって昼飯を買うために最初4人で売店を探していたのだが、突然柊のスマホに異変が起きたのだ。

急に画面が真っ暗になり一切動かなくなったスマホを見て大騒ぎする柊を蓮池が宥めていたがマジかと半泣きだった。

蓮池はスマホをタオルで拭いてから動作を確認しようと柊に提案し、自分がパラソルの下まで付き添うから俺と一条先輩に昼飯を買ってきてくれと頼んで行ってしまった。

可哀想に柊はがっくり項垂れていて、あの時止めれば良かったと思ってももう遅い。

柊を1人にしたらスマホが使えなくなっていた場合再会出来なくなるかもしれないし、とりあえず蓮池に任せて俺達は1番近くにあった売店に並んだ。

プールサイドにある大きな時計は13時を指し、入場客もピークを迎えてどこの売店も大混雑だ。


雅臣「………」

梅生「………」


それにしてもさっきからあまりにも会話がない。

若干気まずくて何とか会話の糸口を探そうとするが、一条先輩との共通の話題なんて全く思いつかない。

最近の俺は誰とでもいい感じに話せていたつもりだが、良く考えれば柊か蓮池のどちらかがした話題に参加し色々と聞いてることの方が多い。

元来静かな者同士故に、俺と一条先輩の2人になれば必然的に静寂が生まれるのも仕方がないのか…?

心の中で焦りながら前を並ぶ人を眺めていると、


梅生「__蓮池から返信きた」

雅臣「あ、ほんとですか?」

梅生「藤城にって、ほら」


わざわざ俺宛に連絡だなんて柊に何かあったのかと一条先輩から差し出されたスマホを覗き込むと、


〝一条先輩、横にいる陰キャに伝えてください〟

〝焼きそば4 、特盛からポテ2、ラーメン3、チャーハン2、カレー2、フランクフルト10〟

〝飲み物は夕太くんのスプラウトと俺は黒烏龍茶、ご自慢のID支払いで立て替えとけ〟

〝一条先輩は持ってくるの大変だと思うので、遠慮せず全部陰キャに持たせてくださいね。お願いします〟


雅臣「……こ、こいつ……!!」


見れば柊の様子でもなんでもない、ただの俺宛の命令だった。

あの馬鹿……大体柊のスマホが壊れてるのをいい事に食べたいものを食べたいだけ送ってきやがって……!!


梅生「2回に分けてもいいけど面倒だから一気に頼むか……頑張ろうな」


ワナワナと震える俺を見て軽やかに笑って済ます一条先輩はあまりにも心が広すぎる。

このタイミングだからこそ先輩の優しさが身に染みて、この先輩にフードを持たせる訳にはいかないと謎に奮起する。

しかし蓮池の横暴すぎる注文には俺らの分が含まれてるわけもなく、メッセージで送られてきたものと俺らが食べたいものを合わせて1度で運ぶとなると腕がちぎれるんじゃないかとため息が出た。


梅生「あ、かき氷もチュロスもある」


少しずつ見えてきた看板を見てデザート類に目を輝かせどれにしようかと迷う先輩に、ふとあの芸能人の顔が思い浮かぶ。


雅臣「今日は好きな物食べていいですからね」

梅生「えっ?」


パチパチと目を何度も瞬きする一条先輩は今ひとつピンときていないようだ。

でも梓蘭世がいない今日こそは無礼講で是非好きな物を選んで欲しいという気持ちでいっぱいだった。


雅臣「いつも我慢させられてますし……」

梅生「もしかして、それ蘭世のこと?」


ようやく気がついたのか困ったように笑う一条先輩に、これではまるで俺が先輩の親友を悪く思ってるみたいではないかと少し焦る。


雅臣「わ、悪口じゃないですよ!?何と言うか…いつも先輩が甘いもの食べるとストップさせるイメージが強くて……」

梅生「大丈夫、悪口だなんて思ってないよ。でも何であんな止めがるたんだろうな」


焦りすぎて挙動不審になってる俺の背中を一条先輩は軽く叩くと不思議そうに首を傾げてみせた。

今までは俺もそれが疑問だったが、あのコメナでの1人スイーツパーティー状態を見たら身体に良くないと心配して止めたくなる気持ちも分からなくはなかった。

ただいくら一条先輩が無類の甘党とはいえ、後輩の俺でも色々心配になるレベルですとはさすがに直接言いづらい。


梅生「藤城は蓮池がめっちゃ食べてても止めないだろ?」

雅臣「いや……それはまぁ……」


あいつは割と何でもバランスよく食べる大食いで、しかも成長期ということもあって特に口出しする気も起きないのだ。

それに言ったところで盛大にキレられるだろうし、蓮池が俺の言うことを聞くはずもない。

どちらかといえば柊の方が蓮池を止める事の方が多く、それを見ると何故か食べさせてやれよという気持ちになってしまい現在に至るのだが……。

どう言えばいいのか考えあぐねていると、


梅生「そういえば藤城、蓮池と仲良くなったんだな」


後10分もすれば買えそうだと屋根に掲げられた看板を見ていた一条先輩が穏やかに告げる。

驚いて先輩の顔を見れば良かったなと暖かい眼差しを向け微笑んでいて、険悪だった俺達を気にかけてくれていたのが伝わった。






____________
【後書き】

読んでいただきありがとうございます。
お気に入り登録やいいねしていだだけて本当に嬉しいです!
いただけると書き続ける励みになるので、ぜひよろしくお願いいたします♪♪

今日で130話!✨✨
ゆっくりマイペースに書いていますが、これからも毎日更新しますので読んでくださったら嬉しいです!
夏休み編、まだまだ続きます!
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

幼馴染み

BL
高校生の真琴は、隣に住む幼馴染の龍之介が好き。かっこよくて品行方正な人気者の龍之介が、かわいいと噂の井野さんから告白されたと聞いて……。 高校生同士の瑞々しくて甘酸っぱい恋模様。

【完結・BL】春樹の隣は、この先もずっと俺が良い【幼馴染】

彩華
BL
俺の名前は綾瀬葵。 高校デビューをすることもなく入学したと思えば、あっという間に高校最後の年になった。周囲にはカップル成立していく中、俺は変わらず彼女はいない。いわく、DTのまま。それにも理由がある。俺は、幼馴染の春樹が好きだから。だが同性相手に「好きだ」なんて言えるはずもなく、かといって気持ちを諦めることも出来ずにダラダラと片思いを続けること早数年なわけで……。 (これが最後のチャンスかもしれない) 流石に高校最後の年。進路によっては、もう春樹と一緒にいられる時間が少ないと思うと焦りが出る。だが、かといって長年幼馴染という一番近い距離でいた関係を壊したいかと問われれば、それは……と踏み込めない俺もいるわけで。 (できれば、春樹に彼女が出来ませんように) そんなことを、ずっと思ってしまう俺だが……────。 ********* 久しぶりに始めてみました お気軽にコメント頂けると嬉しいです ■表紙お借りしました

【完結】I adore you

ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。 そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。 ※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】

彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』 高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。 その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。 そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

こっそりバウムクーヘンエンド小説を投稿したら相手に見つかって押し倒されてた件

神崎 ルナ
BL
バウムクーヘンエンド――片想いの相手の結婚式に招待されて引き出物のバウムクーヘンを手に失恋に浸るという、所謂アンハッピーエンド。 僕の幼なじみは天然が入ったぽんやりしたタイプでずっと目が離せなかった。 だけどその笑顔を見ていると自然と僕も口角が上がり。 子供の頃に勢いに任せて『光くん、好きっ!!』と言ってしまったのは黒歴史だが、そのすぐ後に白詰草の指輪を持って来て『うん、およめさんになってね』と来たのは反則だろう。   ぽやぽやした光のことだから、きっとよく意味が分かってなかったに違いない。 指輪も、僕の左手の中指に収めていたし。 あれから10年近く。 ずっと仲が良い幼なじみの範疇に留まる僕たちの関係は決して崩してはならない。 だけど想いを隠すのは苦しくて――。 こっそりとある小説サイトに想いを吐露してそれで何とか未練を断ち切ろうと思った。 なのにどうして――。 『ねぇ、この小説って海斗が書いたんだよね?』 えっ!?どうしてバレたっ!?というより何故この僕が押し倒されてるんだっ!?(※注 一月十日のアルファポリス規約改定を受け、サブ垢にて公開済みの『バウムクーヘンエンド』をこちらへ移しましたm(__)m サブ垢の『バウムクーヘンエンド』はこちらへ移動が出来次第、非公開となりますm(__)m)

嘘をついたのは……

hamapito
BL
――これから俺は、人生最大の嘘をつく。 幼馴染の浩輔に彼女ができたと知り、ショックを受ける悠太。 それでも想いを隠したまま、幼馴染として接する。 そんな悠太に浩輔はある「お願い」を言ってきて……。 誰がどんな嘘をついているのか。 嘘の先にあるものとはーー?

【完結】後悔は再会の果てへ

関鷹親
BL
日々仕事で疲労困憊の松沢月人は、通勤中に倒れてしまう。 その時に助けてくれたのは、自らが縁を切ったはずの青柳晃成だった。 数年ぶりの再会に戸惑いながらも、変わらず接してくれる晃成に強く惹かれてしまう。 小さい頃から育ててきた独占欲は、縁を切ったくらいではなくなりはしない。 そうして再び始まった交流の中で、二人は一つの答えに辿り着く。 末っ子気質の甘ん坊大型犬×しっかり者の男前

陰キャな俺、人気者の幼馴染に溺愛されてます。

陽七 葵
BL
 主人公である佐倉 晴翔(さくら はると)は、顔がコンプレックスで、何をやらせてもダメダメな高校二年生。前髪で顔を隠し、目立たず平穏な高校ライフを望んでいる。  しかし、そんな晴翔の平穏な生活を脅かすのはこの男。幼馴染の葉山 蓮(はやま れん)。  蓮は、イケメンな上に人当たりも良く、勉強、スポーツ何でも出来る学校一の人気者。蓮と一緒にいれば、自ずと目立つ。  だから、晴翔は学校では極力蓮に近付きたくないのだが、避けているはずの蓮が晴翔にベッタリ構ってくる。  そして、ひょんなことから『恋人のフリ』を始める二人。  そこから物語は始まるのだが——。  実はこの二人、最初から両想いだったのにそれを拗らせまくり。蓮に新たな恋敵も現れ、蓮の執着心は過剰なモノへと変わっていく。  素直になれない主人公と人気者な幼馴染の恋の物語。どうぞお楽しみ下さい♪

処理中です...