山王学園シリーズ〜カサブランカの君へ〜

七海セレナ

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141.【遊園地】

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雅臣「…………」

梅生「藤城生きてる?」

雅臣 「大丈夫です……」


隣に来て優しく声をかけてくれる一条先輩に何とか笑って取り繕うが、言葉とは裏腹に全然大丈夫ではない。

自分の体力の無さを痛感しているというよりかはあいつらが元気すぎると前を歩く3人をジト目で見つめる。

散々プールで遊び倒した後、


夕太『せっかく長島まで来たんだからどっちも楽しまなきゃ損だろ!』


と張り切る柊の言葉に従って俺達は日が暮れる頃には遊園地に移動した。

夕方になれば真夏でも客が自然とプールから遊園地へ流れてくるようで、暑くてもなかなかの賑わいを見せていた。

プールで散々ハシャいだ後だしメリーゴーランドや観覧車など緩やかなものに乗るんだと思って4人について行ったのだが俺の考えは甘かった。

入園料だけでなくチケットはまさかのアトラクションも無料で乗り放題。

調子に乗って絶叫系を片っ端から乗りまくり最後に柊が興奮しながら長島1の人気ジェットコースター〝ドラゴンスチール〟に乗ろうと指差したのだ。

ギネスにも認定された観覧車よりも高い〝ドラゴンスチール〟は最高地点97mからほぼ90度で一気に落下するらしい。

肉眼ではてっぺんが見えないほどの高さにマジかと顔を曇らせる俺とは違い他の4人はどうってことなさそうで参ってしまった。

しかしここで俺1人断れば蓮池に何を言われるか分からないと、ほとんど意地で並んだのが20分前のことだった。


夕太「まじ楽しい!フリーフォールも行こうよ!」

蘭世「トルネードスクリューにしようぜ」

楓「よく言いますよ、乗る直前までビビってたくせに」


乗り終えた今は多分俺だけ魂が抜け出ている状態で、前を歩く3人は足取り軽く出口に向かいながら最後と言ったのにまだ他のジェットコースターに乗る気満々だった。


梅生「もし次も乗るなら無理しなくていいよ」

雅臣「は、はい……」


一条先輩は俺にだけ聞こえる声でそう囁く。

フラフラと足元がおぼつかない俺を支え背中をさすってくれるが、きっと今乗ったものより怖いジェットコースターはもうないと思う。

そのくらい〝ドラゴンスチール〟はスリリングなもので、思い返してみればそもそも座席に肩を覆うカバーがないのに衝撃を受けた。

更に足が床から離れた状態になると乗る直前に知らされて、どこに座っても怖そうだと構えていたら図太い蓮池に前に押し出された。


楓『せっかく1番前が空いてんだからお前が乗れよ。初めての遊園地記念に』

夕太『意外と最前が1番怖くないって言うじゃん?』


蓮池は珍しく俺を持ち上げてきてどうしたんだと嫌な予感はしたものの、柊の言葉を聞いてそれが本当ならと素直に1番前に座らせてもらった。

俺達は5人で奇数ということもあり先頭の俺の後ろに蓮池と柊、梓蘭世と一条先輩が2人ずつ座って出発の笛が鳴ると同時に発進したのだが……。

途中で本当にやめておけば良かったと思うほど恐ろしい乗り物だった。


夕太「落ちる時の感覚が面白いかったよね」

蘭世「タマヒュンがいいとかMかよ」

夕太「絶叫の醍醐味なんてそれしかないじゃん!」

雅臣「ちょ、ほんとに!!」


まだ浮遊感を感じて死にそうだが梓蘭世の超下品な発言に思わず正気に返る。

その綺麗な顔で何て事をと口に出そうとした瞬間、蓮池がいそいそと出口横の店員から何かを受け取っている姿が見えた。

もしかしてこいつまだ何か食べる気なのか?

この後も絶叫系に乗るかもしれないというのに大丈夫かよ……。

訝しんで見ると、蓮池は稀に見る上機嫌な顔をしてピラピラと紙のような何かを摘んでいる。

何故か素早くそれを写メってから俺達の所まで戻って来たのだが、左口角を上げているのを見てまた嫌な予感に揺すぶられた。

こいつがこの顔をする時は大抵ろくな事にならないんだ。


楓「これのために乗ったみたいなもんだからなぁ」


ニヤつく蓮池に何だ何だと皆が寄ったタイミングでよく見えるようその紙がひっくり返されると、


蘭世「とっと顔やべぇ!!傑作!!祈ってんじゃん!!」


………こ、こいつ、これがしたくて俺を1番前に座らせたのか!!

蓮池が持っていた紙はジェットコースターに乗って悲鳴をあげる俺達の写真だった。

このジェットコースターには途中で写真を撮って貰える箇所があるらしく、1番前に座る俺は当然バッチリ写っていて酷い形相だ。


雅臣「しょ、しょうがないでしょう!?掴まるところもなかったしどうしろって言うんですか!」

蘭世「いやそれにしてもだって!」

梅生「蘭世だって半目じゃん。それに俺だって下向いてるしこれで盛れるとかなくない?」

蘭世「痛い痛い痛い痛い梅ちゃん!足、足っ!」


神に祈るように目を瞑り両手を組む俺の姿を見て爆笑する梓蘭世の足を一条先輩が咄嗟に踏みつけ黙らせる。

気にすることないよと笑いかけてくれるが、梓蘭世は半目でもアンニュイという表現で片付けられる写り具合で、芸能人の威力を思い知らされた気がしてとても虚しい。


楓「サークルチャットのアイコンにしといた、完璧」

夕太「でんちゃんナイス!雅臣部長だしぴったりだよ!」


それにしても蓮池の馬鹿は俺を晒したいがあまりにわざわざ金を払ってまでこの写真を買ったのか?

本当にろくでもないことばかり思いつきやがって、いっそ呆れを通り越して感心してしまう域だ。


夕太「雅臣、見て見て」


ため息をつきながら俺も柊の見せてくれるアイコンを覗き見れば、自分のことながら妙なハマり具合で中々面白い。

一般人の俺が酷い写りなのはしょうがないしウケたならいいかと2人で一緒にまた笑った。


……そうだ。


写真ついでに柊に頼まれていた蓮池との写真をここで撮ってやろう。

柊や一条先輩がたくさん写真を撮ってくれていたが、こいつら2人だけの写真はまだ撮れていないと自分の役目を思い出す。


梅生「これどこに撮影箇所あったんだろ」

蘭世「2回目の落ちるとこら辺らしいぜ?梅ちゃんは下向いてるし夕太とでんもブレてるわ」

雅臣「確かにですね。……蓮池、柊、俺が撮り直してやるよ」


2年の話題に乗ってるフリをしながらそう提案すると、昨日の俺との会話を思い出したのか柊は途端に満面の笑みになる。


夕太「まじ!じゃあ俺のスマホで___」

楓「俺喉乾いたから飲み物買ってくる」


ところが蓮池は突然ふらりと柊の言葉を遮りそのまま自販機に向かってスタスタと先に歩いて行ってしまう。


夕太「あっ、でんちゃ…ん……」


あまりにも不自然に会話を断ち切ったその姿は写真を撮りたくない意思が誰の目にもハッキリ見えてしまった。

柊もそれを感じて伸ばした手を引っ込め俯いてしまう。


蓮池はどうしてそんなに写真を嫌がるんだろうか。


頑なに撮りたがらない理由も分からず、嫌そうな姿勢にお手上げとしか言いようがないが、心做しかいつもより小さく見える程項垂れる柊が少し可哀想だった。

友達として何とか柊の気持ちを慰めたいと、


雅臣「なぁ柊、俺と一緒に撮ってくれるか?」


俺がかけた言葉に柊はのろのろと顔を上げる。


夕太「雅臣と?」

雅臣「代わりと言っては何だけど撮ってくれたら嬉しい。…大丈夫、蓮池とはまたこれから何度でも撮るチャンスはあるよ」

夕太「……そ、そうだよな!雅臣屈んで!」


励ますように目を見て言えば、柊は弾けるような笑顔で何度も頷いた。


梅生「いいな、俺らもいれて?」

夕太「入って入って!」


自然と2年の2人も寄って来てくれたので柊の気持ちも持ち直したようだ。

柊は自分のスマホを内カメにして一生懸命に腕を伸ばすが、小柄なのでどうしても俺ら3人がめちゃくちゃ屈む形になってしまい体勢がキツい。


蘭世「夕太貸せよ腰がいてぇ」

夕太「なんだよー!!てか蘭世先輩写真撮っていいの?」

蘭世「んーSNSに載せなければ?ほら撮るぞ」


柊がスマホを渡すと梓蘭世が完璧な画角で何枚か連写してくれる。

後で送れと早速その場で撮った写真を見せてくれるが、茜色に広がる空が俺達の顔を少し朱に染めて皆笑顔で写っていた。

後ろのジェットコースターも入って最高に盛れていて、これは俺も後から絶対送って貰おう。


夕太「めちゃくちゃいい感じ!!これインスマ載せたすぎる!」

梅生「確かに。よく撮れてるね」

夕太「蘭世先輩だけモザイクしたら駄目?」

蘭世「最悪、台無し」


その時飲み物を買い終えた蓮池がギャーギャーと騒ぐ俺達を少し離れた場所から見ていることに気づいた。


縛られたように動かない蓮池は何を思っているのだろう。


その目は柊だけを見つめていて、無音を纏ったままこちらに近づいてくる。

3羽のインコも写真を撮られることを嫌がるのも、きっとあいつの中に俺の知らない秘密がある。


それは一体何なのか……。



蘭世「おい、でんお前も___」

楓「飲み物買ってきましたよ。花火大会場所取りするならそろそろ向かった方がいいですよね」


全員で撮ろうとする梓蘭世の言葉を蓮池はまた被せるようにして遮る。

不自然なそれに梓蘭世が怪訝な顔をするが、蓮池はもう平然としていてそれぞれに飲み物を渡していく。


梅生「ありがとう。蓮池の言う通り混んできたからそろそろ向かう?蘭世の事務所のアイドルも歌うんだろ?」


一条先輩の言葉を合図に何となく遊園地を出る流れになって全員が歩き出した。


夕太「………」

蘭世「夕太、後で花火と一緒にでんと撮ってやるよ。新機種だからナイトモードついてるし」


一条先輩と並んで先を歩く蓮池の背中を見つめて黙る柊に、勘のいい梓蘭世が何か不穏な空気を感じたようだ。

それでも項垂れる柊に、見兼ねたのか梓蘭世はため息をつきながら自分のスマホを取り出すと俺を手招く。

近寄れば梓蘭世は柊だけ前に行けと軽く足で追いやり、自撮りで写真を撮る振りをして実際は外カメのまま隠し撮りのように前を歩く蓮池と柊だけを写した。


蘭世「とりまこれで我慢しろよ」


梓蘭世のスマホには蓮池と柊が何とか一緒に写っているが、2人の交わらない視線が空の朱色と相まって少し物悲しい気がした。


蘭世「とっとがいつかもっといいの撮ってやれよ」

雅臣「そうします。梓先輩ありが……柊?」


柊は梓蘭世のスマホに映る2人だけの写真を見て何度も大きな目を瞬かせていた。


夕太「……こんなに違うんだ」


噛み締めるように言う柊は子供の頃に撮った2人のあの写真との違いに驚いたように固まっている。

2人とも成長してるんだから当たり前だろと俺が言うより先に柊は走って蓮池の背中を追いかけると、誤魔化すように軽く体当たりしてから一条先輩との間に割り込んだ。


そんな柊を見て、蓮池はどこか安心したように微笑んだ。



『友達だからって何でも話すもんじゃねぇだろ?』



2人の背中を見ながら俺の隣を歩く梓蘭世の言葉を思い返す。


蘭世「行くぞ」

雅臣「あ、はい……」


もしかしたら友達を続けるためには言えないことだってあるのかもしれないと初めて俺の中で頭をもたげた。



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