「私に愛まで望むとは、強欲な女め」と罵られたレオノール妃の白い結婚

きぬがやあきら

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 リュシエンナの口調は有無を言わせぬ厳しさを帯びていた。

「かしこまりました……っ」

 シャヘルは青褪めて即座に踵を返し駆け出す。

 だが途中で足を止め振り返ると、恨めしげな目でレオノールを睨みつけた。

「でも、私が望んでしたんじゃありません。私は先輩方から命じられただけなんです」

 言い訳なのか、捨て台詞なのか、けしからん恨み言を残してシャヘルは去った。

「殿下より妃殿下に十分な配慮がない場合は即時報告をし、状況によっては処罰の権利まで与えられています。人員を入れ替えますので、ご安心ください」

 リュシエンナは眼鏡の位置を整えつつ嘆息すると、頭を下げた。

 ただでさえ礼儀作法に疎いのに、リュシエンナの態度が教師と臣下を行き来して、返し方がわからない。

「私としては可愛がってるつもりだったので複雑ですが、ご厚意に感謝します」

「使用人の躾は、女主人の威厳を支える大切な務め。王城勤めの使用人たちは厳選されておりますが、それでもきっかけがあれば悪心を起こす者もおります。あの者たちを増長させた責任は、妃殿下にもあるのです」

 多分、この国で一番腕っぷしの強いレオノールにとっては、城勤めの誰もが小動物のようにか弱い生き物だった。

 ”凍てつく波動”を使えば猛獣をも縮み上がらせられる。

 ちょっと怒鳴れば”咆哮”となり、手でも上げようものなら即死だ。

 だから、優しくしてやらねばと考えていたが、リュシエンナの指摘もまた事実だ。

 元勇者であっても、今は王太子妃なのだから。

「私が浅はかでした。ごめんなさい」

 レオノールは頷き、反省した。

 レオノールがきちんとシャヘルを導けていれば、あの子達は罷免されずに済んだはずだ。

「お分かりいただければ結構です。妃殿下は優雅さとはかけ離れていますが、お人柄と素直さは美徳だと思いますよ」

 厳しく指導しながらも、合間にきちんと承認を挟む。

 リュシエンナは優秀な教育者だった。

 彼女の指導のもと、その日からレオノールは王太子妃たる人物の在るべき姿を学ぶこととなる。

 そこからはまた、目まぐるしく状況が一変した。

 身辺の人員を入れ替えるのだから当然だ。

 侍女長を伴ったシャヘルが戻り、リュシエンナの叱責の後、各人に新しい配置が割り当てられた。

 いきなりクビにされるわけでもなさそうだったので、その点はホッとした。

「メリッサと申します。至らぬところもあろうかと存じますが、精一杯お仕えいたします」

 ほどなくして、淡い栗色の髪と目を持つメリッサがレオノール付きの侍女と決まった。

 くるくるとした癖毛と大きな瞳はあどけなく感じられるが、真っ直ぐにレオノールを見上げる表情には誠実さがあった。

 少々おっかないリュシエンナと比べると、どんな動作もいちいち可愛らしい。

 イメージは森の子リスそのものだ。

「よろしくね、コリスちゃん」

とお呼びください、妃殿下。今後一切、おふざけは禁じます」

「はぁい……ベーレンドルフ夫人」

 リュシエンナとレオノールのやり取りに、いきなり面食らったメリッサだったが、仕事ぶりは中々のものだった。

 まず、メリッサはレオノールをダルマ姿から解放してくれた。
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