ヤンキー上がりの浜崎君は眼鏡ちゃんを溺愛してます

きぬがやあきら

文字の大きさ
40 / 43
ことの顛末

しおりを挟む
 「コノーーー」

 何も考えられないまま拓也は突進した。

 力任せに体当たりして、そのまま相手を突き倒す。

「ふじわら・・っ?」

 予測外の不意打ちと勢いに、和貴は浴室入り口ののれんを突き破り床に転がった。

 拓也は勢いのまま馬乗りになり、こぶしを振り上げる。

「お前は、お前っ!!」

 突き上げてくる感情を理解できぬまま、拓也はこぶしを振るった。



 やれた? やれただって?

 そんな風に他人に言うことなのか?

 言えてしまえることなのか?

 こんなこと、彼女が知ったらどう思うか。

「最低だ!! クソ、お前なんか」

 振り下ろした2発目は首のひねりでかわされた。

 続けた3・4発目は右、左とあっという間に手首を取られる。

「離せよ! やっぱりお前は」

「バカ、よせよ冗談だって!」

「冗談じゃない! お前は何もわかってない!」

 腕を振りほどこうと力いっぱい振り回したが、髪の毛一本ほども緩まない。

 やはり力では勝てないのか。

 なんとしてでも一矢報いたいのに。こんな男に純情を捧げた深雪のためにも。

 何が冗談であるものか。冗談じゃ―――

「えっ、冗談?」

 〝冗談〟を三度、口の中で繰り返す。そこでやっと我にかえった。

「…………」

(冗談……。えーと……、冗談、だったんだ。つまり)

 冗談て……どこから冗談なんだ?

「どこからも何も、全部だよ。お前があんまり神妙になるから……」

 冗談でも言って場を和ませようと考えたのだが、こんなに怒るとは思わなかった。

 場を和ませようと考えている人間には到底思えない。そっけなさを含んだ真面目顔で和貴は答えた。

「お前……。言っていい冗談と悪い冗談があるだろ」

「悪いほうだった? そりゃ悪かった。あんま慣れてなくて……」

 通った鼻筋、シャープな顎。彫像のように整った非の打ちどころのない容姿。

 こんな綺麗な顔ではどうやっても冗談にならなさそうだ。

 それでも微かに、人間らしさを表現してみせた和貴を、不思議な生き物を見るように拓也はまじまじと見つめた。

(こいつが僕を、笑わせようとしたってのか? 噂じゃ、もっと――)

「お前って……」

 何と形容していいのか迷ってしまう。

 噂では、口よりも先に手が出る。粗野な単細胞だと聞いていた。

 でも目の前のこの男はそんな人物像とは対極だ。

 こんなに不器用な男に、冷徹漢が務まるのか?

 好人物とまではいかないが、極悪人には程遠い気がする。

 おもしろい奴、変な奴、バカな奴……何が当てはまるかと、いくつか思い浮かべた。

 だが、どれもしっくりこない。

 ともかく悪人ではなさそうなんだが……




「うわーーーーっ、藤原!!?」

「ん?」

「お前何やってんだ! 気でも違ったか!?」

 叫んだのは源一郎みなもといちろう。B組のクラスメイトだ。

 男湯の暖簾の隙間から口をあんぐりと開け、驚愕のまなざしでこちらを指差している。

「ちょっとぉ、源君うるさいよ。先生来ちゃうじゃんって……きゃーーっ!!」

「何なんだよ揃って、てでかい声うおっ!」

 代わる代わる次々と上がる悲鳴。

 一郎の悲鳴を聞きつけて、続々と集まったギャラリーたちの頭が暖簾を突き破る。

 その数は見る間に入り口の面積に迫り、とうとう体ごと十人近くが転がり込んできた。

 みんなの視線をたどると、現実が待っている。

 パンツ一丁の同級生を押し倒して、馬乗りに跨っている自分……

 捕らえられたままの両腕が、和貴の抵抗の後を物語っている。

「違う違う違うっ!! そんなんじゃないって、ちがうから!」

 慌てて両手を左右に振って否定する。

「言い訳はどいてからにしろよ」

「あっ、ああごめん」

 意外と冷静な声で、和貴は拓也に行動を促した。

 転げ落ちるように、拓也は身体を引く。 

 そうこうしている間にも、騒ぎを聞きつけたギャラリーは着実に増えつつあった。




「ねぇなに? どうしたの?」

「藤原が、浜崎襲ったって」

「うそっ!?」

「てゆーか浜崎、いいカラダしすぎじゃない?」

「だから藤原……?」

「ちがーーう! さっきのは、偶然なんだ!」

「どんな偶然で、馬乗りになんかなるんだよ……」

 どこの誰かのツッコミで、集団はざわめきを増した。

 騒ぎを尻目に、和貴はさっさと浴場へと引き上げた。

「おいっ、浜崎、逃げないでくれよ! 一緒に説明して」

「やだよ。こんな格好で」

 確かに、和貴は下着姿だった。でも、誤解を解いてくれないと困る。

 拓也一人では、何を訴えても信憑性に欠ける。

 拓也が和貴に追いすがろうとすると、またもや野次馬にどよめきが走った。

「ほんとだ、やっぱり!」

「じゃ藤原、植田さんじゃなくて浜崎を?」

「んなわけないだろ、僕はちゃんとっ」

「あの浜崎に力ずくで迫るなんて、どんだけ思いつめてたんだよ」

「藤原カワイソー」

「にしても、すげー度胸だな」

「だからぁ! 違うって言ってるだろがぁーー!」











 拓也の絶叫のすぐ後に、教師のものらしい一喝が浴室の中まで響いてきた。



「悪いな。藤原……」



 ざわめきが徐々に収束してゆく様子を耳にして、一人で湯船につかりながら、和貴はぽつりと拓也に詫びた。

「ふー……」っと、深い嘆息を漏らす。

 これでようやく、一件落着だ。

 このセンセーショナルなニュースの前では、深雪との一件も霞んでしまうことだろう。

 濡れた髪の先からぽたり、と湯に雫が落ちる。

 和貴は一人で独占した湯船の縁に肘をかけ、天井を見上げた。
 
 和貴がここまでの展開を計算した上で拓也を挑発したかどうかは、本人のみの知るところである。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

神様の手違いで、おまけの転生?!お詫びにチートと無口な騎士団長もらっちゃいました?!

カヨワイさつき
恋愛
最初は、日本人で受験の日に何かにぶつかり死亡。次は、何かの討伐中に、死亡。次に目覚めたら、見知らぬ聖女のそばに、ポツンとおまけの召喚?あまりにも、不細工な為にその場から追い出されてしまった。 前世の記憶はあるものの、どれをとっても短命、不幸な出来事ばかりだった。 全てはドジで少し変なナルシストの神様の手違いだっ。おまけの転生?お詫びにチートと無口で不器用な騎士団長もらっちゃいました。今度こそ、幸せになるかもしれません?!

天然だと思ったギルド仲間が、実は策士で独占欲強めでした

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話+後日談7話⭐︎ ギルドで働くおっとり回復役リィナは、 自分と似た雰囲気の“天然仲間”カイと出会い、ほっとする。 ……が、彼は実は 天然を演じる策士だった!? 「転ばないで」 「可愛いって言うのは僕の役目」 「固定回復役だから。僕の」 優しいのに過保護。 仲間のはずなのに距離が近い。 しかも噂はいつの間にか——「軍師(彼)が恋してる説」に。 鈍感で頑張り屋なリィナと、 策を捨てるほど恋に負けていくカイの、 コメディ強めの甘々ギルド恋愛、開幕! 「遅いままでいい――置いていかないから。」

【完結】異世界転移したら騎士団長と相思相愛になりました〜私の恋を父と兄が邪魔してくる〜

伽羅
恋愛
愛莉鈴(アリス)は幼馴染の健斗に片想いをしている。 ある朝、通学中の事故で道が塞がれた。 健斗はサボる口実が出来たと言って愛莉鈴を先に行かせる。 事故車で塞がれた道を電柱と塀の隙間から抜けようとすると妙な違和感が…。 気付いたら、まったく別の世界に佇んでいた。 そんな愛莉鈴を救ってくれた騎士団長を徐々に好きになっていくが、彼には想い人がいた。 やがて愛莉鈴には重大な秘密が判明して…。

ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました

大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――

冷徹団長の「ここにいろ」は、騎士団公認の“抱きしめ命令”です

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー全16話+後日談5話⭐︎ 王都最硬派、規律と責任の塊――騎士団長ヴァルド・アークライトは、夜の見回り中に路地で“落とし物”を拾った。 ……いや、拾ったのは魔物の卵ではなく、道端で寝ていた少女だった。しかも目覚めた彼女は満面の笑みで「落とし物です!拾ってくださってありがとうございます!」と言い張り、団長の屋敷を“保護施設”だと勘違いして、掃除・料理・当番表作りに騎士の悩み相談まで勝手に開始。 追い出せば泣く、士気は落ちる、そして何より――ヴァルド自身の休息が、彼女の存在に依存し始めていく。 無表情のまま「危ないから、ここにいろ」と命令し続ける団長に、周囲はざわつく。「それ、溺愛ですよ」 騎士団内ではついに“団長語翻訳係”まで誕生し、命令が全部“愛の保護”に変換されていく甘々溺愛コメディ!

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件

三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。 ※アルファポリスのみの公開です。

辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました

腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。 しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。

処理中です...