「私に愛まで望むとは、強欲な女め」と罵られたレオノール妃の白い結婚

きぬがやあきら

文字の大きさ
54 / 149
蜂の光明

しおりを挟む
「いや、レオが見慣れない格好をしてるから、なんかちょっと、戸惑うっていうか……」

「何それ? 似合ってない? これでも1ヶ月、みっちり特訓したのよ。クラウディオ様がね、私に先生を呼んでくれて」

「知ってる。昨日も大広間で見かけたしね。サマになってて驚いたよ。いきなり無茶振りされるのは勘弁だったけど」

「ごめんね。でも合わせてくれて助かった~。ありがとう! あの時さ、アルヴァロ王子がいきなり、クラウディオ様に飲み比べをしようとか言い出して、どっちが勝っても角が立つでしょ? だからどうにかして気を逸らそうと思ったわけよ。それで……あっ、勝負。せっかく人が上手く納めようと思ってたのに、あの人結局勝負を受けちゃったの。今度は狩りでどっちが大物を仕留めるかって」

 昨夜、祝宴が催された大広間でセレスの姿を見つけ、あの演出を思いついた。

 セレスは水の魔法を得意としている。

 いい塩梅に収拾させてくれるだろうと丸投げしてみたが、素晴らしい仕上がりにしてくれた。

 懐かしい友とのやり取りで気が緩んだのか、次から次へと話題が溢れて止まらない。

 日常生活では他者に明かせない思いを、意外にも溜め込んでいたんだなあと、自分でも驚く。

「それでか。狩りなんて余興なのに、団長は随分と本気モードだったもんね」

「クラウディオ様を見た? それが酷いんだよ、クラウディオ様が勝ったら明日の視察から私を外すって言うのよ」

 レオノールとしては自分の身に起きた悲劇に共感して欲しくて話題を投げかけた。

「そりゃあ、ね。クラウディオ様からしたら……」

 けれどセレスはわずかに眉根を寄せたものの、困ったような笑みを浮かべるだけで、同意してくれない。

 聞き上手のセレスならきっと一緒に憤慨してくれると思ったのに。

 ”酷いと思うでしょ? ね?”

 不満なレオノールはもう一度共感を求めようとしたが、開いた口から声は出なかった。

 鼓膜をわずかに震わせた足音に、違和感を覚えたからだ。

 レオノールは耳がいい。

 どれくらいの距離があるか、どういった類の足音なのかを目を閉じて瞬時に分析する。

 そうすれば、どうして違和感があるのかを突き止められる。

 ドドッ、と重量感のある足音に、複数の蹄、狩猟犬の足音が混じっている。

 合間に叫ぶような声も響く。

(4人? いやそれ以上。1キロ、800、700メートル、早い。こちらへ向かってる――)

 狩猟会なのだから、狩猟犬は獲物を追い立て、狩人はそれを追う。

 だが、耳に入る雑音は、獲物を追うような余裕のあるものではなかった。

 規則性はなく、バラバラで、むしろ追い立てられているようだ。

 違和感を異常だと確信し、目を開ける。

 セレスも異変を察知して、レオノールの分析を待っていた。

「タチの悪い獲物を追ってるみたい。広場へ突っ込む前なら、応戦しても良いよね」

「りょーかい。ワルい顔してんね、勇者様」

 室内にこもってばかりだったし、狩りからも外されて、に飢えていた。

 レオノールがペロリと舌なめずりするのを見て、セレスは苦笑する。

 踏み出して右足から3歩。

 一気にフルスピードまで加速した。
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。

黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」 豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。 しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。

『外見しか見なかったあなたへ。私はもう、選ぶ側です』

鷹 綾
恋愛
「お前のようなガキは嫌いだ」 幼く見える容姿を理由に、婚約者ライオネルから一方的に婚約を破棄された 公爵令嬢シルフィーネ・エルフィンベルク。 その夜、嫉妬に狂った伯爵令嬢に突き落とされ、 彼女は一年もの間、意識不明の重体に陥る――。 目を覚ました彼女は、大人びた美貌を手に入れていた。 だが、中身は何ひとつ変わっていない。 にもかかわらず、 かつて彼女を「幼すぎる」と切り捨てた元婚約者は態度を一変させ、 「やり直したい」とすり寄ってくる。 「見かけが変わっても、中身は同じです。 それでもあなたは、私の外見しか見ていなかったのですね?」 静かにそう告げ、シルフィーネは過去を見限る。 やがて彼女に興味を示したのは、 隣国ノルディアの王太子エドワルド。 彼が見ていたのは、美貌ではなく―― 対話し、考え、異論を述べる彼女の“在り方”だった。 これは、 外見で価値を決められた令嬢が、 「選ばれる人生」をやめ、 自分の意思で未来を選び直す物語。 静かなざまぁと、 対等な関係から始まる大人の恋。 そして―― 自分の人生を、自分の言葉で生きるための物語。 ---

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

王子、おひとり様で残りの人生をお楽しみください!

ちゃっぴー
恋愛
「ラーニャ、貴様との婚約を破棄する!」 卒業パーティーの真っ最中、ナルシストな第一王子ウィルフレッドに身に覚えのない罪で断罪された公爵令嬢ラーニャ。しかし、彼女はショックを受けるどころか、優雅に微笑んで拍手を送った。 なぜなら、ラーニャはとっくに王子の無能さに愛想を尽かし、この日のために完璧な「撤退準備」を進めていたからだ。

身代わりで呪いの公爵に嫁ぎましたが、聖女の力で浄化したら離縁どころか国一番の溺愛妻になりました〜実家が泣きついてももう遅い〜

しょくぱん
恋愛
「お前のような無能は、死神の生贄にでもなっていろ」 魔力なしの無能と蔑まれ、家族に虐げられてきた伯爵令嬢レティシア。 彼女に命じられたのは、近づく者すべてを病ませるという『呪いの公爵』アレクシスへの身代わり結婚だった。 鉄格子の馬車で運ばれ、たどり着いたのは瘴気に満ちた死の城。 恐ろしい怪物のような男に殺される――。 そう覚悟していたレティシアだったが、目の前の光景に絶望よりも先に別の感情が湧き上がる。 (な、何これ……汚すぎるわ! 雑巾とブラシはどこ!?) 実は、彼女が「無能」と言われていたのは、その力が『洗浄』と『浄化』に特化した特殊な聖女の魔力だったから。 レティシアが掃除をすれば、呪いの瘴気は消え去り、枯れた大地には花が咲き、不気味だった公爵城はまたたく間にピカピカの聖域に塗り替えられていく。 さらには、呪いで苦しんでいたアレクシスの素顔は、見惚れるほどの美青年で――。 「レティシア、君は一体何者なんだ……? 体が、こんなに軽いのは初めてだ」 冷酷だったはずの公爵様から、まさかの執着と溺愛。 さらには、呪いが解けたことで領地は国一番の豊かさを取り戻していく。 一方で、レティシアを捨てた実家は、彼女の『浄化』を失ったことで災厄に見舞われ、今さら「戻ってきてくれ」と泣きついてくるが……。 「私は今、お城の掃除と旦那様のお世話で忙しいんです。お引き取りくださいませ」 これは、掃除を愛する薄幸令嬢が、その愛と魔力で死神公爵を救い、最高に幸せな居場所を手に入れるまでのお話。

乙女ゲームは始まらない

みかん桜
恋愛
異世界転生した公爵令嬢のオリヴィア。 婚約者である王太子殿下の周囲に、乙女ゲームのヒロインを自称する女が現れた。 だが現実的なオリヴィアは慌てない。 現実の貴族社会は、物語のように優しくはないのだから。 これは、乙女ゲームが始まらなかった世界の話。 ※恋愛要素は背景程度です。

『身代わりに差し出された令嬢ですが、呪われた公爵に溺愛されて本当の幸せを掴みました』

鷹 綾
恋愛
孤児院で「九番」と呼ばれ、価値のない存在として育った少女ノイン。 伯爵家に引き取られても待っていたのは救いではなく、実の娘エミリアの身代わりとして、“呪われた化け物公爵”フェルディナンドの婚約者に差し出される運命だった。 恐怖と嘲笑の中で送り出された先で出会ったのは―― 噂とは裏腹に、誰よりも誠実で、誰よりも孤独な公爵。 角と鱗に覆われたその姿は、血筋ではなく、長年にわたる呪いと心の傷によるものだった。 そしてノインは気づく。 幼い頃から自分が持っていた、人の痛みを和らげる不思議な力が、彼の呪いに届いていることに。 「身代わり」だったはずの婚約は、やがて 呪いと過去に向き合う“ふたりだけの戦い”へと変わっていく。 孤独を知る公爵と、居場所を求めてきた少女。 互いを想い、手を取り合ったとき―― 止まっていた運命が、静かに動き出す。 そして迎える、公の場での真実の発表。 かつてノインを蔑み、捨てた者たちに訪れるのは、痛快で静かな“ざまぁ”。 これは、 身代わりの少女が本当の愛と居場所を手に入れるまでの物語。 呪いが解けた先に待っていたのは、溺愛と、何気ない幸せな日常だった。

腹違いの妹にすべてを奪われた薄幸の令嬢が、義理の母に殴られた瞬間、前世のインテリヤクザなおっさんがぶちギレた場合。

灯乃
ファンタジー
十二歳のときに母が病で亡くなった途端、父は後妻と一歳年下の妹を新たな『家族』として迎え入れた。 彼らの築く『家族』の輪から弾き出されたアニエスは、ある日義母の私室に呼び出され――。 タイトル通りのおっさんコメディーです。

処理中です...