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170.【ノベルティ】
しおりを挟む蘭世「二階堂さん!……うわ、焼けた?」
「ハワイ帰り。後で土産やるよ…って春樹もいたの?」
三木「お世話になっております。先日は蘭世がありがとうございました」
三木先輩の仕事モードの挨拶より噂の二階堂さんとやらの風貌がイカつすぎて目を見開く。
二階堂さんは顎下から鎖骨までの首全面に蜘蛛のタトゥーが彫られていて、俺が彫ったわけでもないのにその時の痛みを想像してつい震えてしまった。
鍛えられた肉体が丸わかりなセミシアーなハイネックは透けていて、グラフィックの模様がプリントされている。
夕太「すげー、乳首丸見え」
柊の間抜けな感想よりも目に行くのは腹にまで絵画のように美しく彫られたタトゥーだ。
黒インクを基調として陰影やグラデーションを駆使したリアルで繊細ながらも立体感のある仕上がりが素晴らしい。
俺が想像していた柔和なデザイナーとは違いかなり怖い風貌だが、2人に話しかけるその声色は優しかった。
完全仕事モードの三木先輩は二階堂さんと今後の打ち合わせの日程を決めていて、この人に休みはあるのだろうかと疑問に思いつつふと横を見る。
トップスが並んだガラスの棚の上にそれぞれのデザイナーが手がけたフライヤーやスタイルブックが置いてあり、そこから『Para_Kid』と書かれたスタイルブックを何気なく手に取ると、
雅臣「あ、梓蘭世!?」
二階堂さんと同じシアーのトップスを着た梓蘭世が見開きで現れた。
蘭世「お前はいちいちうるせぇな…」
ジェンダーの境界線を押し広げるコンセプトなのか全てユニセックスとなっていて、大胆なウェアを身に纏う梓蘭世が何ページにも渡って掲載されている。
この前言ってたモデル業はこれかと食い入るようにページを捲っている俺に梓蘭世は呆れているようで、蓮池に至ってはドン引きしているがそれどころでは無い。
「何?蘭世のファン?」
雅臣「え、えっと…はい…」
「それ持ってっていいよ」
店内と同じ香りを纏う二階堂さんが笑って俺を眺めていて、その微笑みは大人の余裕と色気を感じて心臓が跳ねる。
タトゥーだけではなく耳にも何個もピアスが付いていて爪には丁寧に塗られた黒いジェルネイル。
どう見ても厳つい二階堂さんに優しくされるとギャップが凄くて見惚れてしまう。
夕太「これ全部二階堂さんが作ったの?」
物怖じしない柊が俺と二階堂さんの間に割り入って上目遣いで首を傾げた。
「そうだよ」
夕太「これがかっこいいなー…そうだ、二階堂さん今度は俺をモデルにしてよ!」
もう高校生だというのに子供のような無邪気さでお願いする柊を見て二階堂さんは苦笑した。
柊はスタイルブックをパラパラ捲った後、棚の下に置いてあるシャツを手に広げてくるくると回っている。
夕太「二階堂さん、これどう?似合う?」
モデルのようにウォーキングをしだした柊を危ないからと止めようとすると、二階堂さんは突然柊の傍まで行って頭を撫でる。
そしてくるくるなその前髪を右手でかきあげるとしげしげと様々な方向から見つめた。
「うちはキッズは展開してないからなぁ…」
夕太「!!」
キッズ発言に膨れる柊は二階堂さんに頬を手で挟まれパンの様にこねくり回され遊ばれているが、
「でも、3年後にまたおいで」
とあやすように微笑まれる。
柊はクォーターなのもあって何となく色素が人より薄い。
誰から見ても愛嬌のある可愛らしいルックスは二階堂さんのユニセックスの服が似合いそうで、自分の友達が褒められて誇らしく思っていると、
楓「お前は何年経っても選ばれないからね」
それまで無言だった蓮池が俺の隣に来て嫌味を言い放った。
雅臣「……あのなぁ、蓮池お前今日は何だってそんな俺に当たってくるんだよ」
梅生「蓮池。あんまり意地悪しないの」
優しい一条先輩が庇ってくれたのはいいが何故か梓蘭世までやりすぎだと蓮池の頭をぶん殴る。
いつもは割と蓮池側につくことが多い梓蘭世なのに俺を庇ってくれるなんて、嬉しいことではあるが何の気まぐれか。
ただこれ以上こいつの頭から単語や公式やらが抜け出たら困るので慌てて大丈夫ですと止めるが、叱られてイラついた蓮池が俺の手を雑に払った。
三木「二階堂さん、この前のオフショットのデータも送っていただいてもいいですか?」
「おう、いいよ。それより蘭世、プール行ったのってもしかしてこいつらと?」
蘭世「そう。採寸別日にしてくれてありがとな」
気の強い梓蘭世の懐き様から相当仲が良いように思えて、まるで兄弟のように仲がいい。
梓蘭世が素直にお礼を言うと二階堂さんは軽く目を見開き俺達の方を見た。
「蘭世と仲良くしてくれてありがとな。もし良ければ全員そこのノベルティから好きなの持ってけよ」
楓「えっ、ここから選んでいいんですか?」
二階堂さんが指差すガラスの棚の上に置かれた革のトレイには、星座をモチーフとしたシンプルなゴールドとシルバーのバースティックネックレスとリングブレスレットが入っている。
こういうのは大体何点以上買ったら、とか条件があって付けてくれるものなのに……。
ノベルティにしてはとても凝った作りで遠慮のない蓮池と柊はもう真剣に選んでいるが、売り物と変わらないクオリティのものをプレゼントする気前の良さに驚いてしまう。
「蘭世が世話になってるからな」
蘭世「何だよ急に兄貴ぶんなよ…え、二階堂さんさこの前言ってたTシャツ売れた?」
「あれは売れたけどもう1個新しいのは作った」
皆がノベルティを夢中で選ぶ中俺だけ梓蘭世に手招かれて近寄っていくと、二階堂さんがラックから取り出したTシャツを俺に合わせてくれる。
ショートスリーブのリブのクルーネックTシャツは濃いグレーのオーバーサイズで、背中にロゴと花のグラフィックがさり気なくプリントされている。
スタイルブックと同じデザインは今シーズンのもので、これは確実に二階堂さんが手がけた1点ものだと分かった。
「……いいね、似合う」
雅臣「ほ、ほんとですか?俺普段こういうの着ないから…」
絶対自分では選ばないタイプのデザインだけど、デザイナー自らに褒められて飛び上がりそうなくらい嬉しい。
鏡の中の俺はものすごく口角が上がっていて喜びが全面に顔に出ているのが分かる。
恥ずかしくなって何とか平静を装い俯くが、今日は良い事ばかりで幸せすぎてどうにかなりそうだった。
蘭世「ならそれ俺が買ったるわ」
雅臣「え!?」
梓蘭世の突然の申し出に、俺の驚く声が店内に響き渡った。
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