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レオノールのおもてなし・クラウディオ視点
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アルヴァロも意図を図りかねていたが、羽飾りを取り外して手渡した。
「もちろん、妃殿下に使っていただけるなら光栄です」
その目は期待に輝いていた。
レオノールが何をしても喜んで受け入れるつもりらしい。
「ちょっとお借りしますね」
レオノールは羽をひらりと翻すと、並べられたワインのボトルに目を走らせた。
「ねえ、貴女たち。そうね、5人くらい。ワインを持って、そこに並んで」
悪戯っぽい笑みを浮かべて指示すれば、困惑しつつも控えていた侍女たちがワインボトルを手に横並びになる。
「手は少し前に、そう、差し出すようにして持っていてね」
誰しも意味が分からず困惑しているのに、口を挟むことなくレオノールの指示に従っている。
彼女の声には不思議な説得力があって、周囲は無条件に従ってしまうのだ。
クラウディオもそれを痛感しながら見守っていると、ふわりと一歩を踏み出す。
舞のような軽やかな足取りに合わせて赤い髪が揺れると、空気さえ澄み渡るような静けさが広間を包んだ。
レオノールは羽先で並べられたワインのボトルにそっと触れて周る。
一見すればただの優雅な仕草だけれど、その瞬間、小気味良い破裂音が会場に響いた。
――ポンッ。
澄んだ音を合図に、一本目のコルクが宙へと舞う。
えっ、と声を上げる間もない。
続けて二本、三本と、まるで彼女の舞に合わせるように順に弾け飛んでいった。
ポン、ポンッ、ポポポンッ!
高く弧を描いたコルクは、天井近くの燭台の光を遮り、観衆の目は釘付けになる。
だがそれだけでは終わらない。
続けて噴き上がった赤ワインは、サァアアーーと深い赤紫色の流線を描き、居並ぶ賓客たちに降り注いだ。
深みある紅は夕暮れの空のようで、シャンデリアの灯りを浴びて宝石のようにきらめいた。
「わあぁ……」
驚きに目を奪われ、誰もが降り注ぐワインを浴びるやもしれないなどと、危惧しない。
心配したのは、クラウディオくらいだろう。
たとえ危惧して、あっと拳を握ったところで、四方に散るワインの雫を受け止める術などなかったが。
しかし、結果的には誰一人その滴を浴びはしない。
どんな原理なのか。
摩訶不思議であるが、レオノールが滑るような所作で羽を振るたび、赤ワインの飛沫は光に包まれて弧を描き、空いている卓上の器へと導かれていく。
それは制御というより、舞台に描かれた計算された美の演出のようだった。
やがて宙を舞ったワインの全てが器に収まると、会場は水を打ったように静まり返った。
時が止まった室内でただ一人、レオノールだけが蝶の如く、軽やかに羽を翻す。
舞を締めるようにレオノールは軽く膝を折って、まず上座の両陛下へ一礼した。
「お借りいたしました。ありがとうございます、アルヴァロ王子」
それから旅の一座の舞姫よろしく、アルヴァロに羽飾りを差し出した。
「は……これは、何と! 何と、見事な」
アルヴァロは夢から醒めたようにぱちぱちと拍手し始めると、会場全体が割れんばかりの喝采に包まれる。
「もちろん、妃殿下に使っていただけるなら光栄です」
その目は期待に輝いていた。
レオノールが何をしても喜んで受け入れるつもりらしい。
「ちょっとお借りしますね」
レオノールは羽をひらりと翻すと、並べられたワインのボトルに目を走らせた。
「ねえ、貴女たち。そうね、5人くらい。ワインを持って、そこに並んで」
悪戯っぽい笑みを浮かべて指示すれば、困惑しつつも控えていた侍女たちがワインボトルを手に横並びになる。
「手は少し前に、そう、差し出すようにして持っていてね」
誰しも意味が分からず困惑しているのに、口を挟むことなくレオノールの指示に従っている。
彼女の声には不思議な説得力があって、周囲は無条件に従ってしまうのだ。
クラウディオもそれを痛感しながら見守っていると、ふわりと一歩を踏み出す。
舞のような軽やかな足取りに合わせて赤い髪が揺れると、空気さえ澄み渡るような静けさが広間を包んだ。
レオノールは羽先で並べられたワインのボトルにそっと触れて周る。
一見すればただの優雅な仕草だけれど、その瞬間、小気味良い破裂音が会場に響いた。
――ポンッ。
澄んだ音を合図に、一本目のコルクが宙へと舞う。
えっ、と声を上げる間もない。
続けて二本、三本と、まるで彼女の舞に合わせるように順に弾け飛んでいった。
ポン、ポンッ、ポポポンッ!
高く弧を描いたコルクは、天井近くの燭台の光を遮り、観衆の目は釘付けになる。
だがそれだけでは終わらない。
続けて噴き上がった赤ワインは、サァアアーーと深い赤紫色の流線を描き、居並ぶ賓客たちに降り注いだ。
深みある紅は夕暮れの空のようで、シャンデリアの灯りを浴びて宝石のようにきらめいた。
「わあぁ……」
驚きに目を奪われ、誰もが降り注ぐワインを浴びるやもしれないなどと、危惧しない。
心配したのは、クラウディオくらいだろう。
たとえ危惧して、あっと拳を握ったところで、四方に散るワインの雫を受け止める術などなかったが。
しかし、結果的には誰一人その滴を浴びはしない。
どんな原理なのか。
摩訶不思議であるが、レオノールが滑るような所作で羽を振るたび、赤ワインの飛沫は光に包まれて弧を描き、空いている卓上の器へと導かれていく。
それは制御というより、舞台に描かれた計算された美の演出のようだった。
やがて宙を舞ったワインの全てが器に収まると、会場は水を打ったように静まり返った。
時が止まった室内でただ一人、レオノールだけが蝶の如く、軽やかに羽を翻す。
舞を締めるようにレオノールは軽く膝を折って、まず上座の両陛下へ一礼した。
「お借りいたしました。ありがとうございます、アルヴァロ王子」
それから旅の一座の舞姫よろしく、アルヴァロに羽飾りを差し出した。
「は……これは、何と! 何と、見事な」
アルヴァロは夢から醒めたようにぱちぱちと拍手し始めると、会場全体が割れんばかりの喝采に包まれる。
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