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166.【モテ期到来!?】
しおりを挟むつい桂樹先輩から連絡が来るとばかり思っていた俺が何も答えられずにいると個室が一瞬静かになる。
その間に店員が食後の飲み物を尋ねるので、皆それぞれ注文していた。
雅臣「だって、8月中旬って桂樹先輩が……」
蘭世「え、とっと桂樹さんと行くの?両日?」
雅臣「……りょ、両日……とは……」
タイミングを見計らって何とか声を振り絞っても日程すら知らなかったとは言いづらく曖昧な言い方をするしかない。
どういう事だと皆が顔を見合わせているが、俺も何故連絡が来ないのか分からなくて困ってしまう。
三木「俺はエスプレッソで、…日程って確か8月10日くらいじゃなかったか?」
蘭世「10と11の2日だろ?」
梓蘭世が気を利かせて素早く検索してスマホ見せてくれるが、そこには〝Not Bad Zopp名古屋 8/10.11〟と書かれた詳細と特設サイトが表示されていた。
夕太「雅臣チケット持ってないの?」
雅臣「お、俺は持ってないんだよ。桂樹先輩がチケット持ってるから一緒に行こうって誘ってくれたんだけど……」
楓「日程も言われんかったのかよ」
蓮池に何だそれと舌打ちされるが、桂樹先輩が連絡すると言ってから一切連絡は貰って居らずまさかのライブは今週末で迫り来る日程にどうしても焦ってしまう。
蘭世「お前さ、それいつ約束してたんだよ」
雅臣「えっと…期末テスト前には……」
俺の煮え切らない態度が気に入らないのか先程まで明るかった梓蘭世が急に不機嫌になるのでつい目を逸らす。
それにライブの約束をしてからもうそんなに経ってしまっていたのかと自分で言った言葉に驚いてしまった。
蘭世「6月じゃん……」
夕太「結構、前だね」
柊は〆のドルチェのミルクジェラートとチョコムースをスプーンでブスブス音を立てて刺しているが、皆黙ってしまってカンカンと鳴る音だけが室内に響いた。
その横で頬杖を着く梓蘭世は超絶不機嫌な顔になってしまって、蓮池にまでため息をつかれると物凄く責められているように感じる。
___俺から連絡するべきだったんだ。
待ってるだけで何もせず日程すら知らないだなんて、人任せにも程があると皆呆れているのだろう。
俺は言いもしなければ行動にも移さない自分の最低の習慣を直そうと頑張ってきたのに、全く改善できていなかったなんて馬鹿すぎる。
連日遊び呆けてあんなに楽しみにしていたライブの連絡を取らなかった己を恥じ、忙しい桂樹先輩に変わって自分から動くべきだったと心底落ち込んだ。
雅臣「あ、あの……桂樹先輩とてもライブに行くような心境じゃないとは思うんですけど、今連絡してもいいですよね?」
大会に負けてまだ桂樹先輩も落ち込んでいるかもしれないがせっかくの約束だ。
それにライブに行けば気分転換にもなるかもしれないしまだ日数はあるから今連絡すれば間に合うはずだ。
桂樹先輩だって何かしらの返事はくれるだろうと急いでスマホを開くと、
蘭世「絶対すんな」
雅臣「……えっ?」
梓蘭世は冷たくそう言い放った。
同時に食べ終わったドルチェの皿を下げられ俺の目の前に頼んだコーヒーが置かれる。
雅臣「でもチケットが……」
蘭世「止めとけって」
梓蘭世が真剣な顔で首を振るのを見て、この人に2回も止められるなんて本当に連絡しない方がいいのだと悟る。
その言葉で今頃桂樹先輩はライブどころでは無く連絡することさえ失礼なのかと気がつくと絶望的な気持ちになった。
梓蘭世の背後に見えるガラス窓越しの名古屋の景色は夏の暑さを感じさせず清々しい青空だというのに俺の気持ちは真っ暗だった。
蘭世「っとに……」
雅臣「す、すみません……」
俺の気の利かなさにイラついてるのか梓蘭世に舌打ちまでされてしまいつい反射的に謝ってしまう。
部屋が静寂に包まれていたたまれなさに俯くと、再びため息をついた梓蘭世がじっとこちらを見ていた。
蘭世「………なぁ、お前この後暇?俺がお前の服選んだるわ」
雅臣「え!?」
あまりにも唐突な申し出につい大きな声を出してしまう。
しかも先程の舌打ちは一体何だったのかと思うほど、突然梓蘭世は魅力的な笑顔を見せた。
___ど、どういう風の吹き回しだ!?
あの梓蘭世が俺の服を選んでくれるだなんて何故急にと思うが、嬉しすぎて芽生えた暗い感情も何処かに吹き飛んでいってしまう。
三木「よし、俺も選んでやろう」
雅臣「え、ええ!?」
蘭世「三木さんが選んだら全身黒になるだけだよ」
三木先輩はケッと笑う梓蘭世を無視してスマホを開くとメールでもしているのか何かを打ち込み始めた。
夕太「ずるいずるい!俺も雅臣の服くらい見立ててあげるよ!俺がやる!」
柊までが名乗りあげるので急にモテ期がきたのかと思うほど俺は皆に構われる。
つい数秒前までの暗い気持ちが何処へやらで、俺の口角は上がりっぱなしだ。
柊も梓蘭世も三木先輩も俺のシンプルな服と比べて皆センスが良く、私服をこのお洒落なメンバーに選んで貰えたら新しい自分に出会えそうで胸が高鳴る。
蓮池も一緒にどうだろうかと横目に見ると目が合って、
楓「トルネードポテトを大学芋にすんのも悪くねぇな」
夕太「でんちゃん分かりずらいなー」
楓「いいんだよ、それよりどこ行く?」
柊の言う通り何を言ってるのかさっぱり分からないが蓮池まで乗り気みたいでとても嬉しくなった。
あまりにも昂りすぎて一旦落ち着こうと冷めたコーヒーを飲むが何にも役に立たないくらいドキドキしている。
蘭世「お、タイムリー、梅ちゃんも名駅おる」
夕太「え!まじ!?」
蘭世「ストーリー上がってる、連絡するか」
梓蘭世はそのままスマホをスピーカーにして一条先輩が電話に出るのを待つと10コール目くらいでようやく出てくれた。
梅生『……何?』
蘭世「梅ちゃん、ぴよるん何匹食うつもりだよ!」
梅生『別に何匹でもいいでしょ』
楓「……一条先輩こんにちは」
梓蘭世の止め方から一条先輩が何かのスイーツを食べているのが伝わるが、このままでは電話を切られかねない雰囲気を見兼ねた蓮池が助け舟を出した。
梅生『…もしかして蓮池?蘭世と2人?』
声を聞いた途端意外すぎる組み合わせに一条先輩はとても驚いているようで、
夕太「梅ちゃん先輩!俺、俺も!SSCほとんど揃ってんの!」
蘭世「梅ちゃんこの後予定ある?皆で買い物行くんだけど行かね?」
柊の声を聞いた一条先輩が返事を返そうとした瞬間、梓蘭世は本題をスピーカーをオフにして2人で話し始める。
急に嫉妬したのかと呆れてしまうが、皆で揃って遊びに行ける喜びにどうでも良くなる。
しかもショッピングだなんて浮かれない方が無理な話だった。
蘭世「了解、じゃあ30分後くらいに高島屋前で!」
そう言って電話を切った梓蘭世は親指を立てて笑顔で一条先輩も来ることを教えてくれる。
三木「これを飲み終えたら行こうか」
三木先輩がくいとエスプレッソを飲み干したのを見て、俺達も急いでドリンクを飲みご馳走様でしたと席を立った。
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