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恋の足音
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「いでででで、む、無理っ、やめて……」
頭蓋骨を砕かんばかりの握力に男は涙目になった。
これっぽっちで泣きを入れるなんて情けない。
「コイツ、イルデを放せよ!」
「クソ女、俺たちを誰だと思ってるんだ!」
イルデ以外の2人がレオノールの肩や腕を掴んで引き離そうとする。
しかしその力の、なんと非力なことか。
猫じゃらしくらいの細やかさで、くすぐったいくらいの抵抗だ。
「さあ、何処のどなたかトント」
「ギデオン家のーーボルノ……ウッ、わ!」
「グフゥ、く……や、やめてヤメて、うああぁあぁーっ」
背中にへばり付いたボルノを左手でひっぺがし、上空へ放り投げる。
イルデの頭を掴んだ手を開くと、もう気を失ったのか崩れ落ちる。
右腕に取り憑いていたもう1人は、振り回す勢いでボルノに投げつける。
派手な音を立てて重なって落下する。
地面に激突するすんでのところで受け止めてやった。
「エッ……い、生きてる……!!」
2人を草の上に転がすと、息も絶え絶えになったボルノが呆然と呟く。
茫然自失となったもう1人は寝そべったまま胸を上下させ、ぼうっと虚空を見上げていた。
「うん。死なないように加減したのよ」
「は……そうだろ。ギデオン家を敵に回したらどうなるか……わかっているようだな」
気絶したフリだったのか、もう覚醒したのか。
こんな状況ながら、虚勢を張ったのはイルデだった。
イルデは這いつくばった体勢から、どうにか顔だけを持ち上げる。
「そんなん知らないよ。けどさ、誰がタダで帰すなんて言った? 下品な言葉で貶められて、私もあの人もすっごく傷ついたのよ」
レオノールはしゃがみこんで深緑色の、上品なタイを掴み上げた。
エッ? と、目論見が外れて、イルデは途端に蒼白になる。
ただでさえ頭を締め付けられた後だから、白を通り越して土気色へと変色していく。
気の毒な気もするが相手を理解せずに喧嘩を売る、この子らの今後のためにも、多少過激な教育的指導は必要だ。
「オトシマエって、知ってる? お坊ちゃん」
レオノールは半眼でイルデを見下ろし、ゆっくりと問いかける。
その後はレストハウスで、腹がはち切れるくらい散々に飲み食いしてやった。
勿論、ギデオン兄弟の奢りでだ。
クラウディオは呆れていたけど、レオノールは2人きりではない巡り合わせにどこかホッとしてもいた。
***
10杯目のレモネードを飲み干したところで、ギデオン兄弟は解放された。
3人そろって引きつった同じ笑顔で「ご機嫌よう、お姉様」と逃げ去る兄弟の姿は実に趣が深かった。
レオノールにばかり気を取られて、クラウディオの正体にすら気づかない様も新鮮で滑稽だ。
テーブルの上には食べ散らかした料理と笑いの残滓が残っている。
焼き鳥の串が何本も皿に積まれ、冷めたポタージュが風にゆれていた。
クラウディオとレオノールの2人は、旅人を含め、庶民も利用するレストハウスの中でも、上等な個室に案内された。
ギデオン侯爵家はこの辺りで随分と幅を利かせているらしい。
店の者らも“王太子クラウディオ”や“勇者レオノール”の正体には気づかず、ギデオン三兄弟を大事にもてなしているのだから、お忍びとは実に貴重な体験だ。
「まさか“ケジメ”をこんな形でつけるとは思わなかった」
そう言って微笑んだ自分の声が、思いのほか柔らかく響いた。
頭蓋骨を砕かんばかりの握力に男は涙目になった。
これっぽっちで泣きを入れるなんて情けない。
「コイツ、イルデを放せよ!」
「クソ女、俺たちを誰だと思ってるんだ!」
イルデ以外の2人がレオノールの肩や腕を掴んで引き離そうとする。
しかしその力の、なんと非力なことか。
猫じゃらしくらいの細やかさで、くすぐったいくらいの抵抗だ。
「さあ、何処のどなたかトント」
「ギデオン家のーーボルノ……ウッ、わ!」
「グフゥ、く……や、やめてヤメて、うああぁあぁーっ」
背中にへばり付いたボルノを左手でひっぺがし、上空へ放り投げる。
イルデの頭を掴んだ手を開くと、もう気を失ったのか崩れ落ちる。
右腕に取り憑いていたもう1人は、振り回す勢いでボルノに投げつける。
派手な音を立てて重なって落下する。
地面に激突するすんでのところで受け止めてやった。
「エッ……い、生きてる……!!」
2人を草の上に転がすと、息も絶え絶えになったボルノが呆然と呟く。
茫然自失となったもう1人は寝そべったまま胸を上下させ、ぼうっと虚空を見上げていた。
「うん。死なないように加減したのよ」
「は……そうだろ。ギデオン家を敵に回したらどうなるか……わかっているようだな」
気絶したフリだったのか、もう覚醒したのか。
こんな状況ながら、虚勢を張ったのはイルデだった。
イルデは這いつくばった体勢から、どうにか顔だけを持ち上げる。
「そんなん知らないよ。けどさ、誰がタダで帰すなんて言った? 下品な言葉で貶められて、私もあの人もすっごく傷ついたのよ」
レオノールはしゃがみこんで深緑色の、上品なタイを掴み上げた。
エッ? と、目論見が外れて、イルデは途端に蒼白になる。
ただでさえ頭を締め付けられた後だから、白を通り越して土気色へと変色していく。
気の毒な気もするが相手を理解せずに喧嘩を売る、この子らの今後のためにも、多少過激な教育的指導は必要だ。
「オトシマエって、知ってる? お坊ちゃん」
レオノールは半眼でイルデを見下ろし、ゆっくりと問いかける。
その後はレストハウスで、腹がはち切れるくらい散々に飲み食いしてやった。
勿論、ギデオン兄弟の奢りでだ。
クラウディオは呆れていたけど、レオノールは2人きりではない巡り合わせにどこかホッとしてもいた。
***
10杯目のレモネードを飲み干したところで、ギデオン兄弟は解放された。
3人そろって引きつった同じ笑顔で「ご機嫌よう、お姉様」と逃げ去る兄弟の姿は実に趣が深かった。
レオノールにばかり気を取られて、クラウディオの正体にすら気づかない様も新鮮で滑稽だ。
テーブルの上には食べ散らかした料理と笑いの残滓が残っている。
焼き鳥の串が何本も皿に積まれ、冷めたポタージュが風にゆれていた。
クラウディオとレオノールの2人は、旅人を含め、庶民も利用するレストハウスの中でも、上等な個室に案内された。
ギデオン侯爵家はこの辺りで随分と幅を利かせているらしい。
店の者らも“王太子クラウディオ”や“勇者レオノール”の正体には気づかず、ギデオン三兄弟を大事にもてなしているのだから、お忍びとは実に貴重な体験だ。
「まさか“ケジメ”をこんな形でつけるとは思わなかった」
そう言って微笑んだ自分の声が、思いのほか柔らかく響いた。
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