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153.【山王合唱部】
しおりを挟む………ここも上手いな。
勢いがあると言っていた三木先輩の言葉通り、1つ前の学校の歌声と同様力強く伸びやかな歌声だった。
ハーモニーとしてのバランスが素晴らしく繊細さも感じる学校で、こちらも明確に優勝候補に入るように思える。
ここまでずっと課題曲と自由曲を聞いてきたが、この学校のソロパートを歌った人の高音が飛び抜けて上手く全体の合わせも素晴らしかった。
万雷の拍手と共に退場するが、入れ替わりでついに桂樹先輩率いる山王合唱部の出番となる。
『7番、山王学園高等学校合唱部。自由曲、祝福の歌____』
アナウンスの声に俺まで緊張してくるが、正装に身を包んだ山王合唱部員が全員舞台上に並ぶと、指揮者、伴奏者と順に名前を読み上げられ桂樹先輩がピアノ前でお辞儀をした。
続いて指揮者で現部長の短髪の先輩が一礼すると会場は拍手に包まれる。
指揮台に上がった指揮者は1人1人と目を合わせ部員の気持ちを落ち着かせているが、三木先輩と桂樹先輩の友人だけあってさすがに落ち着いて見える。
これなら心配なさそうだとチラと横を見れば三木先輩はピアノの前に座る桂樹先輩だけをじっと見つめていた。
その眼差しに釣られるように俺も桂樹先輩を見るが疲労が少し顔に浮かんでるように見える。
緊張しているのだろうかと不安に思う中、指揮者が手を上に掲げたのでいよいよ始まるんだと息を呑む。
部員が足を肩幅に広げるその動作はぴったり合っていて、スッと息を吸いこんだ指揮者と目を合わせた桂樹先輩が前奏を弾き始めた。
…………。
………………。
あ、あれ……?気のせいか?
前の2校のような感動を味わえない。
まだ序盤だからと思いたいのに何となく全体のハモリが悪いのと突出してピアノの音が強いように思える。
前の学校が上手すぎてバランスが悪く感じるのか、静かな筈の会場まで微妙な空気に包まれている感じがして焦りが俺の中にジリジリと広がっていく。
夕太「うわ」
課題曲のソロパートに入る手前で柊が思わず呟くくらい分かりやすく伴奏がズレた。
更にはミスタッチをカバーしようと思ったのか今回ソロを務める中田さんの歌声が変に張り切った感じになってしまい、まるで心のこもった演奏に聞こえない。
何とか課題曲を歌い終えたが次の自由曲は大丈夫なのかとヒヤヒヤしてしまうレベルで聞いている側の俺は焦燥を覚える。
次いで歌う祝福の歌も入学式で披露した時の方が圧倒的に上手いと思ってしまった。
前2校の男子校が優勝候補ということもあって余計比較してしまうのもかもしれないが、どことなく集中できないまま山王合唱部の出番はあっという間に終わってしまった。
三木「……やっぱりか」
労いの拍手が贈られると同時に三木先輩が呟いたのを俺は聞き逃さなかった。
やっぱり……って、どういう意味だ?
舞台から明らかに辛そうな顔で退場する桂樹先輩をと三木先輩を交互に見て俺は拍手の手を止めてしまう。
呆然とする俺と違って三木先輩も柊も終わったとばかりにさっさと立ち上がって会場を出ようとするので待ってくれと思う。
舞台袖へ1番最後に捌ける桂樹先輩の悔しそうな表情にますます動けなくなるが、
夕太 「雅臣、行くよ」
俺の腕を引きずるように柊が会場から無理やり連れ出した。
______
____________
雅臣「あ、あの!三木先輩待ってください!」
会場外に出てロビーから出ようとする三木先輩を呼び止める。
俺の声に振り返る先輩はいつも通りの顔つきだけど、
雅臣「あの、やっぱりって……」
思わず先程ポロリと漏らした一言が気になってしまいどういう意味なのかを問いかけた。
やっぱりだなんて〝リオがやっぱりミスをした〟とでも言いたいのだろうか。
三木「いや、何でもないよ。俺は先に帰るからお前らも気をつけて帰れよ」
雅臣「で、でもっ…」
三木「……あれは俺が色々言われるってことさ」
どういう意味なのかさっぱり分からない。
三木先輩は確信を得たような意思のある目つきをしているがその心が俺に読めるはずもなかった。
雅臣「まだ結果が___」
夕太 「ミ、ミルキー先輩!またね!」
俺の腕を柊が思い切り引っ張って止めるがどうしても納得がいかない。
何故と見つめれば柊はいつものふざけた顔と違ってとても冷静な顔をして首を振る。
全てに感情が追いつかない俺を置いて三木先輩はじゃあと帰っていった。
夕太「……雅臣、昨日話してたプリン買って帰ろうよ、ね?もう帰ろ!」
鬱屈した思いが俺の顔に出ているのか柊はわざと明るい声を出して行こう行こうと俺を引っ張る。
雅臣「俺……桂樹先輩に挨拶してくる」
夕太「やめなよ、何しに行くの?会ってどーすんだよ」
合唱部が客席に戻る前にこのロビーを通る筈だ。
ここで待っていれば桂樹先輩に会えるというのに困り眉の柊に反対された。
雅臣「何しにって……」
夕太「声なんか掛けない方がいい」
雅臣「少しだけなら話せるかもしれないだろ?」
夕太「話してどーすんだよ。意味ないって、絶対やめとけ!」
柊は渋い顔をしてキツく俺に言うがまだ結果が出たわけでもないのに桂樹先輩達が負けたみたいな顔をしないで欲しい。
それに桂樹先輩は俺達が見に来るのを知ってるのだから挨拶くらいいいだろと思った瞬間、突如ロビーに誰かの悲愴な泣き声が響き渡った。
夕太「……あ」
見慣れた山王の制服の奴らが反対の扉から出てきて、桂樹先輩と指揮者は2人ががりで嗚咽する人を抱えている。
「俺、俺上手く歌えなくて……!!」
酷く思い詰めた泣き方と顔を見てすぐに中田さんだと気がついたが、
桂樹「中田は上手くやったって…俺がミスしたからだよ。そんな泣くなよ」
中田「でも……!!俺は……」
肩を抱いて慰める桂樹先輩を見たら俺ももう何も言えなくなる。
高校生男子が人目もはばからずに泣く姿を初めて見たのもあって唖然として立ち尽くすが、一瞬桂樹先輩が俺の視線に気づいたのか目が合った。
桂樹先輩_____。
そう一言言おうとしたが明らかに目を逸らされる。
桂樹「中田落ち着けって、な?ほら涙拭いて__」
そのまま桂樹先輩も合唱部も中田さんを支えるようにして次の演奏の入れ替わりのタイミングで会場へと戻っていってしまった。
いつもなら俺に笑顔で声をかけてくれるのにそんな余裕もないのか明らかに無視されショックを受ける。
もちろん俺どころじゃないのなんて分かってはいるが俺から何か一言声をかけるべきだったんだろうか?
………………。
……………………。
何を?
どうやって?
あんなに悲痛な泣き声を上げる人がいる状況で俺如きが何を伝えることがあるというんだ。
夕太「……雅臣、行こ」
動けない俺のシャツの裾を引っ張る柊の顔はとても気まずそうだった。
多分こうなることが分かっていて柊は止めてくれていたんだろう。
だからあんなに早く帰ろうと俺を説得してたんだ。
相変わらず自己中で気遣いができない自分に、本当に何も成長していないと色んな意味で嫌になってしまう。
雅臣「……」
蓮池が俺のためにくれたブーケを強く握り締めそうになり慌ててその手を弛めた。
柊が俺の肩を叩いてくれるのがせめてもの慰めで、優しい友達に感謝しながら市民会館を後にした。
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