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「……ごめんね。もう本当に大丈夫……」
やっと人心地がつくと、自分の行動の大胆さに今度は恥ずかしくなってきた。
離れ難い気もするが、図々しい気にもなり、遠慮がちに体を離す。
非常事態だったとはいえ、粗相をしたのではないか。
混乱の最中、「深雪」と呼ばれて、深雪も「和貴」と呼んだ気もするし……。
「一度ならず、二度までも……すまない」
「平気よ。本当にもう大丈夫」
「だけど……」
「なんともないもの。気にしすぎだよ」
深雪はにっこりと微笑んだ。
今度は無理にじゃない。心からの、自然な笑顔だ。
確かに先ほどまでは爪先が痺れるくらいに怯えていたが、もう何も怖くない。
「そうやって、深雪はいつも俺を助けてくれるんだよな……。有難いけど、でも」
和貴は戸惑ったような、困惑の表情を浮かべて、俯いた。
「やっぱり、良くねえよ。どうやって詫びたらいいか、わかんないけど」
和貴は俯いた顔を上げずに、更に頭を下げた。
「やだ、頭を上げてよ。お詫びなんていらないよ! もういいの。和貴くんは、ちゃんと助けてくれたじゃない」
「良くない。……けど、謝って済めば警察はいらねえよな。それなら詫びに、殴ってくれ」
「ええっ!?」
もういいと言っているのに、とんでもない提案に、ぎょっとする。
「そ、そっか。深雪は……殴ったりしないか。じゃあ、何かして欲しいことは?」
(――ええー……っ)
どうしてそんな発想になるのだ。もう解決したのだから、気にしないで欲しい。
それが唯一の本音なのに。
「そんな。して欲しいことなんて何も」
「何でもいいんだ。深雪の気が済むまで、何でもする……!」
「だからもう、気は済んでるって言ってるのに」
「いいから、何かないのか」
「でも……」
「いいから頼む」
こんなに問答を繰り返しているのに、それでも和貴は自分を許せないようだった。
頭を下げたきり、戻す様子はない。
(もう……)
深雪はため息をつく。
ちゃんと助けに来てくれたのだから、この件に関してはおしまいにして欲しい。
そう願おうかとも考えるが、彼の真剣なこの様子では気が済みそうにない。
それに頼むとまでお願いされては……
「わかった。じゃあ、やっぱり叩く」
深雪はふーっと一つため息をついて、一歩、歩み寄る。
来る衝撃に備えて、和貴がぐっと腹に力を込めたのがわかった。
「いくよ!」
……ぺち。
「?」
殴られた、とは程遠い感覚に和貴は上目を上げる。
「ね、一発。これでいいでしょ。」
深雪はふんわりと両の掌で包んで、和貴の頬を持ち上げた。正面を向かせて、瞳を合わせる。
ちょっと前までの自分には考えられない行動だ。
今の深雪には分かっている。
和貴は県内屈指の不良であること。
でも誰よりも安心できる男の子で、こうすることがとても心地よいということ。
それに……
「和貴君がこんなに一生懸命私のこと助けに来てくれたでしょ。来てくれるって、信じてたけど……」
照れのため、どことなく視線を外していた。
その目を戻して、和貴の姿を捉える。
「……それがね、とっても嬉しかったの。だからこれでお終い」
ありがとう。と誠心誠意を込めて、深雪からも、頭を下げた。
ーーーーーーーーーー
その姿の愛らしさに、和貴はすっかり心奪われた。
どっきーん、と心臓を抉られたような衝撃が走る。
例えようのない感覚と疼きに、和貴の身体は動かされていた。
「みゆき……」
和貴は無意識に深雪の肩に手を置いて、澄んだ、清らかな瞳を見つめた。
深雪は一瞬身じろぎを見せ、何事かを言いかける。
だが、すぐに口をつぐんだ。
深雪は少し困ったような、戸惑うような表情を向けている。
それは嫌悪や拒絶の意志ではなさそうだ。
色白な頬は僅かに上気し、漆黒の瞳は先ほどの涙で揺れている。
本当に、許してくれたのか。俺はもう、許されていいのだろうか?
自問が浮かんだものの、衝動に流され、一瞬で消え去った。
「……キス、させて?」
想いのままに口走った言葉が、緊張と期待で掠れる。
深雪一度だけ目を大きく見開いたものの、他にはどんな抵抗も見せなかった。
こちらに酔ったような眼差しを向けて、動きを止めた。
恐れながらも――和貴の行為を、じっと待っているようにも見えた。
瞳には、自分が映っている。高くはないが、綺麗に通った鼻梁。
ほんのりとピンクに色づく唇――
どく、どく、どくん
脈拍が直撃する音だけが、脳内に木霊する。
いけないことだとは思わない。
こんなに綺麗で愛らしい恋人の、唇に触れたいと願うのは当然だ。
拒絶がない反応を肯定と受け取って、和貴は掌に力を込めた。
すると、深雪の顎が自然に上向く。
濡れた瞳が、緩やかに閉じられた。
胸を鷲掴みにされたような喜びと共に、和貴も瞼を閉じる。
やっと人心地がつくと、自分の行動の大胆さに今度は恥ずかしくなってきた。
離れ難い気もするが、図々しい気にもなり、遠慮がちに体を離す。
非常事態だったとはいえ、粗相をしたのではないか。
混乱の最中、「深雪」と呼ばれて、深雪も「和貴」と呼んだ気もするし……。
「一度ならず、二度までも……すまない」
「平気よ。本当にもう大丈夫」
「だけど……」
「なんともないもの。気にしすぎだよ」
深雪はにっこりと微笑んだ。
今度は無理にじゃない。心からの、自然な笑顔だ。
確かに先ほどまでは爪先が痺れるくらいに怯えていたが、もう何も怖くない。
「そうやって、深雪はいつも俺を助けてくれるんだよな……。有難いけど、でも」
和貴は戸惑ったような、困惑の表情を浮かべて、俯いた。
「やっぱり、良くねえよ。どうやって詫びたらいいか、わかんないけど」
和貴は俯いた顔を上げずに、更に頭を下げた。
「やだ、頭を上げてよ。お詫びなんていらないよ! もういいの。和貴くんは、ちゃんと助けてくれたじゃない」
「良くない。……けど、謝って済めば警察はいらねえよな。それなら詫びに、殴ってくれ」
「ええっ!?」
もういいと言っているのに、とんでもない提案に、ぎょっとする。
「そ、そっか。深雪は……殴ったりしないか。じゃあ、何かして欲しいことは?」
(――ええー……っ)
どうしてそんな発想になるのだ。もう解決したのだから、気にしないで欲しい。
それが唯一の本音なのに。
「そんな。して欲しいことなんて何も」
「何でもいいんだ。深雪の気が済むまで、何でもする……!」
「だからもう、気は済んでるって言ってるのに」
「いいから、何かないのか」
「でも……」
「いいから頼む」
こんなに問答を繰り返しているのに、それでも和貴は自分を許せないようだった。
頭を下げたきり、戻す様子はない。
(もう……)
深雪はため息をつく。
ちゃんと助けに来てくれたのだから、この件に関してはおしまいにして欲しい。
そう願おうかとも考えるが、彼の真剣なこの様子では気が済みそうにない。
それに頼むとまでお願いされては……
「わかった。じゃあ、やっぱり叩く」
深雪はふーっと一つため息をついて、一歩、歩み寄る。
来る衝撃に備えて、和貴がぐっと腹に力を込めたのがわかった。
「いくよ!」
……ぺち。
「?」
殴られた、とは程遠い感覚に和貴は上目を上げる。
「ね、一発。これでいいでしょ。」
深雪はふんわりと両の掌で包んで、和貴の頬を持ち上げた。正面を向かせて、瞳を合わせる。
ちょっと前までの自分には考えられない行動だ。
今の深雪には分かっている。
和貴は県内屈指の不良であること。
でも誰よりも安心できる男の子で、こうすることがとても心地よいということ。
それに……
「和貴君がこんなに一生懸命私のこと助けに来てくれたでしょ。来てくれるって、信じてたけど……」
照れのため、どことなく視線を外していた。
その目を戻して、和貴の姿を捉える。
「……それがね、とっても嬉しかったの。だからこれでお終い」
ありがとう。と誠心誠意を込めて、深雪からも、頭を下げた。
ーーーーーーーーーー
その姿の愛らしさに、和貴はすっかり心奪われた。
どっきーん、と心臓を抉られたような衝撃が走る。
例えようのない感覚と疼きに、和貴の身体は動かされていた。
「みゆき……」
和貴は無意識に深雪の肩に手を置いて、澄んだ、清らかな瞳を見つめた。
深雪は一瞬身じろぎを見せ、何事かを言いかける。
だが、すぐに口をつぐんだ。
深雪は少し困ったような、戸惑うような表情を向けている。
それは嫌悪や拒絶の意志ではなさそうだ。
色白な頬は僅かに上気し、漆黒の瞳は先ほどの涙で揺れている。
本当に、許してくれたのか。俺はもう、許されていいのだろうか?
自問が浮かんだものの、衝動に流され、一瞬で消え去った。
「……キス、させて?」
想いのままに口走った言葉が、緊張と期待で掠れる。
深雪一度だけ目を大きく見開いたものの、他にはどんな抵抗も見せなかった。
こちらに酔ったような眼差しを向けて、動きを止めた。
恐れながらも――和貴の行為を、じっと待っているようにも見えた。
瞳には、自分が映っている。高くはないが、綺麗に通った鼻梁。
ほんのりとピンクに色づく唇――
どく、どく、どくん
脈拍が直撃する音だけが、脳内に木霊する。
いけないことだとは思わない。
こんなに綺麗で愛らしい恋人の、唇に触れたいと願うのは当然だ。
拒絶がない反応を肯定と受け取って、和貴は掌に力を込めた。
すると、深雪の顎が自然に上向く。
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胸を鷲掴みにされたような喜びと共に、和貴も瞼を閉じる。
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