「私に愛まで望むとは、強欲な女め」と罵られたレオノール妃の白い結婚

きぬがやあきら

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家庭教師

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 リュシエンナは脇目を降らず、レオノールの前に進み出て恭しく膝を曲げる。

 静かながら鋭い眼光をこちらに向けると、キリ、とズレたメガネの位置を戻し、ふと視線を上から下まで流す。

 レオノールの纏う深紅の古風なドレスを――丸みを強調したダルマデザインのため、どう見ても動きづらそうで、似合っているとは言い難い。

 夫人の瞳が一瞬だけ細くなり、微かに光を宿す。

 だが、その口から感想めいた言葉は一切出なかった。

「初めまして、リュシエンナ夫人。レオノールです。お目にかかれて嬉しいです」

 見るからに厳しそうなご婦人に、吟味するような視線を注がれても、レオノールは動じない。

 いつもの調子でにこやかに挨拶を返した。

 ……が、握手のために差し出した手は黙殺される。

「失礼、妃殿下。初対面の相手に握手を求めるのは淑女の作法としては些か型破りといえます。それと、私は単なる訪問者ではなく王太子殿下の命により遣わされました家庭教師ガヴァネスです。そのように気安く名前を呼ばれては困ります」

 眉を顰めてリュシエンナは嗜める。

(家庭教師だって?)

 レオノールは内心で舌を巻いた。

 これまでの態度から、クラウディオから良く思われていないとは理解していた。

 けれど、そこからまさか、レオノールに家庭教師をつける発想をするとは。

 クラウディオの高潔、潔癖なイメージそのまんまの戦略だ。

「では、どう呼べば?」

「ベーレンドルフ夫人、と。そして丁寧な言葉遣いを心がけてください。貴女は妃殿下なのですから」

 夫人の声音は厳しい。口調は堅く、隙を与えない。

「私の使命は、妃殿下を王太子殿下に相応しい淑女として磨き上げることです。ほまれ高い殿下の伴侶となられたのですから、模範となる振る舞いを身につけていただきます」

(クラウディオ様ってばまた、すっごく堅そうなご夫人を派遣してくれたもんね)

 レオノールは内心でウヘェと呻いた。

 けれどそれを表に出せばどんな非難を受けるかくらいは想像に難くない。

 表裏のない性格を自負しているレオノールだが、それくらいの算段は働く。

 この結婚に最も乗り気だった人物は、意外にもクラウディオの生母である皇后陛下だった。

 皇后は勇者が王家の子孫を遺すことによる箔付けを大層期待しているらしく、レオノールに対しては非常に友好的であった。

 むしろレオノールに望む役割はその一点だけだと言ってもいい。

 だから礼儀作法の一切も強要されず、ここまで来てしまった。

 ……けれど、クラウディオがレオノールを嫌うところはこの辺にもあるのかもしれない。



 ”——戦場帰りの女丈夫が望んだからといって、その夜伽の褒美として俺を与えるなど、屈辱にもほどがある。俺がそう考えるとは……露ほども思わなかったか”




 あの晩、クラウディオはそう言っていた。
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