山王学園シリーズ〜カサブランカの君へ〜

七海セレナ

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136.【子役時代】

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蘭世「何てったって俺が三木プロの星じゃん?辞めたら困るから息子を遊び相手兼監視役にして現場裏でもずっと一緒にさせてたの」


本人が言うのもどうかと思うが、まぁ確かにその通りだよな。

稼ぎ頭に何かあっては困るし多分三木先輩はちょっとしたお目付け役を任せることが出来るくらいには賢い子供だったのだろう。


雅臣「じゃあランラ__いだだだだ」


またつい口をついて出てしまった一言に、梓蘭世は青筋を立て俺の耳を引っ張るとそのままプールに顔を沈めようとしてくる。


蘭世「てめぇ今何て言おうとした?」

雅臣「いやその…例の教育番組には来てたのかなと……」


無理やり言葉を変えて誤魔化すが大変ご立腹な様子の梓蘭世を見て、さっき一条先輩が言ってたように本人が黒歴史だと思ってるのは本当なんだと理解した。


蘭世「……それも着いてきてた」


不貞腐れて答える姿に、あの教育番組を見ずに育たない子供はいないしそれに何よりあんたの代表作なんだから仕方ないだろと言い返そうとした瞬間、

 
蘭世「でも三木さんがいつ子役辞めたのか、俺未だに分かんねぇんだよ」


少し寂しげに空を見上げる梓蘭世の目はぼんやりとその当時の三木先輩を追いかけてるように見えた。


蘭世「俺の現場にはあの人全部来てたんだ。忙しくて不機嫌な俺といつも遊んでくれて……」


あの当時のドラマの子役で男の子と言えば梓蘭世と言われるくらいにどこにでも引っ張りだこだったのにそれに全て付き合っていたのか。

梓蘭世と殆ど年齢の変わらない三木先輩が子守りの為に現場に毎日行くなんてそれはそれで可哀想に思えた。

三木先輩自身も遊びたい盛りの子供だったろうに、よく母親の言うことを聞いて我慢していたなと眺めると、


蘭世「俺もガキだったし、現場行ったら遊んでくれる兄ちゃんがいるって感覚で……だからいつの間にか三木さんも俺と同じ子役だってこと忘れてたの」


ひでぇよな、と笑う梓蘭世に俺は何も言えなくなってしまった。

初めて梓蘭世が俺の1個上だと知った時、たった1歳差違いの子がこんなにもテレビに出て大変そうだなと思った記憶がある。

梓蘭世を知ってるかと聞いたら大半の人がいたよね、と思い出せるくらいには記憶に残る子役で本人の言うように仕事に忙殺されて毎日必死だったのだろう。


蘭世「だから兄ちゃんっていうより…あの頃は三木さんだけが俺の友達だったが正しいわ」

雅臣「せ、先輩だけって……」


確かに毎日一緒にいれば友達みたいな感覚になるかもしれないが、他にも少しは子役が現場にはいただろうと訝しむ俺に梓蘭世は片眉を上げて俺に軽くデコピンをした。


蘭世「あんな戦場みたいなとこじゃ友達なんかできねぇよ。信じられないくらい僻まれるしな」

雅臣「子供にそんな感情あるんですか!?」

蘭世「子供はそこまで、でも子役の親はさぁ」


____その一言で全てが腑に落ちた。


他の子役の親が当時の梓蘭世の活躍ぶりを妬まないはずがない。

生まれながらにして特別な存在で、なるべくして役を得る梓蘭世を妬んだところでどうにもならないのに私欲はそうも人を狂わすのだろうか。

〝人は裏切る〟という言葉が簡単に出るくらいに梓蘭世は壮絶な経験をしてきたのだろう。

それに余りにも多忙だった梓蘭世が毎日学校に通っていたとも思えなかった。

きっと撮影現場では大人からの期待とそれ以上に求められるものが多くて、過酷な芸能界で唯一三木先輩だけが梓蘭世の信頼出来る人だったに違いない。

想像するだけで恐ろしく疲弊しそうだと俺が一息ついてしまった。


蘭世「……だー…あっちぃ…」

雅臣「今日の最高気温38℃ですよ」

蘭世「マジか」


しばらくして梓蘭世は周りの水を手でかきながら浮き輪でくるくると回り出す。

プールに1番行きたがっていたのは、もしかしたら子供の頃に忙しすぎてこんな場所に来れなかった反動なのかもしれない。

協力して力強く浮き輪を回してやると目尻に皺を寄せてそれは楽しそうにはしゃいで笑った。

回る度に梓蘭世の髪が踊るように揺れてもっと早くと強請るので俺も全力で回してやると、声を上げてはしゃぐ梓蘭世の全てのパーツの美しさに目を奪われたのは俺だけではなく周囲も釘付けになっていた。

もしかしてあれ、とヒソヒソ話す声が聞こえると同時に俺は思い切り浮き輪を押してまたスピード上げて移動する。


蘭世「もっとスピード上げろ!いけいけ!」


笑っているだけなのに梓蘭世はあまりに華がありすぎた。

休業中で目立ちたくないくせに髪を染めるだなんて何しにわざわざ逆をいくんだと思っていたがそうじゃない。

この誰もが目を引く存在感はどれだけ地味に過ごしたところで打ち消せず、結局目を引くのであれば自由にした方がいいと判断した結果なんだ。


雅臣「何ていうか…三木先輩の気持ちが分かります」

蘭世「はぁ?あの化けもんの?」


梓蘭世は笑って流しているが、俺には何となく三木先輩がこの人を嫌なものから守りたくなる気持ちが分かってしまった。

賢く聡明な三木先輩は幼い頃から注目を浴びることは良いことばかりじゃないととうに気づいていて、梓蘭世の心が折れてしまわないよう今でも出来る限り守り続けているんだ。

梓蘭世は芸能人にしては繊細すぎて、ちゃんと傷つき十分に悲しい思いをする人だと初めてこんなに会話をして気づいた。

本当はもっと図太く三木先輩くらい心が無い方が芸能界で生きるのに向いているのだろう。


『見た目によらず意外と純粋だしね』


一条先輩は誰よりも梓蘭世の傍にいてこの繊細さを理解してるからああやって言ったんだ。

無敵に見えるこの人こそが1番傷つきやすいと知って、俺も誰かに梓蘭世の輝きを奪われたくないと思った。


蘭世「三木さんなぁ…でもまぁ良い辞め方したよな」


梓蘭世は独り言のようにさっきの続きを語り始める。


蘭世「人の心に残らないうちに辞めた方がいいこともあんだよ」


その言い方は梓蘭世が良い事ばかりじゃなかったということを証明するのと同じで、子役界の頂点を築いた人が言うと言葉の重みが違う。


雅臣「柊と蓮池みたいに、三木先輩とずっと一緒に芸能活動とか……そういう道も良かったかもしれないですね」

蘭世「確かに、今も三木さんが演技続けてたら俺も休んでねーかもな」


…………。

………………。


ここで何故休業してるのかを俺が聞いてもいいのだろうか。

表向きの理由は学業だと知っているが、天下の梓蘭世があの人気ピーク時に休むだなんてよく事務所も三木先輩も許可をしたなと眺めてしまう。


蘭世「お前さ、前から言おうと思ってたけど顔に全部出すぎな?言いたいことあんなら言ってみろよ」


少し悩んでいると梓蘭世がニヤニヤと意地の悪い顔でこちらを見るので下を向いてしまう。

本人は良いと言ってるが本当にこれを聞いても構わないんだろうか。


雅臣「いや、あの……怒んないでくださいね?……何で今芸能活動休止してるんですか……?」


迷いに迷って結局本音を知りたくて尋ねてしまったが、やっぱりそれかと梓蘭世は失笑した。



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